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始まりの時

 うっとりするような甘い抱擁を解いた時、木の後ろからポロンとアストラ、それにリリーが現れた。



「きゃー! エレナお姉ちゃんとユーティス様、すてき!」


「やれやれ。アンタたち、ようやく想いが通じ合ったみたいだね」


「ぽ、ポロン先生っ! それに二人とも! いつからそこに!」


「さっきから居たよ。声をかけようと思ったけど、アンタらが盛り上がってるから、気配を消していたのさ」


「えぇえええええええええええっ!?」



 全然、気付かなかった……。



 エレナは恥ずかしくて、顔から火が出そうだった。ユーティスも真っ赤になり、気まずそうにしている。


 アストラは腕を組み、不機嫌さを全面に出しながら文句を言った。



「おい、お前ら! こんな目立つ場所でイチャイチャすんじゃねぇよ! 迷惑だろ!!」


「むむ。すみません。エレナさんがあんまり可愛いかったものですから、つい」


「かっ! 可愛いだなんて! そんなことないです!」



 ストレートに誉められて、エレナは動揺しまくる。右手をぶんぶん振って否定すると、ユーティスは真顔になって彼女を覗きこんだ。



「おや? ご自分では気付いておられないのですか? だったら私がエレナさんの魅力を、一つずつ丁寧に教えてさしあげましょう」


「ひゃあああ! 絶対やめてください! 心臓が破裂します!!」


「え? だめなんですか? その件ならいくらでも語れそうだったのですが……残念です」



 ユーティスはイタズラっぽく眉を下げ、自然と手を繋いでくる。エレナは頭から蒸気が出ていた。ドキドキしすぎて倒れそうだ。



「……ちっ。見せつけやがって。このくそったれが! お前ら盛大に爆発しやがれ!!」



 どす黒い感情を遠慮なくぶつけてくるアストラに、ユーティスは首をかしげて聞いた。



「それはどういう意味ですか? 魔法で吹き飛べとおっしゃるのですか? けれど、せっかくエレナさんと両想いになれたのです。どんな強大な魔法が来ても、私はエレナさんを守った上で生き残りますよ?」


「あー! うるせぇうるせぇ! 迫ってくんな! 勝手に幸せになりやがれ、この野郎がっ!!」



 アストラは詰め寄ってくるユーティスの首に腕を巻き付けて、ぎゅうぎゅう絞めた。手加減していると思いきや、本気で力を入れている。


 相手がユーティスじゃなかったら、即気絶しているだろう。



「アストラ! 僻みはそのくらいにおし! みっともない!」



 ポロンに一喝され、アストラは不服そうに羽交い締めを解いた。



「ふふ。さすがに痛いですよ、アストラさん」



 ユーティスは締め上げられたにも関わらず、満面の笑みを浮かべている。幸せの絶頂にある彼には、もうどんな攻撃も効かないらしい。アストラは脱力し、ものすごく疲労感を漂わせた。


 ポロンはそんな彼を不憫な目で見てから、エレナに問いかけた。



「エレナ。アンタ、まだ魔法の修業は続けるのかい?」


「もちろんです! ユーティスさんに教えてもらって、たくさんの魔法をみんなの役に立てたいと思います!」


「村をまた出ていっちゃうの?」



 リリーが淋しそうに聞いてくる。



「いえ。【転送】の魔法もありますし、ルピスを拠点にして各国に足を運ぼうと思います。ここはエレナさんの大切な故郷ですから」


「ユーティスさん。ありがとうございます」


「おれはお前らに、もう付いてってやんねぇからな! 親方にはどやされちまったし、孤児院の奴らに『どこにも居かないで欲しい』って泣きつかれちまったし! ……だからユーティス。エレナのこと、頼んだぞ」


「アストラさん……」


「バーカ! しょぼくれた顔すんなよ! いつでも会いにくればいいじゃねぇか! あと、剣の修業は欠かさねぇから、また勝負しろよな! 近いうちにお前をボッコボコにしてやるから、首洗って待っとけよ!」


