表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/159

忘れ物

──「まさか弟子入り予定の奴が、暗殺者とはな。全く、とんでもねぇことになってきたぜ」



 メルフと別れ、中央広場へ向かう途中。


 アストラが手を頭の上で組み、空を仰ぎながらぼやいた。


 先ほどからエレナは、うつむいたまま物思いにふけっている。



「これからどうするつもりだ?」


 アストラが珍しく遠慮がちに尋ねると、エレナはやっと難しい顔を上げた。



「ねぇ、アストラ。王子様の暗殺は、本当にその先生がやったのかな?」


「あ? 何でそんな風に思うんだ?」


「だってあのメルフさんが推薦してくれた人だよ? そんなことするなんて、やっぱり考えられない」


「お前はあいつのこと、信用しすぎなんだよ」


 アストラは半目になり、呆れたように言った。



「でも、アストラだってメルフさんに、いっぱい助けてもらったじゃない。それでもまだ、あの人のこと疑うの?」


「ぐ。そこはまあ、評価してやるけど」


「もしその先生が無実なら、何とかして助けてあげたいよね。でもどうすればいいのかな」



 エレナは考えをまとめようと、ぶつぶつ独り言を唱え始めた。思考を巡らす彼女を、アストラは横から止めに入る。



「お前なぁ、余計なことに首突っ込むなよ? 国相手に喧嘩するなんて、命がいくつあっても足らねぇぞ」


「大丈夫! 分かってるから!」


「どこがだよ! 絶対、面倒なこと考えてるだろ!」



 アストラはしきりに大人しくしとけ! と諭すが、エレナはそれを右から左へ受け流し、自分の中での決定事項を述べた。



「私、とにかく先生を探してみる! この事件が片付かなきゃ弟子にもしてもらえないし!」



 そう言いつつ、早く解決してメルフさんに魔法を教えてもらわなきゃ! と、彼女はこっそり奮起した。



 するとアストラは急に真顔になって立ち止まり、エレナを見据えた。



「お前さ、その先生に頼んであいつに弟子入りするつもりだろ?」



 密かな企みをあっさり言い当てられ、エレナはぎくりとした。さすがは幼なじみ。彼女の思っていることなど、すでにお見通しのようだ。



「お前が強くなりたいのも、戦いから逃げようとしないのも、四年前のことを後悔してるからか?」



 振り返れば、いつもとは違う、悲しげな眼差しと声色。


 エレナは図星を突かれ、言葉に詰まった。



──燃え上がる村。逃げ惑う人々。魔法使いの後ろ姿。そこに迫る黒い影。



 四年前の記憶が断片的に頭をよぎる。



 彼女は両の拳をぎゅっと握り締め──ふと、何かが足りないと、違和感を覚えた。



「あれはどうにも出来なかった。間違ってもお前のせいなんかじゃねぇ。だから」


「あーーーーーーーーっ!!」



 エレナの突拍子もない声に、彼の話は掻き消される。



「おい! 何だよ、いきなり!」


「ごめん、アストラ! 私、さっきの場所に杖忘れてきちゃった! 取ってくるから先に行ってて!」



 彼女はまくし立てるように言うと、ばたばたと走り去ってしまった。



「頼むからこれ以上、心配させんなよ」



 一人残されたアストラは、周囲に聞こえない声で、エレナの背中に文句を投げた。




 数分後、エレナは魔法使いの家の前まで戻ってきた。ありがたいことに、怖い顔の兵士はもう居ない。


 裏手の草むらを探ると、すぐに忘れ物が見つかった。



「ああ、良かった」



 エレナは安堵して、父の名が刻まれた杖を胸に抱き締める。それを背中の袋にしまい、急いでアストラを追いかけようとした。



 その時、遠くからドアの閉まる小さな音が耳に届いた。


 エレナは不思議に思い、屋敷の正面に回ってドアの取っ手を握る。


 軋んだ音を立てて、それは大きな口を開けた。



 鍵が開いてる。誰か居るの?



 エレナは不安を感じながらも、好奇心に突き動かされ、吸い込まれるように中へ入っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
架け橋 ななの他作品

モフモフと美形の出る異世界恋愛
*毒舌氷王子はあったかいのがお好き!*
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