城下町散策
「わぁーー! すごい!」
門をくぐってすぐ、エレナは目の前の景色に感嘆の声を漏らした。
きちんと整備された石畳の坂道が、ずっと先まで伸びており、両隣にはオレンジ色の建物がずらりと並んでいる。村とは違い、それは全て三階建てだった。
そこにある様々なギルドの屋根には看板がぶら下げられており、その下で活気ある呼び込みの声が飛んでいる。
道行く人は町の者か旅人たち。中には目付きの鋭い兵士たちも混ざっていた。彼らの鎧には、国の象徴である獅子の紋章が刻まれている。
「メルフさん! 先生の所へ行く前に、ギルドを見て回ってもいいですか?」
瞳をきらきらさせ、エレナは早口で尋ねる。何故かフードを被ったメルフは、もちろんいいですよと快く了承した。
「よし! じゃあ早く行こうぜ!」
アストラは意気揚々と歩き出し、エレナも小走りで後に続いた。
二人共、町を散策するのが楽しみで楽しみで仕方がないようだ。
ミョルニにもらった薬草を売り、銀貨を手にしたエレナは、一番に服を見に行った。
ギルド内には、刺繍の入ったワンピースや綺麗な色のローブ、レースやフリルの付いたドレスなどたくさんの服が並び、更には帽子、首飾りなどの装飾品まであった。
「きゃー! 何これ、すっごく可愛い!」
歓喜して子供のようにはしゃぐエレナ。見たことのない素敵な品々に、彼女の興奮は最高潮まで達していた。
「どう? 似合うかな?」
エレナは満面の笑みを浮かべ、控えめなリボンが胸に付いたワンピースを自身に合わせる。
アストラは頬を赤らめ
「ま、まあ悪くねぇな」
と顔を背けた。
「いいですね。とてもよく似合っていますよ」
彼の横で、この上なく自然に称賛の言葉を述べるメルフ。春の日差しのような微笑みを浴びせられ、エレナは嬉しいやら照れ臭いやらで顔が熱くなった。
次にアストラは剣を見に行った。大剣、長剣、短剣など色んな種類の物が揃っている。
どれも洗練された造形で、使いやすさと格好良さを併せ持っていた。
二人はあれもいい、これもいいと、次々に持ってみたり、試着したりしていた。
見るのはいくらやっても、タダなのである。
町中のギルドを散々見て回り、彼らは一番手頃な物を一つずつ購入した。村で慎ましい生活をしてきたので、金銭感覚はかなり堅実だ。
商人たちからすれば、さぞかし迷惑な客であっただろう。去りゆく二人の背中に、もう来てくれるなというたくさんの視線が、痛いほど注がれていた。
そんなことなど考えもしないエレナは、満足のいく買い物が出来てご機嫌だった。
三人はギルドが集まる場所を抜け、城下町の中心にある広場にやって来た。
手には先ほど購入したミートパイが握られている。
彼らは長椅子へ横並びに座って、疲れた足を休めた。
「メルフさん。あれは何ですか?」
エレナはパイにかじりつきながら、広場の中央に鎮座している大きな台を指差した。
「罪人に罰を与える所。つまり処刑台ですね」
「え!? どうしてそんな物がここにあるんですか?」
「処刑する様をわざと町の人間に見せるのです。秩序を乱せばお前たちもこうなるぞと、暗に分からせるために。まあ、中には処刑を催しとして楽しんでいる者も、一定数いるようですが」
「ふーん。ここの奴らは悪趣味だな」
「城下町って怖いね……」
エレナはぞっとして青ざめた。
仮に自分がここに住んでいたとしても、誰かが処刑されている姿など見たくはない。それが例え、救いようのない悪人であったとしてもだ。
めざましい発展を遂げ、光輝く城下町。
その裏に溶け込む恐ろしい闇を、エレナは少しだけ覗き見たような気がした。




