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招かれざる客人

「何だい。言ってごらん」


 ポロンは真顔で促す。


 エレナは彼女のオレンジの瞳を真っ直ぐ見据えて言った。



「私、ある魔法使いの人に、どうしても弟子入りしたいんです。でも、前にきっぱり断られちゃって……。その人を説得するのに、先生も協力してほしいんです。どうかお願いします!」


「なるほどね。別に構わないけど、誰なんだい、その魔法使いっていうのは? アタシの知り合いかい?」


「はい。メルフさんです」



一拍の間があって、ポロンは怪訝そうにもう一度聞き直した。


「誰だい、それは?」


「え? 知らないんですか?」


「知らないね、そんな奴は」



 予想外の返答にエレナは戸惑う。



 今までの言動から、メルフはポロンを以前から知っているようだった。なのにこの老女は、全く心当たりがないといった顔をしている。



 もしかして、このおばあちゃん、ちょっとボケてるのかな? 



「ちょいと! アンタ今、失礼なこと思わなかったかい!?」


「ひぇっ! すみません!」


 どうやら考えていたことが顔に出ていたらしい。じとっとした目で睨まれてしまった。


 エレナがもう一度、メルフのことを詳しく説明しようとした時、ポロンが右手をさっと上げて、それを制した。



「しっ! 静かに! また客人が来たようだよ」


 ポロンは螺旋階段の方を見て、棚に立てかけてある杖を手にした。


「魔力を抑えて隠してるようだけど、そこに居るのは分かってるよ! 姿を見せな!」



 空気がぴんと張り詰める。


 ヴェスタ王国の手の者だろうか? エレナは息を殺し、身を固くした。



「気付かれてしまいましたか。さすがですね」



 靴音を響かせ、暗い通路から現れたのは、麗しい青年だった。



「お久しぶりです、ポロン先生。お元気そうで何よりです」


 長い杖を持ち、メルフは会釈した。



「ああ! 博識の魔法使いじゃないか! 久しぶりだね!」


 ポロンは嬉しそうにメルフへ駆け寄った。


「おっと、呼びかたはもう変えた方が良かったかい?」


「いえ。今のままで結構です」


「そうかい。アンタ、良くここが分かったね」


「彼女の発する魔力を頼りに来ました。エレナさんは他の人より魔力の量が多いので、探しやすかったですよ。ただ、玄関に鍵がかかっていたので、それは魔法で開けさせてもらいました。許可なく上がり込んでしまい申し訳ありません」


「何だ、アンタたち知り合いだったのかい。勝手に入ったのは非常事態だと思ったんだろう? 気にしなくていいよ。それより、こんな地下深くにある魔力まで見つけちまうとは……アンタの探査能力は、恐ろしい精度だね」


 ポロンは半ば呆れたように言った。メルフはお褒めに預かり光栄です、と朗らかに笑っている。



 この二人、見るからに親しげな様子だ。なのにどうして彼の名前を言っても、ポロンは分からなかったのだろう? 



 不思議に思っていると、メルフが深緑の瞳をこちらに向けてきた。



「エレナさん、無事で良かった。ですが一人で行動する時は、くれぐれも注意してくださいね。アストラさんもずいぶん心配していましたよ」


「おいおい! 余計なこと言うなよ!」


 メルフの後ろから、アストラが騒がしく飛び出してきた。どうやら敵を警戒し、隠れていたようだ。



 皆が揃ったところで、メルフは左掌でポロンを指し、ゆるやかに述べた。



「さて、エレナさん、アストラさん。改めてご紹介します。このご婦人はポロン先生。王国一の魔法教師、および魔鉱石を使った道具の発明をしておられます」


「まぁ、発明といっても、単なるアタシの趣味だけどね」


「へえー、このばあさんが王国一ねえ。そんな偉い奴には見えねぇけど」


「ちょいと! 誰がばあさんだい、この若造が! アタシのことはポロン先生と呼びな!」


 ぴしゃりと叱られ、アストラは口をへの字に曲げ目を見開いた。完全に圧倒されている。


 頼むから彼女を怒らせないでくれと、エレナは切に願った。



「ところで先生。例の事件について、詳しいお話を聞かせてもらえませんか?」


 おもむろにメルフが表情を引き締め、尋ねた。


 ポロンはあの夜に起きたことを二人にも話してやった。



「やはり、そうでしたか。おかしいとは思っていたのです。ポロン先生は誰かの策略にはまってしまったのですね」


 メルフは納得したようにうなずいた。


「このままだと、先生は反逆者としてずっと追われることになります。だから私たちで、王子様を襲った本当の犯人を捕まえましょう!」


 エレナはやる気を燃やし、両手を握る。



「はぁ。また面倒くせぇことになってきやがったぜ」


 その隣で、アストラは額を押さえつぶやいた。もう彼女には何を言っても無駄だと悟ったのだろう。その顔には、ひどく哀愁が漂っていた。

おまけ



メルフ「先生、この骸骨は何ですか?」


ポロン「それは嘘を発見する道具さ。キアルスが起きたら、これでたっぷり尋問してやろうかねぇ(悪魔の笑顔)」


エレナ「止めてください!王子が地獄へ逆戻りします!」


アストラ(このばあさん、危険だな……)

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