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独占欲

──そして現在。


 時刻は昼になる前。



 平原を数キロ東へ進んだところに、三国の者たちは居た。



 ロゼ率いる大勢の兵士たちは、最前列。その後方をゼクターと魔法使いたちが追随している。皆、魔物の群れとの戦闘に備え、集中し息を詰めていた。



 各国の王は馬に乗り、最後尾を駆けていた。


 マウルは金色の鎧を身に付け、赤いマントをはためかせている。長剣を背にぶら下げ、余裕の表情だ。


 家来である魔法使いの後ろに横乗りするスコルディーは、青の動きやすそうなドレスに着替えていた。ダミアも白シャツに茶色いベストとズボンという軽めの服装となっており、護身用の短剣を腰に差して手綱を引いている。


 ルカーヌは王たちの後ろを颯爽と走りながら、周囲の状況に目を光らせていた。



 ユーティスはこちらに向かっているだろうか? 



 彼の容態について、ルカーヌは今朝がた伝書フクロウから連絡を受けていた。『呪いは解け、体力も回復。緊急会議の旨は伝えた』と、手紙には記してあった。


 表には決して出さないが、ユーティスの無事をルカーヌは心の底から喜んでいた。これで彼が暴走することはない。愛弟子を手にかけずに済むと思うと、彼は素直に嬉しかった。



 そういえば、以前ユーティスと魔物の討伐へ向かったな。



 フォボスが倒れて一ヶ月後だったか。ユーティスのめざましい成長ぶりに驚愕したのを、今でもはっきりと記憶している。思えばその時から、彼とは距離を置いていた。ユーティスは気付いていただろうか。厳しく接してばかりで、淋しい想いをさせたかもしれない。


 油断すると彼に情を傾けている自分が居る。ルカーヌはすぐさまその想いを、心の隅へ追いやった。来ないとは限らない、まさかの事態を想定して。



 あの日は治癒の魔法使い殿も一緒であったな。



 先日、会議に出席した際、ポロンの姿はなかった。マウルに問い合わせたところ、彼女は教え子たちと行方不明になっていると聞かされた。



 新たな魔王にさらわれてなければ良いが。



 一瞬そう考えたものの、ポロンの自信満々な笑みが脳裏に浮かんで、「いや、あのご婦人に限ってそれはないな」と思い直した。ポロンなら魔王が相手でも、反撃して逃げおおせそうな気がしたのだ。



 治癒の魔法使い殿がいれば、怪我をした者を早急に治せたのだがな。



 救護の人手がない以上、可能な限り負傷者が出ないように立ち回らねばと、彼はより気を引き締めた。



 しばらくして、王たちは白い巨石で造られた古代遺跡の近くまでやって来た。



「魔物が現れたのは、この先らしいぞ。ここでしばし待つとするか」



 マウルが声をかけ、王たちは馬を降りた。三人は遺跡の中に入り、石の隙間から遠くの様子を探った。辺りはやけに静かだ。



「敵の姿が全く見当たらぬな」



 遺跡の側。東を見据えたルカーヌが不審に思う。魔力探査をしても、それらしき気配を感じ取れない。



 どこかに潜んでいるのか? それとも……? 




「うわぁあああああああ!!」



 突然、叫び声が響き、前方を進むイスト王国とノース王国の兵士たちが、バタバタと倒れ始めた。


 見るとヴェスタ王国の兵士たちに、皆こぞって切りつけられている。三国の兵士たちが入り交じって戦闘を始めた。その中をロゼは疾風のごとく駆け抜け、魔法使いを切り捨てていく。皆は混乱し、悲鳴を上げ、平原は騒然となった。


 ダミアは血の気の引いた顔をし、大声で言った。



「これはどういう事だ!? マウル閣下! ロゼ殿下らを今すぐ止めてくれ!!」


「……むう? 余が何故そのようなことをせねばならんのだ?」


「何だと?」


「我が息子は余の命令で動いておるのだ。奴には『イスト王国及びノース王国の者たちを、この場で皆殺しにしろ』と伝えてある。すぐにそれは実現するだろう」


「では、魔物共の襲来は?」


「ふっ! 当然、偽りである!」


 不敵な笑みを浮かべ、嘘をあっさり認めたマウルを、皆は驚きの表情で見てから睨み付ける。ルカーヌはとっさに、ダミアとスコルディーを背に隠そうとした。だが彼女はそれを振り切り、怒鳴りながらマウルへ近づいていった。



