表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
134/159

口封じ

──ちょうどその頃。



 エレナとアストラは、ヴェスタ王国の防壁前に来ていた。数分前【転送】の魔法でここへたどり着いた彼らは、関所にて緊急事態が起きていることを知り、三国の軍を追いかけようとしているところだった。


 エレナは胸元にリボンの付いた藍色のローブを着ており、アストラは黒緑の鎧に身を包んでいる。



「まさか魔物の群れがこっちに向かってきてるとはな! ウーディニアの仕業だと思うか?」


「たぶんね! みんな、どの辺りまで行ってるだろう? 早く追いかけないと!」



 エレナは焦りと緊張でいっぱいだった。知らせを受けてから、どうにも胸騒ぎが止まらないのだ。二人はだだっ広い平原を東へと走った。


 しばらく経ってから、翼のはためく音が近づいてきて、彼らの上に大きな影が揺れた。



「え!? クラドーさん!?」


 エレナが空を見上げ叫ぶ。アストラもびっくりした顔をしてから、両手を振って大声で呼び止めた。ネルバを乗せたクラドーは平原に降り立つ。ドリーとコドルも一緒だ。



「こんなところまで来て、一体どうしたんですか? しかもみんな揃って」



 エレナは不安になり尋ねた。彼らは人間たちを嫌い、見つからぬようランドルグでひっそり暮らしていたはずだ。なのにこんな目立つ行動を取るとは、よっぽど切羽詰まった出来事が起こったに違いない。


 エレナの問いに、ネルバは眉をひそめ荒々しい口調で答えた。



「どうもこうもない! 【封印の神殿】を探しにきたのだ!」


「封印の神殿?」


「そうだ! 世界の危機を防ぐため、私たちはそれを探し回っておる! しかし数百年の間に地形もずいぶん変わっており、それらしき建物を見つけられんのだ! お主ら、心当たりはないか?」


「そこには何が封印されてるんですか?」


「大陸全土を一瞬で焼き尽くすほどの強い力だ! その大きさたるや、神に匹敵するとも言われておる!」


「もしかして、古代遺跡のことじゃねぇ? ほら、ユーティスが前に言ってたじゃねぇか。あそこには世界に災いをもたらす【禁忌の力】が封印されてるって」


「それだ! 吾輩たちの求める場所は! お主らすぐに案内せよ! 黒いローブの男が神の力を狙っておる!」


「黒いローブの男? ……ウーディニアか!」


「まずいよ! 急がなきゃ!」



 エレナとアストラは、クラドーの背に飛び乗った。


 一番前に座るネルバが促す。


「よし、行くぞ!」


「皆しっかり掴まっておれよ!」


 クラドーの一声で、三人は両腕を広げ、彼の背にぎゅっとしがみつく。


 竜は空を切り、エレナたちの案内の下、古代遺跡を目指した。ドリーとコドルも追随した。



 長い赤髪が真横になびき、顔にぶつかる風が頬を突き刺すようだ。


 低空飛行しながら平原を進むと、遺跡が見えてきた。エレナとアストラは驚愕の表情をして叫んだ。



「どうなってんだ……!?」


「遺跡が大きくなってる!!」



 数週間前に見た形状とは、似ても似つかぬ姿になっている。何をどうしたらこんな背の高い建物になるのか。エレナは理解に苦しんだ。



「なんということだ! 我らは間に合わなかったのか!」


「ネルバさん! これはどういうことなんですか?」


「あれは古代よりもさらに昔。始まりの時代に創世の神レアリアが住んでいたという神殿だ。言い伝えによると、それは力と一緒に隠されていたはずだが……どうやら封印が解かれてしまったらしい」


