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神のいたずら

 アストラにいきさつを説明してから。


 ポロンはエレナに、さっきの話だけどね、と切り出した。



「もう一度、確認をしたいからさ、向こうからアタシに向かって、火炎(ファイア)を使ってみてくれないかい?」


「はい。分かりました」



 何の確認だろう? と思いながら、エレナはポロンから離れたところへ走って行った。


 杖を片手に魔法を放つ。


 手のひらくらいの大きさの火が、ポロンに向かって飛んだ。彼女はそれを初級の水魔法でなんなく消火した。



 ポロンはうなずいてから、横に立つユーティスに何やら耳打ちし、再びこちらを向いた。



「じゃあ、次は、想像してみな」


 突然ポロンは怖い顔をし、杖の先をユーティスに向けた。



「アタシはこの男を殺そうとしている敵だ。アンタが倒さないと、彼は死ぬ。それを意識して魔法を使ってみるんだ」


 エレナは一瞬どきりとした。そんな恐ろしい状況は想像したくもない。しかしポロンは、より殺気立った目をして、


「早くしな!」


と、エレナの攻撃を待っている。仕方なく彼女は言われた通りにしようと思った。



 危機的な場面を想像すると、エレナの目付きが鋭く変わった。


 緊迫した空気は、本物の戦闘さながらだ。彼女はポロンを睨み、大声を上げながら杖を振った。



火炎(ファイア)!!」


 すると、先ほどとは比べ物にならないくらい大きな炎が、ポロンを襲った。


 彼女はすぐに上級の水魔法を使った。


 横でユーティスも同じ魔法を使う。


 炎は何も焼き尽くすことなく、白い湯気となって消えた。



「これは一体、どういうこと?」


 同じ魔法なのに、威力がまるで違いすぎる。自分がしたことながら、何故こんな現象が起きてしまったのか、ちっとも理解出来なかった。


 考え込んでいると、ポロンたち三人はエレナに近付いてきた。



「やっぱりね。あんたは『レアリア・ド・マキア』だったんだ」


 ポロンが腕を組み、確信したとばかりに言った。



「え? 何ですか、それ」


「この世に稀に現れる、特別な性質を持つ者の総称さ。古代語で『神のいたずら』という意味なんだけどね。アンタもどうやら、その一人らしい」


「特別な性質?」


「ああ、そうさ。アンタは感情によって魔力の量と威力が変化するんだ」


 ポロンはてくてくと歩きながら説明を始めた。



「本来、人の魔力っていうのは、生まれつき量が決まってる。『魔力』はコップに入った『水』みたいなものでね、自分の器に合った量しか持てない。もちろん長年修業すれば、コップが水桶の大きさになることもあるけど、その器を越えた量の魔力が発生することはないんだ」


 エレナとアストラは、真剣に話に聞き入っている。ポロンはエレナを杖で指しながら続けた。



「アタシは長年の経験から、その量を数値として読み取れるんだけどね。エレナ。アンタの場合は、およそ五百。だけどさっき魔法を放った時は、一気に一万まで跳ね上がった。魔力が器を越え、まるで噴水みたく増える。これは前例のないことなんだ」


 そんなに変わった能力が自分にあるのか、とエレナはどきどきした。嬉しいような怖いような複雑な気持ちだ。



「なあなあ、先生! ちなみにユーティスとおれは、どれだけ魔力があるんだ?」


 具体的な数字を聞き、アストラはとても興味が湧いたようだ。わくわくした表情で手を上げ、ポロンに問いかけてきた。


 当たり前のように伝説の大賢者を呼びすてしてしまうのが、この男のすごいところである。


 エレナは彼のその図々しさが、ちょっぴり羨ましかった。



「そうだねぇ。博識の魔法使いは百万、アンタは十だね」


「十!? 全然ねぇな、おれ」


 アストラは見るからにがっかりしていた。魔力がある程度あれば、自分も魔法を使えるかもと、期待したのだろうか。



「あっはっはっは! 元気をお出し! 才能なんてものは、初めから不公平さ。でもそれでいいんだよ。魔法なんて使えなくても、アンタは剣術が優れてるんだからね」


 尻をばしっと叩かれ、アストラは痛そうにその箇所をさすった。だが珍しく誉められて、悪い気はしていないようだ。


ポロンはエレナに視線を移し、話を再開した。



「それでね、普通なら呪文によって魔法の威力が変わるんだけど、アンタの場合は心に強い感情を持った時、その威力が増してしまうらしい。さっきも見た通りにね」


 なるほど、と相づちをうちながら、エレナはこれまでに魔法が成功した時のことを振り返った。



 リリーを助けようとした時。


 ユーティスに魔法のやり方を教わった時。


 ミョルニたちと出会った時。


 キアルスと対峙した時。



 思えば、何かしらの強い気持ちを抱いていた。



「アンタのその性質は、取り扱うのが難しい。心を折られたら、アンタはその瞬間、力を失ってしまうだろう。だからこの先、何があっても負けるんじゃないよ。諦めない限り、アンタの魔力は尽きることはないんだからね」


「はい! ありがとうございます、ポロン先生!」


 はきはきとお礼を言って、エレナは満面の笑みを浮かべた。


 ポロンは目尻を下げてから、ユーティスの顔をじとっと見上げる。



「あとね、博識の魔法使い! アンタ、勝手にエレナをアタシに任せようとしてたけどね、それは無理なんだよ!」


「え? どうしてですか?」


「アタシね、教え子たちを連れて、この国を出ようと思うんだ」

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