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【いしのまほうつかい】~豆粒ファイアしか出せない魔法使いですが、大賢者目指します~   作者: 架け橋 なな
第三章 渦巻く陰謀

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公開処刑

 夕方、エレナはへとへとになって、地下室へ帰ってきた。体力・気力共に限界だ。


 彼女は大量の汗を布で拭き取ってから、置かれていた荷物の袋を枕にし、その場にばたりと横たわった。



 ひんやりとした床が気持ちいい。棚にある骸骨は相変わらず怖いが、ポロンの作った偽物だと解ったので、見下ろされていても平気だ。


 それに世の中にはもっと恐ろしい存在が居ると、彼女は知った。ポロンだ。


 エレナの力に合わせて加減しているとはいえ、あらゆる攻撃魔法の応酬は、生きた心地がしなかった。ここ数日で寿命が半分ぐらい縮んだに違いない。


 今こそポロンお得意の回復魔法を使って、疲れを癒して欲しいものだと思う。しかし頼んだところで、そんなものは自己治癒力で治しな! と、ばっさり断られるだろう。彼女の厳しさは、たぶん王国一だ。



 そういえば、先生と出会った時、メルフさんの身に何があったんだろう。



 天井を見上げながら、エレナはぼんやり考えた。


 彼女はポロンの話がずっと心の奥に引っ掛かっていたのだ。



 三年前といえば、魔王フォボスが大賢者ユーティスと戦っていた頃だ。もしや彼はどこかで戦闘に巻き込まれたのだろうか。


 エレナは筋肉痛の身体を起こし、旅の荷物の中から【大賢者伝記】を取り出して読んだ。(村に置いてくるという選択肢は、彼女には最初から無かった)



 何か手がかりはないかと思い、ページをめくっていくと、ある箇所で指が止まり、胸がどくんと跳ね上がった。



 これって、まさか。



 手に持った本が震えるほど、動揺した。信じられない。でも、思い当たるふしがいくつかある。


 考えれば考えるほど、エレナの頭の中はぐるぐるしてきた。



「アンタ、何ぼーっとしてんだい?」


 戻ってきたポロンに肩を叩かれ、思考の渦から引き戻される。慌てて本を閉じ、振り向くと、眉間に思い切りしわを寄せられた。


「えらく死にそうな顔してるじゃないか。ちょっと頑張りすぎたかい? 今お茶を淹れるから、ゆっくりしておきな」


 ポロンは台に置かれた鍋に水を注ぎ、お湯を沸かし始めた。


 エレナは、今、思い当たったことを、勇気を出して彼女に聞いてみようと思った。



「あの、メルフさんってもしかして」


「おい!! 二人とも大変だぞ!!」


 最後まで言い切る前に、アストラがものすごい勢いで地下室へ転がり込んできた。


「何だい、騒がしいね! 一体どうしたっていうのさ?」


「とにかく、これを見てくれよ!」


 アストラの手には一枚の紙。


 立ち上がって見ると、それには『反逆者ポロンの関係者である、魔法使い十名を、明日の正午、公開処刑する』と書かれていた。



「そんな。国王は何を考えてるんだい! 教え子たちは関係ないじゃないか!」


 ポロンはアストラから受け取った紙をきつく握った。ぐしゃりと乾いた音が、地下室に響く。


 反逆者の仲間として裁かれるなら、極刑は免れない。恐らく全員、死刑だ。



 エレナはポロンの気持ちを考えると、いてもたってもいられなかった。何とか助けてあげたい。自分に出来ることはないかと、必死で考えていた。



「これはポロン先生を捕まえるための罠ですね。こんな風に告知されたら、出ていかざるを得ない」


 知らぬ間に部屋に入ってきていたメルフが、苦々しい表情を浮かべた。


 エレナはちらっと彼を見て、まだそうと決まったわけじゃない、と自分に言い聞かせた。



 アストラは怒りに満ちた瞳で床を睨んでいる。


「卑怯な野郎だぜ」


「どうにかして、処刑を止めなきゃ」


「アタシが行けば、最悪あの子たちだけは助かるはずさ。でも事件の真相が分からないんじゃ、弁解のしようがないね。調査の結果はどうだったんだい?」


「王室と取引のある大商人たちは、みんな王子を嫌ってたみたいだ。プライドは高いし、嘘つきだし、常に自分たちを見下してたって。町でも悪い噂しか聞かなかったぜ」


「私はメルフさんと、何度かお見舞いの品を持って行く振りをして、王子様の従者さんに話を聞いてみたの。でもね、何となく様子がおかしかったんだ。事件を目撃した人は、どこかに行っちゃったっていうし、王子様の詳しい状態も教えてくれないし。居住塔へ豪華な食事を運ぶのに忙しかったのかな?」



 そこまで聞いてから、メルフは思い立ったように口を開いた。



「実は、この事件。私にはおおかたの答えが出ているのです」


「本当ですか、メルフさん?」


「ええ。お話ししましょう」


 メルフは三人に自分の考えを説明して聞かせた。


 皆は驚きを隠せない。しかし、彼の導き出した答えは、信憑性があった。



「私は明日、念のため()()様子を確認してきます。それが終わったら、決着をつけましょう」


「分かりました! 頑張りましょう!」


「そうだね! アイツの思い通りには絶対させないよ!」


「仕方ねぇ。いっちょやってやるか!」



 四人は同じ目的の元、固くうなずき合った。


 傍らの鍋からは、沸き立つ音と熱い湯気が、もうもうと上がっていた。



 公開処刑は明日正午。


 エレナたちの無実をかけた戦いが今、始まろうとしていた。

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