「ウーディニアが、力を手に入れちまったのか!」


「嘘でしょ……何とかしなきゃ!」


「ぬ!? いかん! 皆、伏せろ!」


 皆が神殿に気を取られていると、斬撃が下から飛んできて、クラドーはとっさに身を翻した。エレナはきゃあと、か細い声を上げる。


 斬撃が来た方角を見ると、紫の鎧に身を包んだ男が居た。



「驚いたね。まさか大昔に滅んだはずの竜と妖精をお目にかかれるとは」



 ロゼだ。黒い瞳でこちらを見上げ、薄笑いを浮かべている。クラドーとネルバは嫌悪感を滲ませ、彼を見返した。ロゼは憂うような声色で質問した。



「ところで君たち、どこへ行くつもりかな? せっかく博識の魔法使いとあの男がこれから戦うところなのに、邪魔しないで欲しいんだけど」


「ユーティスさんが、この上に?」


「ああ、そうだ。でも行かせないよ? 君たちにはここで、死んでもらう」



 そう言って、ロゼはまた斬撃をいくつも飛ばしてくる。クラドーはどうにかそれを飛び回って避けた。三人は振り落とされそうになるのを懸命に耐える。



「くそ! ユーティスのとこに早く行かなきゃなんねぇってのに!」



 アストラは舌打ちし、前に居るエレナへ呼びかけた。



「エレナ! クラドーや姉さんたちと一緒にユーティスのところへ行け!」


「アストラはどうするの?」



 エレナは後ろを振り返り、早口で問う。



「おれはこいつの相手をする!」


「そんな! 一人で戦うつもり!?」


「心配すんな! やられやしねぇよ! おれを信じろ!!」



 アストラは揺るがぬ視線をエレナに送った。エレナは彼をじっと見つめてから、真剣な顔でうなずいた。



「分かった! 絶対、無事で居てね!」


「ああ! 任せろ! クラドー! 行ってくれ!」


「……解った!! アストラ! 吾輩との鍛練を忘れるな!」


「おうよ!」



 クラドーは神殿を見上げ羽ばたき始める。



「行かせないって言ってるだろう?」



 ロゼがクラドーの翼めがけて、ひときわ大きな斬撃を放つ。それをクラドーの背から飛び降りたアストラが、同じく斬撃を繰り出して相殺した。


 ロゼは目を丸くしてから、無事に地へ足を着けたアストラを、じろりと眺めた。



「へえ。意外とやるじゃないか」


「お前の相手はおれがしてやる! あいつらは追わせねぇ!」


「君に僕が止められるかな?」




 クラドーたちは高く飛び上がり、アストラは睨みをきかせ、遠くで剣を構えるロゼと対峙する。平原を見渡すと、そこには悲惨な光景が広がっていた。



「何だよ、これは……!」



 ロゼの周囲には、大勢の者たちが倒れ、うめいていた。中には縛られた姿の者も居る。獅子の紋章の鎧を着ているところを見ると、どうやらヴェスタ王国の兵士らしかった。


 鼻腔に貼りつく、血の匂い。アストラは気分を悪くしながら、ロゼに聞いた。



「こいつら、お前が切ったのか?」


「ああ、そうだよ」


「お前はウーディニアの手下なのか?」


「まさか。僕は自分の意思で行動しているんだ。あの魔法使いに力はもらったが、心まで捧げてはいない。まあ、彼は僕を手下だと思ってるだろうがね」


「だったら何で、自分の国の奴らまで攻撃すんだよ?」



 ロゼは構えを解き、左手で前髪を掻き上げた。



「いにしえの時代、世界を一手に治めた『トーヴェノイタス』。かつての大国を再興するため、ヴェスタはこの戦いで、イストとノースの有力者を始末するつもりだった。けど僕は、常々()()()のやり方では、民を言いなりに出来ないと思っていた」


「あいつ?」


「父親面した男のことだ。あいつのように力で脅し民を抑圧しても、いずれ不満は爆発し、自身を脅かす存在となる。ヴェスタ王国が平和条約を破り侵略を企てたと知れば、各国から反発も出るだろう。そうならないために、今回の件はイスト王国から仕掛けたことにするんだ。あとの二国は巻き込まれた体にすればいい。そして僕は正義の名の下に、卑怯な敵国を打ち破ったことにする」



 ロゼは困り顔でアストラに告げた。



「だが一つ問題があるんだ。この場に残っている者たちは、本当のことを全部知っている。だから口を封じなければならないんだ。一人残らずね」



 何だよ、それ。そんなことのために、こいつらを殺るつもりか? 



 アストラは怒りに震え、拳を痛いほど握った。



「てめぇ、人の命を何だと思ってやがる!!」


「弱者の命など、とるに足らないものだ。少しくらい数が減ったところで、困りはしないだろう?」


「信じらんねぇ! 頭おかしいんじゃねぇの? てめぇみてぇな奴、上になっても誰も付いてきやしねぇよ!」


「ああ、そうだろうね。けど世間的に、僕は良識ある人物で通ってるんだ。ここにいる皆が黙ってくれたら、僕の本心など解りはしない。真実も正義も、いくらでも作り替えられるんだよ。戦争に勝ち、生き残れさえすればね」



 この野郎、性根が腐ってやがる……!! 



 アストラはかなり頭にきていた。ロゼも古代の人間と同じく、不都合なことを闇に葬り、真実をねじ曲げようとしている。


 誤った伝承のせいで長年虐げられてきたクラドーやネルバの気持ちを考えると、アストラは彼の行動がどうしても許せなかった。



「くそ王子が……!! てめぇは野放しにしておけねぇ!! おれがやっつけてやる!!」


「ふぅ。下品な男だな。穢らわしい」



 ロゼはため息をつき、皮肉たっぷりに嘆く。アストラは竜の鎧を煌めかせながら走り、剣を抜いた。ロゼは攻撃を素早く受けた。


 キィンッと鋭い音がして、刃が拮抗する。



「ここに居る人間を、まだ全員始末してないんでね。悪いけど本気を出させてもらうよ?」



 ロゼはにたりと笑って、剣を強く弾いた。アストラは後ろに飛んで、彼から五メートルほど離れた。


 ロゼは剣をいったん地面に刺し、両手を柄頭に載せた。



「君に僕の最強の姿を見せてあげよう!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
架け橋 ななの他作品

モフモフと美形の出る異世界恋愛
*毒舌氷王子はあったかいのがお好き!*
― 新着の感想 ―
[良い点] こんにちは!! やっとの思いで、呪いを解いたのにユーティスのバカ!!!( ;∀;) エレナちゃんやアストラがどんな思いでやって来たのかって思うと……。1人で抱え込み過ぎ。アストラも殴ろうと…
[良い点] グラドー! 来てくれるとおもってました! 竜に乗るエレナ、かっこいいー。 [気になる点] ロゼ、許さぬ。しかも、進化するの? [一言] おかえりなさーい! 不死鳥のななさん! 待っ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