交流
一方、食堂にて。
エレナとアストラと近くに座る四人の魔法使いが、ある話題でおおいに盛り上がっていた。
「エレナちゃん、ポロン先生の特訓、一対一で最後までやったのか!?」
やんちゃそうな風貌の男、ベックは目の玉をひんむいて聞いた。
「そうそう。しかも五日連続でやったの。魔法の撃ち合い、何時間もやらなきゃいけなかったから、めちゃくちゃ大変だったよ!」
エレナは苦労を熱く語る。可愛い顔の少年ピートと、眼鏡の少女パティは、たまげた様子で賛辞を述べた。
「ひぇー。あの『無限地獄』に耐えるなんて、根性あるねー」
「すごいわ、ほんと信じられない! 普通なら泣いて謝るか、脱走するところだよ! 実際、何人も訓練場から逃げ出したもんね」
魔法使いたちはうんうんとうなずく。続けて大人びた顔のブレンダが不満たっぷりに言った。
「だいたい先生は、高齢なのにスタミナがありすぎるのよ! 体力が全然もたないわ!」
「二つ名、治癒の魔法使いなのにさ……。回復魔法なんてかけてくれないから、こっちはいつも死にかけなんだよ」
パティも話に乗り、エレナも首を大きく振って同調した。
「うんうん。確かにそうだよね! 私も途中、天国の景色が見えそうになったし!」
「おれなんて関係ねぇのに、ばあさんに何回も落とし穴にはめられたんだぞ! 酷くねぇか!?」
「うわーさすが先生。理不尽だねー」
アストラに向かってピートは半目をし、嫌そうな表情を作った。
──食事もだいぶ終わり、どうやらポロンに対する愚痴大会が始まったらしい。皆、思う所があるようで、かなり白熱している。本人が居ないのをいいことに言いたい放題だ。
ポロンがもし話を聞いていたら、彼らにどんな不幸が舞い込むのかは、容易に想像できる。
今この場に彼女が戻ってこないよう、全力で祈っておこう。
しばらく互いの苦労話をこぼし合った後。
エレナはふと思ったことを、魔法使いたちに尋ねてみた。
「そういえば、みんなには二つ名ってないの?」
眼鏡の片側を中指で持ち上げ、パティが答える。
「そんなのあるわけないじゃない。世間に認めてもらえるような立派な魔法使いにならないと、二つ名はもらえないんだよ」
「俺たちは初級クラスだからな。まだまだ先は長いぜ」
げんなりした顔で遠くを見つめるベック。エレナは励ましを込めた視線を送った。
「そうなんだね。じゃあメルフさんは?」
「ん? 誰?」
ピートが首をかしげる。エレナはすぐに訂正した。
「えっと、博識の魔法使い様は? やっぱりすごいんでしょ?」
「あー。あの人は別格だよ。六つの属性魔法、全部使えるらしいし」
「え? 全部?」
それって、まさか……!!
口を開けたまま、かたかたと拳を震わせている、エレナ。
「おい、どうした? 大丈夫か?」
アストラがじっと顔を覗き込んでくる。
「あっ、いや、何でもない!」
とっさに笑顔でごまかすと、皆からすごく変な目で見られた。
求めていた真実にたどり着き、エレナの胸の音は激しさを増していった。
「そ、それにしても、遅いね! メルフさん、大丈夫かな!?」
エレナがドアを見ながらそわそわして言った。
彼は普段たくさん魔法を使っても、けろっとしているので、余計に不安になってきてしまう。
「まぁ大丈夫だろ。あいつはそんなヤワな奴じゃねぇよ」
全然、心配などしていない調子で、アストラは口をもぐもぐさせながら、主人におかわりを要求している。この男、食べ過ぎではないだろうか。
「それにしてもよ、あのロゼって奴。少し気にならねぇか?」
「え? どういうこと?」
エレナはきょとんとして聞いた。あの誠実そうな第二王子の、何が気になるのだろう。
アストラは怪訝な顔つきで話を続けた。
「うーん。何となくうさん臭いっていうか。よく分かんねぇけど、あいつがエレナを見た時、ちょっとだけ嫌な感じがしたんだよ」
歯切れが悪そうに彼が言うと、その話にブレンダ、ベック、ピートが割って入ってきた。
「えー! ロゼ様は国民の幸せを一番に考える、素晴らしいお方よ! 冗談言わないで!」
「へへ、男の嫉妬はみっともないぜ、アストラ」
「そうだそうだー! エレナちゃんに嫌われるよー?」
「バカ! 嫉妬じゃねぇしっ! 本当だっての!」
アストラは顔を赤くして眉をつり上げたが、魔法使いたちは、けたけたと笑って取り合わない。この短時間で、エレナとアストラはすっかり彼らに馴染んでいた。
そのうちにメルフとポロンも戻ってきて、にぎやかな時は過ぎた。
美味しい食事と楽しいお喋りで、すっかりお腹がいっぱいになった彼らは、月明かりの照らす中、ゆっくりと帰路についたのだった。