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地獄

──エレナたちの到着を待たず、東の平原では、ユーティスとウーディニアの戦闘が始まっていた。巨石がたくさん転がる中で、彼らは上級魔法の撃ち合いを繰り返している。



天空の一閃ファーマメントラッシュ!!」


悠久の暗黒エタニティーダークネス



 呪文がこだまして、光と闇のエネルギーが対峙する両者の中心でぶつかり合う。


 それはどちらかに当たることなく、たち消えた。



「諦めろ、大賢者よ。何度やっても我に届きはしない」



 落ちている巨石に降り立ったウーディニアは、余裕たっぷりにユーティスを見下ろす。


 ユーティスはきりりと眉を上げ、ウーディニアを見据えた。



「お前を倒すまで、私は諦めない! 森の溜め息(フォレスゾイフツァー)!」



 呪文を唱え、濃い霧を発生させる。視界を悪くするのと、【魔力探査】を使えなくする魔法だ。




「何だ? 目眩ましのつもりか? 無駄なことを」


「無駄かどうかは、やってみなければ解らないだろう!」


「生意気な奴だ。やはり力の差を思い知らせてやる必要があるな」



 蔑むように吐き捨て、ウーディニアは手のひらを左から右へ軽く振り、呪文を囁いた。



孤独の牢獄(ソリチュードプリズン)



 魔王の目の前に体長三十センチほどの黒い鳥が数百羽ほど発生し、赤い目をぎらぎらさせて、ユーティスに襲いかかってきた。



「くっ……!」



 ユーティスは鳥たちの攻撃を避け、巨石の隙間を逃げ回る。その様子を見たウーディニアは嘲笑を浮かべた。



「どうした、大賢者よ。もう反撃しないのか? それとも我に勝つために、魔力を温存しているのか?」


「黙れ!!」



 巨石の影から、ユーティスが怒声を上げる。



「くくく、図星か。とんだ悪あがきだな。まあいい。この鳥たちは純粋なる悪意の塊だ。攻撃を受ければ、口答えする気力も失せるだろう。ゆっくりと苦痛を味わえ」



 ウーディニアの指示で、鳥たちの飛行速度が増した。それは巨石の後ろから飛び出したユーティスの腹にぶつかる。


 苦しそうに顔を歪める、ユーティス。黒鳥は一羽、また一羽と顔や胸に当たり、体内に入り込む。そのうちに鳥たちは、ユーティスの四方を隙間なく囲い込み、真っ黒な檻を作った。


 檻の内側は見えないが、衝撃音とユーティスの悲鳴が漏れている。


 声が聞こえなくなったので、ウーディニアは魔法の発動を止めた。



 後に残ったのは、茶色い土の塊と、割れた魔鉱石だった。



「人形、だと……?」



 ウーディニアが驚きの表情で呟く。そこへ真後ろに迫っていたユーティスが、背中から飛びかかり、彼を捕まえ呪文を唱えた。



融合(フュージョン)!」



 左手に持った魔鉱石を、ウーディニアの身体と一体化させる。最大限に精度を上げた、【呪文封じ】の魔法入りだ。ユーティスは途中から、魔法で作っておいた人形と入れ替わり、ずっとこの状況を狙っていたのだ。



 ウーディニアは【禁断の書】の力を手に入れてからも、攻撃魔法は常に避けていた。裏を返せば、それを食らえばダメージを与えられるということだ。ならば確実に攻撃が当たるようにすればいい。



「貴様……何を!」



 ウーディニアは後ろから拘束してくるユーティスを、目線だけで睨んだ。



「私と共に地獄へ落ちろ」



 低くうなるように告げてから、ユーティスは巨石の影に隠れている人物へ大声で呼びかけた。



「皆さん、今です!!」



 ルカーヌとゼクターがユーティスたちの前に躍り出て、杖を掲げ高らかに魔法を唱えた。



聖なる剣(ホーリーブレイド)!!」


清廉の月光(ルナピュリティール)!!」



 その他の魔法使いたちも出てきて、攻撃魔法を放つ。同時にユーティスもウーディニアの胸元にある右手から、魔法を発動させた。



魂の追放 (ソウルバニッシメント)!!」



 複数の光魔法がウーディニアに集中する。彼と一緒に魔法を食らっているユーティスは、全身から汗を流し、苦悶の声を漏らした。それを見たルカーヌの手が震え、魔法の軌道がわずかに揺らいだ。



「不愉快な……!」



 怒りを露にしたウーディニアは、強大な邪気を放出する。パキンと割れる音がして、彼にくっついていた【呪文封じ】の魔鉱石は地面にバラバラと砕け落ちた。


 ウーディニアは黒い翼を羽ばたかせ、ユーティスを乱暴に振り落とした。彼は身を縮めながら、地面を派手に転がっていく。ウーディニアは魔法を唱え、大蛇の形の闇を大量に飛ばし、そこに居る魔法使い全員を倒した。



 濃霧は晴れ、騒がしかった平原はぞっとするほど静かになった。


 ウーディニアは目元にかかった前髪を右耳にかけ、巨石の上から魔法使いたちを眺めた。



「なかなかいい案ではあったが、残念だったな。魔法が当たったところで、我を殺せはしない。何故なら、我がこの世で最も強い存在だからだ。何人束になってかかってこようと、関係ない」



 横たわるユーティス、ルカーヌ、ゼクターの顔に、悔しさが滲む。魔力切れで立ち上がれもしないようだ。ウーディニアは愉しげに笑った。



「しかもそこの年寄りは、あろうことか途中で攻撃の手を緩めたのだ。この我に油断するなど、笑止千万。愚かの極みだ」


「ルカーヌ殿。何故そのような行動を……」



 うつ伏せ状態のユーティスは、離れたところでうずくまっている男に尋ねた。ルカーヌは苦しげに返事をした。



「それがしは責任ある立場も任されておる。皆のために、魔法の力を正しく使わねばならぬ」



 ルカーヌは拳を握った。



「だが『正しさ』とは何だ? 人の幸せを守るのが正義ではないのか? 心優しき者を、危険だからと排除するのが、本当の正義なのか?」



 ルカーヌの瞳には涙が溜まっている。



「大多数の命を助けねばならぬと解っている! だがそれがしはやはりっ! 愛弟子であるそなたを殺したくはないのだっ!!」



 悲鳴にも似た叫びが辺り一帯に響いた。ユーティスは心底驚いて、師を見つめた。



「ルカーヌ、様……」



 心の声を知ったあの日から、ユーティスはずっと、彼に嫌われていると思っていた。でも、それは間違いだったと、彼の言葉で気付いた。ルカーヌは自らの立場に悩みながら、ユーティスをちゃんと大事にしてくれていたのだ。



「くだらん」



 ウーディニアは冷酷に言い放って、ルカーヌを魔法で撃った。ルカーヌは肩を貫かれて、地に顔をつけた。



「そんな言葉など、まやかしに過ぎん。実際、貴様は殺意を持って、奴に接していただろう? 人間は皆、汚い。他者を疑い、差別し、憎み、挙げ句の果てに殺し合う。その証拠に長い歴史の中、彼らは何度争いを起こしてきた? 奴らは罪深き存在だ。人間の存在こそが、悪なのだ」



 ウーディニアは平原に生き残っている者たちを、冷えきった目で見つめた。



「やめろ! もうこれ以上、関係のない人たちを巻き込むな!」


「くくく。大賢者よ。何を慌てている? 宴はまだまだこれからだぞ?」



 ウーディニアは大きな翼を羽ばたかせ、高い場所から広い大陸を臨んだ。三国の姿も見える。



「我の神たる力を、見せてやろう」

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