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特訓

──かくして真犯人を見つけるための調査が始まった。



 エレナはメルフと城で情報収集を、アストラは町のギルドで聞き込みをした。


 そして調査を開始してから一週間後のこと。事件は思わぬ方向へ動いた。



「違う! もっと集中しな!」


 エレナは叱咤されながら、土の魔法で壁を作って、ポロンの風の刃を防いでいる。


 二人は東の平原のど真ん中で、魔法の特訓をしているのだ。


 なぜこんな場所に彼女たちは居るのか。


 事の発端はポロンの思い付きだった。



 あの日、四人が集まってすぐ。


 ポロンはメルフの協力を仰ぎ、地下室から地上へ出るための穴を、魔法で掘り出した。


 家に一人で閉じこもっているのに我慢出来なくなったからだ。



 二日後に完成した抜け穴は、なんとヴェスタ王国から遠く離れた平原に繋がった。


 その出入口を前にして、ポロンは水を得た魚のように、生き生きとエレナを呼んだ。


「よし! 完璧だね! さぁ、魔法の特訓をしに行くよ!」


「え? 先生と私がですか?」


「そうだよ。アンタ、調査が終わったら時間があるんだろう? 基礎からみっちり教えてあげるから、一緒に来な!」


 強引に話を進められ、あれよあれよと言う間に外へ連れて来られてしまった。



 こうして、二人は暇を見つけては平原に出向くようになった。


 エレナはまず、魔力を瞬時に杖へ集める方法と、呪文の正しい唱え方をポロンに教わった。その後の特訓は実際の戦闘と同じ状況で行われた。ポロンの繰り出す攻撃魔法を避けたり、相性のいい魔法で相殺する。それを魔力と体力が尽きるまで何度もやり続けるのだ。


 ポロンの厳しい指導に懸命に食らいついていったエレナは、たった五日間で初級魔法の全てを覚えた。



「よし! そこまで!」


 ぜえぜえと息を切らして、草むらに座り込むエレナ。まだまだ余裕そうなポロンはにっこりと笑い、赤い果物を差し出した。



「よく頑張ったね。疲れただろう?」


「ありがとうございます」


 攻撃をかわしたり、呪文を唱えすぎて喉もからからだ。受け取った果物を両手に持って頬張る。みずみずしい食感にほんのり優しい甘さが広がって、思わず顔がほころんだ。



「アンタは根性もあるし、かなり素質があるね。普通、初級魔法の全習得は二ヶ月くらいかかるんだよ」


「そうなんですか」


「ああ。ただ、魔法の威力がころころ変わるのは、ちょっと気になるけどね。博識の魔法使いがアタシの所に連れてきたのも分かる気がするよ」



 ポロンは隣に座って、革袋から水を飲んでいる。エレナは前々からしようと思っていた質問を彼女にぶつけた。



「あの、先生はメルフさんのこと、昔から良く知ってるんですか? あの人は一体どんな仕事をしてるんですか? 教えてください」


「え!? アンタ、あの子のこと何も知らないのに、ここまで付いてきたのかい!?」


「はあ。まあ勢いで」


「あっはっはっは! アンタ、面白い子だねぇ」


 なぜか軽快に笑われてしまった。エレナは言われている意味がよく分からず、変な顔をする。


 ポロンはやれやれといった感じで肩をすぼめた。



「悪いけど、あの子が何も言ってないなら、アタシの口からは教えられないね」


「そう、ですか」


 メルフさんのこと、ちょっとでも知りたかったのになぁ。



 長いまつげを伏せ、しょんぼりしていると、ポロンは彼女を優しく見つめ、遠くに視線をやった。



「博識の魔法使いと出会ったのは、三年前だったかね。あの子は戦いで大怪我をして、瀕死の状態だった。それをアタシが魔法で治してやったのさ。一ヶ月ほどかけてね」


「一ヶ月もですか!?」


「傷口や破壊された臓器を元通りにするには、それなりに時間がかかるのさ。まあ大変だったよ。何せぼろぼろだったから」


「そうだったんですね。治癒の魔法って、けがをすぐに治せるものだと思ってました」


「一瞬で傷を治せるなんて、それこそ神様ぐらいなもんさ。回復系の魔法は難しいんだ。後でアンタにも基礎を教えてあげるよ」


「先生は全部の魔法を使いこなせるんですか?」


「いいや。知識としては全部知ってるけど、使いこなせるかと言われると無理だね。属性とか分野によって向き不向きがあるから。だいたいの魔法使いが修行をしていく過程で、どれか一つの分野に秀でるものなのさ。アタシの場合は、それが怪我を治す魔法だった。だから皆から敬意を込めて【治癒の魔法使い】と呼ばれているんだよ」


「へぇ! そうなんですね! じゃあ全部を使いこなせる人は誰も居ないんですか?」


「そうだねぇ。それこそ伝説の大賢者くらいなもんかね」


「え? え? ポロン先生、会ったことあるんですか!? あのユーティス様に!!」



 目をらんらんと輝かせてにじり寄ると、ポロンは困り顔を素早く反らして、立ち上がった。


「さあね。この話は終わりだよ。特訓再開だ!」


 元気いっぱいの老女を見て、エレナはまたこれから、たっぷりしごかれるんだろうな、と少し気が重くなったのだった。

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