第13層 『そりゃ分からん訳だ』
Q.なぜ鏡也のステータスが出てこなかったのか
A.出し方を知らなかったか
ということでした
「…………へっ?」
俺の質問に、シャルフィールが間の抜けた声を上げる。
何を聞かれているか分からない……というか、なんでそんな事を聞くのか分からないといった雰囲気だ。
「ステータス……ですか?」
「あぁ、ステータスだ」
ステータス。
スライム達の特性を確認する時にも見た半透明のボードのようなアレだ。あるいは異世界系のラノベで主人公達がたいていの場合は比較的最初の方に見る能力値的なアレとも言える。
スライム達や侵入者のステータスは迷宮核の権能で見る事が出来るのだが、どういう訳か俺のステータスをみる事だけが出来ないのだ。
自身のステータスは元から見れるのだから、わざわざ迷宮核がその機能を持っている必要がないという事なのだろうか。
とりあえず口頭で「ステータス」と言ってみたり、逆に念じてみたりしたが、ついぞ俺のステータスが現れることは無かった。
もしかしたら迷宮主にはステータスは無いのでは?とも思ったが、迷宮核から与えられた情報の中に『迷宮主のステータス値に応じて召喚可能になる魔物もいる』と言うものがあったので、その可能性は無いはずだ。
となると、何かステータスを開くために必要な手順があるはずだ。
個人のステータスを確認するのに何らかのアイテムやスキルが必要なら、迷宮核がその権能を備えているはずだ。
迷宮主が自身のステータスを把握出来てないなんて迷宮にとっても死活問題だからな。
「えっと……キョウヤさんは自分のステータスを開いた事がないんですか……?」
「あぁ、ステータスというものがあるのは知っていたんだが、どうにも開き方が分からなくてな……」
せっかく異世界に来たんだから自身のステータスを確認したいと思うのは当然の事だろう。だが、その確認するための方法が分からないせいで今の今まで先延ばしになっていたのだ。
「誰かに教えて貰おうにも、こんな場所に住んでるせいでそれも叶わない。そんで結局ずるずると知らないまま……って感じでな」
「そんな事が……はい、分かりました。そんな事でよければいくらでもお教えしますよ」
「おぉ、助かる」
これでようやくステータスを見ることが出来そうだ。
やっぱ異世界に来てまで自分のステータスが確認出来ないってのはモヤモヤするものがあるからな。
「えっと、まず……ステータスは1度開いてしまえば次回からは必要ないのですが、最初に開く時だけ魔力を流してあげる必要があるんです」
「なるほど……そりゃ分からん訳だ」
魔力を……ねぇ。確かにステータスを開こうとする時にそんなもの意識してこなかったし、そもそも魔力とはなんぞやってレベルだ。
だが……魔力を流す必要があると分かればこっちのもんだ。迷宮核が言うにはDPも広義の意味では魔力の一瞬らしいので、DPを消費する時の感覚をイメージすればいいだろう。
さらに、初回に限り「ステータス」と発声する必要があるらしい。それ以降は必ずしも発声する必要はないのだとか。
「よし、行くぞ……『ステータス』」
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個体名:ヒムカイ・キョウヤ
種族名:人族
性別:男
年齢:24
ジョブ:迷宮主
レベル:1
HP:1000/1000
MP:1000/1000
STR:20
VIT:20
AGI:25
INT:40
MND:60
【スキル】
『日向鏡也』
『不老』『意思疎通』
【称号】
『迷宮主』
『無類のスライム好き』
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「おぉ……」
まさにイメージしたまんまの、ゲームとかでよく見るような“ステータス”だ。称号に『無類のスライム好き』があるという点もポイントが高い。
能力値に関しては……INTとMNDが高い程度で他はだいたい平均くらいか……というかMNDが相当高いな。
元の世界での存在を抹消されて異世界に連れていかれるなんて超常現象でも発狂しなかったのはここら辺に関係してるのか……?いや、ステータス値のMNDと実際のメンタルは関係無かったんだったか。
スキルにある『日向鏡也』というのは、元の世界で俺が出来たこと……つまりは日本で生きてきた『日向鏡也』という存在の全てを記した、元の世界の思い出の様なものらしい。
なんというか……改めてこういった形で元の世界と繋がりのある物を見せられると、なにか感慨深いものがあるな。
そして、それとはまた別の『不老』と『意思疎通』というなにか物騒な名前のスキル。『意思疎通』は確か最初の方に迷宮核からインストールされたヤツだったはずだ。
俺がこの世界の住人(と言っても今のところまともにコミュニケーションを取ったのはシャルフィールだけだが)と問題なく意思の疎通が出来るのはこのスキルのおかげという事なのだろう。
この世界のスキルの定義としては逆じゃないか?とも思ったが、中には取得する事で初めて使用可能になる特殊なスキルも存在するとコアえもん(の遺した知識)が教えてくれた。
そして、1番物騒な『不老』は、迷宮主に必ず与えられる、これまた取得から入るタイプの特殊なスキルらしい。
このスキルを所持している者は寿命の概念が無くなり、怪我や病気などの外的要因以外では死ななくなるらしい。
「開けましたか……?」
俺が自身のステータスとにらめっこをしていると、急に黙り込んだ俺を不審に思ったのかシャルフィールが遠慮がちに話しかけてきた。
「っ、あぁ、ごめん。初めてステータスを見たからつい……ね」
仕方ない部分もあるとはいえ、思い切っきりガン無視してしまったのは俺なので、とりあえずシャルフィールにはしっかりと謝っておく。
「教えてくれてありがとう。おかげで自分のステータスをしっかりと確認する事が出来た」
「いえ、この程度でよければ……えっと、それで……」
シャルフィールは嬉しそうにはにかんだ後で、少し目を伏せ遠慮がちにチラチラと俺を見てくる。聞きたい事があるけれど自分からは言い出しにくい……そんな感じだ。
とはいえ、シャルフィールの要件は分かっている。
ステータスの開き方を教えてもらう事はあくまでついでだ。
「んじゃ、ステータスの開き方も教えてもらった事だし……シャルフィール。これからよろしくな」
「っ!ありがとうございます……!」
耳をピンッ!と逆立ててシャルフィールは嬉しそうにほほえんだ。
今この瞬間かから、俺とシャルフィール……迷宮主と元奴隷少女の奇妙な共同生活が始まりを告げた。
The・ここからだエンド
時間が出来たりアイディアが浮かんだりしたら続きを書くかもしれませんが今回で一応完結です。
感想欄で貰ったスライムのアイディアも素晴らしいのばかりなのでいつか2部を書く時は全力で使用させていただくつもりです