猛攻
四方から放たれた矢。間髪入れずメルフは魔法を発動した。すぐさま三人の周りに石の壁が現れる。飛んできた矢はそれに弾き返されて地面に落ちた。
エレナは驚きのあまり動けなかった。どうして攻撃されたのか、理由が分からない。しかしそこに立つ小人たちからは、明確な敵意が感じられた。
「おい! 危ねぇだろうが! お前らどういうつもりだ!」
アストラが大声を出して近付いていくと、今度は大きなハンマーを持って襲いかかってきた。
「全く! どこが大人しい種族なんだよ!」
彼は身構え、迎え撃つ準備をする。小人の一人が高く飛び、アストラの背中を叩こうとした。彼は殺気を感じ、素早く横へ飛び退いた。ハンマーが振り下ろされ、地面を思い切りへこませる。
「やっべぇ! あんなの食らったらひとたまりもねぇぞ!」
「あ。言い忘れてましたが、彼らは『森の戦士』と呼ばれており、力は熊を一撃で倒せるほどらしいですよ」
「そういうことは早く言え!!」
アストラは怒鳴りながら、小人たちの猛攻をかわした。メルフはひらりと木の枝に飛び乗り、何かを唱える。その下でエレナは悲鳴を上げながら、落ちてくるハンマーから逃げ回っていた。魔法を使う暇もない。彼らは攻撃をしながら、エレナたちに言葉を投げつけているようだった。
「アストラ! この人たち、すごく怒ってるみたい! 何とか落ち着かせられないかな!?」
「無茶言うなよ! くそ! 魔物だったら遠慮なくぶった切ってやるんだけどな!」
苦々しくつぶやいて、アストラは向かってくる小人たちの手元を蹴った。彼らは持っていたハンマーを遠くに落とす。
「攻撃を止めろ! でないと本気でけがするぞ!」
アストラが厳しい目をして警告した。だが言葉は通じていないようで、彼らが言うことを聞く気配はない。少しの間、動揺の色が見えただけで、まだこちらに向かってくる。
エレナは考えていた。どうにか小人たちの頭を冷やせないか。火の魔法は危険だから使えない。なら別の方法は?
彼女は魔法書に記されていた他の初級魔法を思い出す。試したことはないが一か八か、やってみるしかない。
エレナは杖を振り上げ集中し、声を上げた。
「水球!」
杖の先に水の塊が生まれる。彼女が杖を振ると、それはいくつも分裂して飛んでいき、小人たちに勢いよくぶつかった。
小人たちは冷たい水を大量に浴びせられ尻餅をついた。相当びっくりしたのか、水浸しの状態で固まってしまっている。
彼らの戦意が失われたところで、メルフは木の上から降りてきて、不可解な言葉を並べ立てた。
すると小人たちは驚愕の表情で青年を見つめ、急に武器を捨て、額を地面にこすりつけた。
「メルフさん、今、何を言ったんですか?」
エレナは息を切らしながら、尋ねる。
「小人たちに敵意がないことを伝えました。森を荒らすつもりもないと」
「彼らの言葉が分かるんですか?」
「はい」
「だったら、どうしてすぐ話をしなかったんだよ! おれたち、こいつらにぺちゃんこにされるところだったんだぞ!」
恨めしそうにアストラはメルフを睨んだ。
「申し訳ありません。小人たちが何者かに操られているかもしれないと思ったので、ちょっと様子を見させていただきました。どうやら彼らは誰かと私たちを間違えて攻撃していたようです」
「人違いだったってことですか?」
「ええ。詳しい話は彼らに直接聞いてみましょう。少しお待ちください」
二人がうなずくと、メルフは杖を前に突き出し、呪文を唱えた。