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重罪

「キアルスよ。お主、何故ここに居るのだ?」


 目を血走らせながら、マウルは聞いた。キアルスは背筋をぴんと伸ばして、彼に向き直った。



「はい。実はギルドに用事があり、偶然ここを通りかかったのです」


「ほう。そのような戯言(たわごと)が、余に通用するとでも?」


 腹の底から出た声と共に、威圧感が増す。この辺り一帯の空気が、急に冷えたように感じた。キアルスは震え上がって、とたんに情けない顔つきになる。


「お許しください、父上! 今日、オレを殺そうとした奴の仲間が処刑されると聞き、面白そうだったのでつい見に来てしまいました!」


「この愚か者めが! 塔で大人しくしておれと言っておいたであろう!」


「ひぃっ! 申し訳ございません!」


 さっきまで偉そうにしていたのが嘘のように、彼はすっかり縮こまってしまった。



「陛下。お叱りはそれくらいにしておいてください。こちらとしては、殿下を城へ迎えに行く手間が省け、助かりましたから」


 メルフは落ち着きはらった声で言う。


 国王はまだまだ怒り足りない様子だったが、小さくなっている息子を睨みつけるだけにとどめた。



 皆の注目を浴びながら、ではお話しましょう、とメルフは事件の真相を説明し始めた。



「あの夜──キアルス殿下は塔にポロン先生を呼び出して襲いました。そして反撃にあい、護身用の眠り薬で眠らされてしまった。──実際は暗殺など行われていなかったのです。しかし誇り高きあなたは、自分に逆らい恥をかかせた彼女を許せなかった。だから、この暗殺未遂事件をでっち上げたのですね? ポロン先生を抹殺するために」


「ち、違う! オレは本当に、この魔法使いに殺されかけたんだ!」


「では瀕死の状態であったはずのあなたが、どうしてここに居るのですか?」


「それは魔法で治してもらったからだよ! ほら、治癒魔法だったら、大怪我して死にかけてても、ちょちょいと直るだろ?」


 マウルは眉間に深いしわを作り、右手で頭を抱えている。どうやら第一王子は魔法のことに無知らしい。



「残念ですが、それは無理ですね。治癒魔法というのは万能ではない。傷付いた細胞の修復には時間がかかるのです。それにあなたは一つ、大事なことを失念しています」


「は? 何だよそれは」


「あなたもずっとここに居たなら、私たちの話を聞いていたでしょう? 陛下は、はっきりこう認めたはずです。『キアルス殿下を王国全ての魔法使いに会わせていない』、と」


「あ……!」


「ならば、なぜあなたは今、こうして元気にしているのか。答えは簡単です。『怪我などしていなかった』から。暗殺事件の犯人など、最初から存在しなかったのです。全てはキアルス殿下。あなたの自作自演の物語だったのですよ」



 キアルスは何も言い返せず、口をぱくぱくさせている。メルフは彼を厳しい表情で見据えた。


「下らない誇りを守るため、王国中を欺き、無実の魔法使いを殺そうとしたあなたの罪は重い。それは正当に裁かれるべきです」


「しかもそいつは、アタシの魔法の力を利用しようとしたのさ。イスト王国を潰すための道具としてね。……国王陛下。これ以上、まだ殿下をかばうつもりかい?」


 ポロンは強い怒りと少しの憐れみを宿した瞳で、マウルを見上げている。国王は苦虫を噛み潰したような顔で、椅子へもたれかかった。



「分かった。正直に話そう。あの夜キアルスは、自分を介抱した兵士たちに金貨を掴ませ、暗殺未遂事件があったことを広めるよう命令したのだ。余がそれを嘘だと知ったのは、その話がずいぶん知れ渡った後だった。だが次期国王候補ともあろう者が偽りの事件をねつ造したとなると、国の信用に関わる。だから今まで真実を言い出せなかったのだ。しかし、こうなった以上、余も覚悟を決めねばなるまい」



 マウルは仰々しく立ち上がり、王子に勧告した。



「キアルスよ! お前を虚偽罪、およびポロンを殺害しようとした罪で投獄する! 処分は追って決定するゆえ、そのつもりをしておけ!」


「へ? う、嘘ですよね、父上?」


「さあ、連れて行け!!」


 マウルの一声により、横に控えていた近衛兵二人が、素早くキアルスの両脇をがっちり固めた。唖然とする彼は処刑台から引きずり下ろされ、エレナたちの横を通り過ぎた。



「冗談じゃない。オレはこの国の王になるんだ。誰にも邪魔をさせるものか」


 ぶつぶつと独り言を漏らしたキアルスは、奇声を上げて兵士の手を思い切り振り払い、懐から紫の石を出した。



「オレに力を与えろ!」


 キアルスの呼びかけに応えるように、石は怪しい輝きを放ち、真っ黒な霧が彼を覆い尽くしていく。


「うぁあああああああああああ!」


 悶え叫ぶ彼の目が赤々と光り出し、服が破れ、身体は三メートルほどに巨大化した。


 肌の色が薄紫に変化し、顔は獰猛(どうもう)な猿のようになって、鋭い牙と爪が伸びていく。耳は細長く尖り、背中からこうもりの羽を思わせる黒い翼が伸びて、足は闘牛のごとく太く筋肉質になった。



「は、はは。オレは強さを手に入れた。最高の気分だ」



 異形の怪物は自らの手をまじまじと眺めてから、人々を見下ろし、狂気に満ちた恐ろしいうなり声を上げた。



「この国はオレの物だ! 邪魔する奴は全員、皆殺しにしてやる!」

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