奪還作戦開始
「まあまあ。とにかく無事だったんだから、いいじゃない!」
エレナは笑って、噛みつきそうな勢いのアストラをなだめた。実は彼女も、知らぬ間に魔法をかけられていたことに驚いていたが、怒りよりも尊敬の気持ちが上回っていたので、彼をとがめようとは思わなかった。
「申し訳ありません。魔法を使ったこと、ちゃんと伝えておけば良かったですね。悪いことをしてしまいました」
メルフは言い訳するでもなく、素直に謝った。眉を下げ、本当に反省しているのが見てとれる。その姿に責める気が失せてしまったのか、アストラは
「今度から気を付けろよな!」
とぶっきらぼうに言葉を投げ、顔を背けた。
彼の怒りが収まったのを見届けてから、ミョルニはメルフの元にひざまずき、必死な声で言った。
「博識の魔法使い様と、お仲間の方! こんなことを言うなんて図々しいとは思いますが、無理を承知で頼みます! 卑怯な盗人から恵みの石を取り返すのに、あなた方の力を貸してください! どうかお願いします!」
他の小人たちも、お願いします! と次々に頭を下げる。メルフは真剣な表情でうなずいた。
「ええ。ぜひ協力させてください。エレナさん、アストラさん、構いませんよね?」
「はい! もちろんです!」
「あ? 何でおれたちが、そんなことしなきゃならねぇんだ」
「ミョルニさんたち、困ってるんだよ? ほっとけないでしょ!」
アストラは面倒臭そうに小人たちを見た。彼らは小動物のような目を潤ませて、こちらをじっと見つめている。少しの間、無言の攻防が続いたが、やがてアストラは観念したようにため息をついた。
「仕方ねぇなぁ! 分かったよ! その代わり、お宝が取り戻せたら、いっぱい旨いもの食わせろよな?」
「はい‼️ ありがとうございます‼️」
ミョルニたちはさっきよりも深く深く、頭を下げている。
「決まりですね。では作戦会議をいたしましょう」
メルフは皆に視線を送り、話を続けた。
「ミョルニさん。現在、犯人が森から出られないよう、対策はしてありますか?」
「はい。石が奪われたと分かってすぐ、森の出入口は仲間が守っています。何か異変があれば、知らせが来るはずです」
「へぇ。仕事が早いじゃん」
「それは良かった。万が一森の外へ逃げられては、探すのが難しくなるので」
「何も手がかりがないのに、どうやって犯人を見つけるつもりですか?」
エレナは難しい顔でメルフに尋ねる。
「ミョルニさんの話によると、恵みの石には不思議な魔力が宿っているようです。それを私の感知出来る範囲内で探してみます。少々お待ちください」
メルフはうつむき、まぶたを閉じた。意識を集中させ、森の中に存在するいくつもの魔力を感じ取っているらしい。エレナたちは彼の邪魔をしないよう、静かに見守った。
ほどなくメルフは顔を上げ、皆にはっきりと告げた。
「森の中心付近。大きな力が動いているのを感じました。犯人は恐らく、そこに居ます。急いで後を追いましょう。私に付いてきてください」
メルフを筆頭にエレナ、アストラ、小人たちは、深い霧の中、武器を持って走り出す。
この先、どんな敵が潜んでいるのか。エレナは言い知れぬ不安を抱えながら、そびえ立つ木々の隙間を駆け抜けていった。