「はい! 楽しみにしています!」



 アストラが不敵な顔で拳を差し出すと、ユーティスは爽やかに笑って拳を合わせた。



「そうそう。エレナに伝えておくことがあるんだ」



 ポロンが誇らしげに告げる。



「アンタにね、二つ名が付いたんだよ」


「二つ名って……世間に認められるような、立派な魔法使いにしかもらえないっていう、あの?」


「そうさ。その名も【意志の魔法使い】。感情を力に変えるアンタに、ぴったりだろう?」


「意志の魔法使いですか! すごい! 格好いいです!」


「あはは! それ、心の【意志(いし)】じゃなくて、石頭の【(いし)】だろ? 世界一頑固で、無謀で、諦めのわりぃお前にぴったりだな!」



 アストラの馬鹿にした笑い声と比例して、空気が冷え冷えとしていく。



「……アースートーラぁー!!」



 エレナのうなり声が響き、目が吊り上がる。怒りのオーラと共に、魔力量がぐんぐん上昇していく。ユーティスとポロンは口端を引きつらせ、二人を見つめた。アストラは身の危険を感じたのか、脱兎のごとくその場から逃げ出した。



「待ちなさい!」



 エレナは拳を振り上げ彼を追いかける。やなこった! とアストラは走り回った。リリーも彼を捕まえてやろうと、そこに加わった。三人は楽しそうにじゃれあっている。この間、魔王と戦ったのが嘘みたいに平和だ。




 ポロンとユーティスは、微笑ましく彼らを見ていた。穏やかな風が吹いてくる。


 ユーティスはおもむろに話しかけた。



「ポロン先生。実はここ二週間。例の神殿をくまなく調べたのですが、新たな事実が分かりました」


「何だい?」


「魔物が何故生まれてしまうのか、その原因についてです。始まりの時代、神は我ら三種族を創られた。しかし魔物はその時にはおらず、後から発生したものだった。奴らは魔力を有する者たちが死んだ後の、怨念から成っているらしいのです。だからきっと、争いが続く限り、魔物も完全に居なくなりはしない」


「ああ。そうだろうね」


「ですが数を減らすことは出来る。世界が幸せであるなら、奴らはおのずと減り、姿を消していくでしょう」


「魔物が言い伝えだけの存在になる日も、いつか来るかもしれないね」


「ええ。そうなっていって欲しいです。私は国や三種族の交流と共に、困っている皆さんのお力になれるよう、これから働きかけたいと思います」



 ユーティスはきりりとした顔に確かな志を滲ませる。ポロンは優しく微笑んでから、やる気満々に言った。



「さて! アタシは教え子たちと、また厄介な仕事に取りかかるとするかね!」


「仕事とは何ですか?」


「ヴェスタ王国の立て直しだよ! 政権を独占してた王たちが居なくなっちまったからね。王国の皆で新体制を整えなきゃいけないのさ!」


「ポロン先生、相変わらずお忙しそうですね」


「本当にね! さっさと隠居したいもんだよ! それに、あのヘルメって商人も訪ねて来たのさ。アタシの発明品を世に送り出したいんだって。断ろうかと思ったんだけど、アストラがどうしてもって頭を下げるからさ。売り上げの半分をもらうって条件付きで引き受けたんだ」


「そうですか」


「あの男、エレナが世界を救ったって聞くなり、『伝記と子供向けの本だ! そうしよう!』とか言って目を光らせてたよ。あれはろくなこと考えてないね」


「大丈夫です。私がエレナさんをお守りします。彼女に害をなす者は、誰であろうと容赦しません」



 ユーティスは一瞬、魔王を思わせる威圧感を出した。ポロンは、アンタ言うようになったねと、面白そうに口角を上げ、空を見つめた。



「……選ばれし稀少な者、【レアリア・ド・マキア】。神はアタシたちがこの世界に必要な存在か、試したのかもしれないね」


「ええ」


「アンタが持つ先人の知識。エレナの作る新しい魔法。未来はアンタたち次第で変えられる。だから頑張りな」


「はい。ありがとうございます、ポロン先生」



 ユーティスが力強くうなずく。するとその時、アストラに逃げられてしまったエレナが、坂の下から手を振った。



「ユーティスさーん! 今、時間ありますし、魔法の練習に付き合ってください!! リリーにも見せてあげたいんで!!」



 赤く綺麗な髪と、光輝く笑顔が見える。ユーティスの胸は喜びに踊った。



 あなたと、あなたの居るこの世界を、きっと幸せで満たしてみせる。そして私自身も、たくさん幸せになる。



 ユーティスは大賢者伝記を右手で拾い、脇に抱える。その心には未来への希望がいっぱい詰まっていた。



 あるがままの自分を受け入れ、夢への一歩を踏み出した彼。


 ポロンは背中を押した。世界を照らす太陽のような、明るい声で──。



「さあ、行きな! これから新しい時代が始まるよ!」

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