「下衆が! やはり、たばかりおったな!」


「この程度の策も見抜けんお主が浅はかなのだ。しょせん、王の名に守られるだけの女。お主には何の力もない」


「何だと! お主わらわを侮辱するのか!!」


「侮辱? それが真実であろう? か弱き女に出来ることなど何もない。ここで余にひざまずき、命乞いをするぐらいなものだ」


「馬鹿にしおって……!! わらわが本当に何も出来んか、今この場で証明してやる!!」



 スコルディーはドレスの下に隠していた護身用の短剣で、マウルをいきなり切りつけようとした。マウルはそれを易々と避けた。



「陛下! 危険です! お止めください!」


「うるさい!! こやつはこのわらわが仕留めるのだ!! 口を出すな!!」



 ゼクターが走ってきて制止するが、スコルディーは完全に平静さを失っていて聞く耳を持たない。彼女はマウルに向かって短剣を振り回した。彼はそれを難なくかわした。



「ふう。スコルディーよ。そのような物騒な玩具を振り回しては、美しい姿が台無しだぞ?」


「黙れ、このうつけ者めが!!」


 ため息をこぼすマウルの頬を、剣の切っ先がかすった。彼は痛そうにするでもなく右手で頬を押さえた。



「ははは! どうだ! 当たったぞ! 女だと思って油断したな? この剣には猛毒が塗ってあるのだ! 傷を受けたお主の命運はもはや尽きた! 自分の愚かさを恥じ、苦しみにもだえながら死ぬがよい!!」


 スコルディーは醜い本性を露にし、高笑いをした。


 だがマウルは口角を上げたまま、一向に倒れる気配がない。手をどけると、頬は綺麗なままだ。彼女の唇から笑みは消え、代わりに激しい動揺の色が表れた。



「な、何故だ? 確かに当たった感触があったのに!」


「残念であったな、スコルディーよ。余には【身体強化】の魔法がかかっておるのだ。毒は体内に入っておらん」


「お主、いつの間にそのような魔法を!」


 焦る声を聞き終わるまでに、マウルは素早く距離を詰め、彼女の右手を殴り短剣を落とす。



「陛下!!」



 ゼクターが短剣を抜きスコルディーの前に飛び出る。マウルは剣を籠手で受け止めて跳ね返し、空いた彼の横っ腹を蹴り飛ばした。勢い良く草むらを転がるゼクター。


 その隙に彼は落ちている短剣を拾い、スコルディーの左腕を力いっぱい切りつけた。


 青のドレスの袖が赤に染まる。


「うぁっ……!」



 衝撃を受け吹っ飛ばされたスコルディーは、数メートル先の草の中へ倒れた。彼女は猛毒に犯され叫喚の声を上げる。すぐさまルカーヌが治療しようと駆け寄るが、時すでに遅く絶命していた。マウルが遺跡の内側から楽しげに喉を震わせている。



「ふっふっふ。いいぞ。毒婦にはぴったりの死に様だ」


「貴様!! よくも陛下を!!」



 立ち上がったゼクターが杖を掲げ、魔法を唱える。ルカーヌも同様に杖をマウルへ向け叫んだ。だが何も起きない。彼らは目を剥き固まった。



「ふははははは!! 間抜けめ! ここでは魔法は使えんぞ?」


「マウル! そなた一体何をしたのだ!?」


 ルカーヌが怒声を飛ばす。



「この辺り一帯を呪文封じの魔鉱石で囲んでおいた。よっていかなる魔法も無効だ」


「お主、最初から朕を殺すつもりであったのか?」


 ダミアがルカーヌの背中越しに尋ねる。



「そうだ。そのつもりでお主らをここへおびき寄せた」


「朕は、お主の言葉を信じておったのだぞ?」


「ふん。平和ボケした年寄りが。他人を簡単に信じるお主が馬鹿なのだ。しょせん友好など上辺だけ。王は一人で十分であろう?」



 絶句するダミアを、マウルは容赦なく嘲る。彼の目は濁りきっていた。何もかも自分だけの物にしたいという、独占欲で。



「我が国最古の書に、こうある。邪竜と精霊を滅ぼした、いにしえの時代。ヴェスタ・イスト・ノースは巨大な一つの国であった。そして全権力は、ただ一人の王が握っていたのだ」



 マウルは両腕を広げ、血走った瞳で空を仰いだ。



「余は三国を統一する! 失われし古代の国、【トーヴェノイタス】を再興するのだ! 余はその誉れ高き初代の王となる! この世の全ての者たちを、我が強大な力で支配するのだ!!」

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― 新着の感想 ―
[一言] 化けの皮が剥がれましたね。皆様ピーンチ! 反撃だー! ユーティスと主人が何をしてるか気になりますね。ワクワク。
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