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西の王国

 彼らの行く平原は、緑で覆われていた。小さな草花が咲き乱れ、白や黄色の蝶が可憐に舞っている。


 空から降り注ぐ柔らかな陽射しは、まるでエレナの旅立ちを祝福してくれているかのようだった。



「それで? あんたはこいつをどこに連れて行こうってんだ?」


 村を出て数分が経った頃。アストラがメルフの横からぶっきらぼうに尋ねた。青年は軽快に足を進めつつ、問いに答える。


「ここから遥か西にある王国──【ヴェスタ】を目指そうと思います」


「それってもしかして、石の古城の?」


「エレナさん、ご存知なのですか?」


「はい。以前、村に来た商人さんから聞いたことがあります。ルピスからずっと離れた場所に、石の壁に囲まれた大きな城があるって」


「そう。この平原を越え森を抜けると、国王の住む城が見えてきます。先生は城下町の一画に住んでおられるので、なるだけ早くそこに着けるよう、頑張りましょう」


「城下町ですか! 私そんな所、初めて行きます! そこにはたくさんお店があるんですか?」


 エレナは嬉々として目を輝かせた。


「ええ。様々なギルドが町に集まっていますからね。服や武器、食べ物など、選びきれないほど売っていますよ」


「そうなんですね! すごく楽しみです!」


 王国、いにしえの城、にぎやかな町。


 初めて故郷の村を出たエレナには、触れたことのない世界だ。想像するだけでわくわくしてくる。


 自然に足取りを弾ませると、アストラは目を細め、からかうように呟いた。



「お前、田舎もん丸出しだな」


「うるさいなぁ。いいじゃない、別に。アストラだって楽しみでしょ?」


「おれはお前みたいに、はしゃいでねぇよ。ま、せっかく行くんだから、ついでに新しい剣とか見るけど!」


 心なしかアストラもうきうきした様子だ。この男、本当に素直ではない。



 メルフは慈愛に満ちた微笑みを浮かべ、話を続けた。


「あと一つお願いがあるのですが、森の中を通る際、私は遺跡の探索も合わせてします。もし見つかった場合は、詳しく調べさせてください」


 そういえば、宴の時もそんな話をしていたな。


 エレナは何となく気になって、彼に問いかけてみた。


「メルフさんはどうして遺跡を調べているんですか?」



 すると、彼は少しの間思案してから、真面目な口振りでこう話した。



「仕事もありますが、私自身に必要なことだから……ですかね。残念ですが、それ以上はお答え出来ません」


「ふーん、答えられねぇんだ? 隠し立てするなんて、やっぱりあんた、やましいことしてるんじゃねぇの?」


「ちょっと、アストラ!」


 あまりの不躾な言い方に、エレナは思わず持っていた杖で男の脇腹を突っついた。


「いってぇなあ! 何すんだよ!」


「アストラが失礼なこと言うからでしょ! すみません、この人、口が悪くて」


「いいんですよ。こちらこそ、不安にさせてしまい申し訳ない」


 メルフは悲しげに眉を下げる。詳細を言えないのには、どうも深い事情がありそうだ。


 しかしアストラは、おれはあんたのこと、まだ信用してねぇから!と宣い、彼を睨んでいる。


 エレナは一瞬、この男の口を本気でふさいでやろうかと思った。



「ところでエレナさん。先ほどリリーさんが言っていたことなんですが」


 メルフはアストラの威嚇をさらりと流し、話題を変えた。エレナはすぐに思い当たり、ちょっと照れながら答えた。


「はい! 実は私、大賢者ユーティス様みたいな、最強の魔法使いになるのが夢なんです! 誰かさんには、いっつもバカにされるんですけど」


 言ってからわざとアストラに目をやる。


 すると、だって魔法使えねぇじゃんと速攻で返された。否定出来ないのが、めちゃくちゃ悔しい。


「そう、ですか。それはなかなか苦労しそうですね。では、あなたはなぜ、そんなに強くなりたいのですか?」

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