謝罪
「言語変換」
緑色の光がエレナたちを包み込んで消える。二人は互いの顔を見合わせるが、特に変化は見受けられない。
「これでほんとにあいつらの言葉が分かるのかよ?」
アストラが訝しげに尋ねると、メルフは笑顔でうなずいた。
「ええ。試しに彼らと話してみますか?」
「はい! 私、やってみたいです!」
エレナは元気よく手を上げた。魔法の効果を試してみたくて、うずうずしていたのだ。
メルフは、ではどうぞと手のひらで促した。エレナはしゃがんで彼らと目線を合わせ、聞いた。
「小人族の皆さん。どうして私たちを襲ったのか、理由を教えてくれませんか?」
彼らはばつの悪そうな顔をしていたが、やがて
「僕がお話します」
と一番背の高い、水色の髪の小人が、三人の前に出てきた。エレナは内心、すごい! 言葉が通じた! と興奮していた。
「僕はミョルニといいます。先ほどは酷いことをしてしまい、すみませんでした。しかも『博識の魔法使い』様と、そのお仲間だったとは。なんとお詫びしていいか分かりません」
小人は真っ青な顔をして、白いローブの男を見つめている。彼は穏やかな笑みを浮かべ
「間違いは誰にでもあることなので、気にしないでください」
と言った。
『博識の魔法使い』。メルフさん、そんな風に呼ばれてるんだ。
ミョルニの様子を見ると、彼を明らかに恐れている感じがした。やはりメルフは有名な魔法使いなのだろうか。
青年の言葉を聞き、そこに居た小人たち全員が三人の所へ集まってきた。皆、泣きながら頭を下げ、謝罪と礼を述べている。
全身、見事なまでにずぶ濡れである。
自分でやったくせに、エレナはちょっと小人たちが可哀想になった。
どうやらメルフも同じことを思ったらしく、魔法で温風を発生させ、彼らの服を乾かしてあげている。
ミョルニは涙を手の甲で拭き、重々しく話し始めた。
「今朝のことです。何者かが僕たちのすみかに火を放ちました。皆、すぐに気が付いて、全員で消火をしていたんですが、その隙に大切な『恵みの石』を奪われてしまったんです」
「恵みの石?」
エレナは首をかしげる。
「はい。あれは小人族がはるか昔から守り続けている、宝物なんです。あの石が無ければ森は枯れ果て、ここに住む者たちは皆生きていけなくなってしまいます」
「そんな大切なものが盗まれてしまったのですか。ならば一刻も早く、石を取り返さなければいけませんね。何か手がかりは残されていなかったのですか?」
メルフが厳しい口調になる。
「石を祀っている祭壇近くに、足跡がありました。恐らく人間のものです。森の道は険しいので、その者はまだ遠くへは行ってないと思います。
僕たちは朝からずっと犯人を探していました。でも奴は姿を見せず戦うことすらしない。本当に卑怯な人間です! 絶対に許せません!」
「で、怒り狂って、おれたちをぶん殴ろうとしたってわけだな」
「すみません! この森は深く、人間たちはほとんど立ち入らないので、あなたたちが犯人だと思い込んでしまったんです。まさか人違いだったとは」
「全くよぉ。ちゃんと確認してから攻撃しろよな。危うく殴り殺されるかと思ったぞ」
アストラが眉をひそめて、小人たちを見下ろす。
「あ、その点なら問題ないです。戦闘が始まってすぐ、魔法で私たちの身体を硬くしておきましたから。短い時間しか効果はないのですが、ほら、この通り」
そう言うと、落ちていたハンマーで自分の腕を叩くメルフ。すると金属を打った時のような頑丈な音がした。
アストラが両の拳をぷるぷると震わせている。
「おや? アストラさん、どうかしましたか?」
「だーかーらぁー、そういうことは早く言えーーーーーっ‼️」
静かなうす暗い森の奥で、彼の今日一番の怒声が何度もこだましたのだった。