真相
「お主、何の真似だ? 何故この場をかき乱すような愚を犯す?」
マウルは眉を吊り上げ怒りをはらんだ低い声をメルフに落とした。重苦しい威圧感に息が詰まる。
さっきから内緒話をしていた人々は、青ざめて一様に口をつぐんだ。下を向き、震えているように見える。
そんな中、メルフは臆さず話を続けていった。
「申し訳ありません。ですが王子暗殺は友好国である貴国の一大事。黙って見過ごすわけにはまいりません。差し出がましいとは思いましたが、この事件を独自に調査させていただきました」
「調査だと?」
「ええ。その結果、真相が判明いたしましたので、お知らせしに参ったのです。陛下に賢明な判断をしていただくため。そしてポロン先生の無実を証明するために」
そのためなら、どんな圧力にも屈しない、と深緑の瞳は暗に伝えている。
マウルは目を細め、あごひげを触りながら、しばらく何も言わなかった。
ぴりぴりした空気の中、やがて睨み合いは終わり、彼は脅しを含んだ台詞を吐いた。
「分かった。ではその真相とやらを説明してもらおうではないか。だが、聞くに値しないと判断したら、すぐにでもここから立ち去ってもらうぞ」
「承知いたしました。陛下の広きお心に感謝いたします」
メルフは深々と一礼してから、改めて話を切り出した。
「事件のあらましをお話する前に一つ、確認をさせていただきたいことがあります」
「何だ」
「陛下は以前、ポロン先生に関わりのある者は、キアルス殿下に面会出来ないとおっしゃいました」
「ああ。確かにそう言った」
「でしたら、王国の魔法使い全員、瀕死のキアルス殿下には一度も面会されていないということですね?」
「そうだ。しかし、それがどうしたというのだ?」
太い眉をぴくっと動かし、拳を握り締めている。見せまいとしているが、マウルはかなり苛立っているようだ。
王の答えを聞き終えてから、メルフは分かりました、とにっこりし、遠くに声をかけた。
「アストラさん! 彼をこちらにお連れしてください!」
「おう! ちょっとあんた、来てもらうぜ」
人混みの最後尾。
身軽な服装で、背中に剣を携えたアストラは、灰色の帽子と外套をまとった背の低い男の腕を、手荒く掴んだ。
「うお!? 止めろ、この無礼者め! お前ら、こいつを捕まえろ!」
帽子の男はアストラを睨みながら、近くの兵士たちに忙しく命令した。
「あ。悪いけど、もうこいつら動けねぇと思うぜ?」
「何ぃっ!?」
「そら、見てみろよ」
あごで指された方を男が見ると、兵士たちが皆、狭い落とし穴に肩まですっぽりはまっていた。
「ばあさん特製の土魔法だぜ! おっさんたち、そこで大人しくしてろよな!」
魔鉱石を手に、アストラはにやりと笑う。
たくさんの顔が地面からにょっきり生えている状態は、何だか滑稽だ。兵士たちが口汚く罵ってきても、おかしくて全く気にならない。
町の者たちは皆、その異様な光景に釘付けとなっていた。
「この下民が! オレにこんなことして、ただで済むと思うなよ!」
帽子の男はぎゃんぎゃん吠えながら彼に引きずられ、処刑台のど真ん中に連れて来られた。
マウルはぎりりと歯を食い縛っており、ロゼは険しい表情をして、成り行きを見守っている。
やって来た人物に、民衆の興味と視線がこれでもかと集まった。
「よし! じゃあ、お前の正体を見せてもらおうか!」
そう言ってアストラは、じたばたする男の帽子と外套を強引に剥ぎ取った。
まず目に入ったのは上質なシルクの服。そして太い眉と赤茶色の短い髪。
そこにはマウルとそっくりな顔の青年が立っていた。
「これから事件の被害者に、たっぷり話を聞こうじゃねぇか。なぁ? キアルス殿下」
獲物を追い詰める時のような愉しげな顔で、アストラは王子の肩を妙に優しく叩いた。
おまけ
ポロン「ばあさんて呼ぶなと言ってるだろ!(落とし穴の魔法、発動)」
アストラ「ぎゃあああああああ!(穴にはまる)」
ポロン「今度そんなこと言ったら埋めるからね!」
この後、きっとこうなる(嘘)