招待
──その後、メルフはエレナたちの元へ帰ってきた。
女を必死で探していた彼女たちは、石を取り戻せたことを知るや、手を取り合って大喜びした。共闘したことで、だいぶ仲が深まったらしい。
ミョルニはメルフから返してもらった恵みの石を抱き締め、
「本当にありがとうございます‼️ このご恩は一生忘れません‼️」
と、涙ながらに感謝した。
それからエレナ、アストラ、メルフの三人は、近くにある小人族の村に招待された。
霧は晴れ、辺りはすっかり暗くなっている。
村は小人たちの背丈に合った、こじんまりとした家が並んでいた。そのほとんどが焦げてしまっており、焼け跡から煙の臭いがまだ少し立ち込めている。
石が欲しいからって、こんな酷いことしなくてもいいのに。
エレナはあの女に対して怒りを感じると共に、小人たちが落ち込んでいないか気がかりだった。
だがミョルニたちはあっけらかんとしており、今度は人間の皆さんが入れるような、巨大な家を建てておきますよ、と笑っていた。幼い子供のような見た目に反し、たくましい限りである。
武器を置いた小人たちは、村の中心にある広場へ手際よく木を集めて火を起こし、その周りに長椅子と机を並べた。
彼らは三人に、きのこがたっぷり入ったスープや、焼いた獣の肉、木の実などをごちそうした。
夜の森に広がる美味しそうな香り。少し肌寒い気温だったが、皆で同じ物を食べお喋りをしていると、胸のところがぽかぽかしてあったかい気持ちになった。
「それにしても、結局あの女の人は何者だったんでしょうね」
エレナは赤く燃える火を見つめ、おもむろに話を始めた。
目を奪われるような美貌と、全てを見下す冷えきった眼差し。思い出すだけで身震いがする。
メルフは長いまつげを伏せて、首を横に振った。
「分かりません。ただ、あの人が魔法で人形を作り、操っていたことは確かです。これを見てください」
彼は先ほど拾ったものを手のひらに乗せて見せた。エレナは横から身を乗り出してそれをじっと眺める。
「きれいな腕輪ですね。石の部分が割れちゃってますけど」
「ここにはまっている紫の石は『魔鉱石』。呪文の効果を保持しておける、便利な代物です」
「保持、ですか?」
「例えば魔鉱石に回復魔法を唱えたとします。すると、これを持っているだけで、回復魔法をかけられた時と同じ効果が得られるのです。また高度な設定をすれば、好きな時に魔法を発動させることも可能です。──そして今回、魔鉱石には闇魔法がかけられていた」
「ふーん。どんな魔法だよ?」
アストラが大きな肉にかぶり付きながら、メルフに問う。
「彼女は二つの魔法を腕輪にかけていました。一つは泥の塊を自分そっくりの姿に変える魔法。もう一つは遠くからその人形を意のままに動かす魔法です」
「そんなすごい魔法があるんですね……。でも何でわざわざ人形を使って石を盗んだんでしょうか。直接来ればいい話なのに」
「万が一、恵みの石を奪う計画が失敗しても、捕まらないようにするため。もしくは本体がどこかの場所から離れられない理由があったのかもしれませんね」
「博識の魔法使い様。あの盗人は、また石を狙ってくるでしょうか?」
ミョルニはとても不安げにスープをすすっている。他の小人たちも心配そうな目をしていた。
「そうですね。可能性は低いと思いますが、念のため対策はしておきましょう。食事の後、私を恵みの石の祭壇に案内してくださいますか?」
「はい! もちろん!」
小人たちの顔が花が咲いたように明るくなったので、エレナはほっとして口元を緩めた。