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謁見

 一方、メルフは跳ね橋を渡り、城門の前までやって来ていた。


 強そうな兵士二人がそこを塞いでいる。彼らはメルフを発見すると、不躾に問いかけてきた。



「誰だ、お前は?」


「何の用でここへ来た?」


「私はノース王国の使者です。国王陛下にお会いしたく参上しました」


 メルフはフードを取り、荷物の中から身分を示す証書を出した。



「こ、これは大変失礼をいたしました! すぐに陛下に確認しますので、しばしお待ちください!」


 証書を確認した兵士の一人が、鎧をガチャガチャさせながら走っていった。



 十分後、戻ってきた兵士によって、メルフは中へ通された。


 城門を抜けると、目の前には広大な平地が見える。剣の特訓や、魔法の練習をする場所だ。


 その先には、王族や貴族、従者たちが生活をしている三角屋根の塔が、いくつも天高く伸びていた。



 城下町より兵士の数が少ないようだが、皆、魔法使いの捜索にかり出されているのだろう。



 案内され、メルフは中央に堂々と建つ主塔へ足を踏み入れた。


 入口の両側に武器を携えた、甲冑が飾られている。


 城内は白で統一されており、歴代の王の肖像画が、壁に何枚も掛けられていた。



 大広間を抜け、彼はやっと玉座の間に到着する。


 天井に輝くきらびやかなシャンデリア。


 金色に縁取られた赤いカーペットの先に、この国を治める者──マウル=ヴェスタルギアが居た。



 肩まである赤茶色の髪と立派な口ひげ。王冠を被り、鍛えられた身体に黒のジャケットとズボンを身に付け、赤い毛皮のガウンを羽織っている。


 威厳溢れる中年の男は、高台に用意された豪華な玉座から、メルフに低い声をかけた。


「久しいな。博識の魔法使い殿」


「陛下。急な来訪にも関わらず謁見(えっけん)のお時間を頂戴し、誠に感謝いたします」


 メルフは片膝を折り、流れるような所作で一礼をした。



「そう堅くならんでもよい。何用で来たのか申してみよ」


「はい。実は、キアルス殿下のことなのです」


「なんと。もうお主の耳にも届いたか」


「はい。ご容態はいかがですか? 良ければすぐにでも私の魔法で治療に取りかかろうと思うのですが」


「それは、ならん」


 しわの刻まれたつり目が鋭く光る。メルフはじっと王を見つめた。



「なぜですか?」


「お主は一時期、()()()()()()と交流があったであろう? 疑いたくはないが、暗殺者の仲間という可能性もある。悪いが王子との面会は諦めてくれ」


「では先生がキアルス殿下を襲ったのは、本当なのですね?」


「ああ、そうだ。そのせいでゆゆしき事態になっている。王国最高位を誇る魔法使いが反逆とは、国民に対して示しがつかん。国の威信にかけ、必ずこの手であの者を捕らえねばならんのだ」


 言っておくが、お主の助けは無用であるぞ、とマウルはより低い声で付け足した。



「承知しました。陛下のお考えに沿うよう、行動いたします。あともう一点、お知らせしたいことがあるのですが」


「何だ」


「最近、国外で魔物の動きが活発化しています。しかもそれらは全て何かの目的で動いている気配がするのです。貴国の兵力は申し分ないと存じますが、くれぐれもお気を付けください」


「分かった。助言を真摯に受け止めよう」


「感謝します。それでは、これにて失礼いたします」



「待て、博識の魔法使い殿」


 マウルは立ち去ろうとするメルフを、重い口調で呼び止めた。彼はすぐに振り向き、王の言葉を静かに待った。



「以前、余が問うたことを覚えているか? この世界において、お主ほど素晴らしい魔法使いは存在しない。出来るならずっとここに身を置き、余の右腕として働いて欲しいのだ。今もやはり、気持ちは変わらんか?」



 メルフはしばらく黙っていたが、やがて苦しげに眉をひそめ、首を横に振った。


「ありがたいお言葉ですが、それは叶いません。第二の故郷であるノース王国には多大な恩があります。私はこの命を賭けて、その恩に報いるつもりなのです」



 強い視線が交錯する。ほどなくマウルはため息をついて、背もたれに身体を預けた。


「そうか。お主は本当に義理がたい男だな。残念だが仕方があるまい」


「我が陛下は、三国の友好な関係を望んでおられます。私はその橋渡し役として、引き続き尽力する所存ですので、どうかご理解ください。何かお困りであれば、いつでもご相談に乗りますので。それでは」


 メルフは丁重にお辞儀をし、兵士に見送られながら玉座の間を後にした。



 外に出ると、もう日が高くなっている。王族たちの居住塔に美味しそうな食事が運ばれていくのを横目で見つつ、彼は難しい顔で歩いた。



「許可なき者は入れん! 今すぐ立ち去れ!」


「だーかーらー! ここにメルフって野郎が来てるだろ!? そいつを出してくれよ!!」


 騒がしい声が聞こえて、そちらに視線を送ると、門の前で男と兵士が揉めている。メルフにはその人物が誰なのかすぐに分かった。


「どうされたのですか、アストラさん?」


「大変なんだよ! エレナが居なくなっちまったんだ!」


「エレナさんが?」


「いくら待っても広場に来ねぇし、町中探し回ったんだけど、見つからねぇんだ! 一緒に探してくれよ!」


 メルフは不安に駆られた。今日、初めてこの町を訪れたエレナが、勝手にどこかへ行くとは思えない。ということは、何らかの原因で彼女が広場に行けなくなった可能性が高いのだ。



「分かりました。急いで探しましょう!」


 彼は目付きを尖らせ、アストラと共に駆け出した。

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