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第12層 『1つだけ条件がある』

 

 シャルフィールは泣きながらこれまでの経緯を半ば独白の様に語ってくれた。


 数ヶ月前に住んでいた村がフラーム聖国の神聖軍に異端狩りとして焼き滅ぼされてしまい、そのいざこざの中でシャルフィールは奴隷に落ちてしまう。

 そして、奴隷として買われたのが先程の冒険者達で、買われてからの数ヶ月の間は相当過酷な環境で酷使されたてきた。

 そしてこの迷宮(ダンジョン)に連れてこられ、偵察に出たまま帰ってこない盗賊を探して来いと1人で迷宮(ダンジョン)の奥に放り出された。


 まとめるとだいたいこんなところだろう。村が焼き滅ぼされたところや冒険者達に買われた後の数ヶ月間の間の事なんかは端折らせてもらったが、実際はもっと生々しく眉をひそめたくなる様な胸クソ悪くなる事をシャルフィールは体験していた。


 ちなみに、フラーム聖国やら神聖軍やら異端狩りやら、ちょっと知らないワードが飛び出して来たが質問する訳にも行かず、聞きに徹する事にした。


 後々調べてわかった事だが、フラーム聖国というのは、この迷宮(ダンジョン)からは結構離れた位置にある、国家と宗教の二本柱で政治を執り行っている非常に珍しい政治体系をしている宗教国家で、人族至上主義の国らしい。

 獣人やエルフ、ドワーフなど、人族以外のヒト種は全てなり損ないや紛い物として“亜人”と言う蔑称を使っているのだとか。

 美桜が聞いたら「こんなモフモフの素晴らしい種族を差別するなんてとんでもない!」とか言って激昂しそうな国だな……


 そんでもって神聖軍とやらはそのフラーム聖国の教皇直属軍であり、フラーム聖国の軍隊は国王直属の正規軍と教皇直属の神聖軍の2つがあるらしい。

 そして異端狩りと言うのは、人族の紛い物である亜人を神の名の元に滅する……という建前で人族以外の種族の集落に攻め入っては殺すか奴隷として売りさばくかするという、なんとも胸クソ悪い行為の事だそうだ。


 それら全てを聞き終えた鏡也は、目の前でいつの間にか胸元に抱え込んでいたブルースライムを撫でながら真っ赤に泣き腫らした目元を隠すように、恥ずかしそうに顔を俯かせるシャルフィールの姿を静かに見守っていた。


 結局シャルフィールが泣き止んだのは、全てを語り終えてから更に30分近く経った頃だった。

 散々泣いて気持ちを吐き出し切った彼女の顔は、最初に見た時よりも表情に生きる力が満ち溢れていた。


「すい……ません、ありがとう……ございました」

「あぁ、気にするな。さっきも言ったけど辛い時は気持ちを吐き出すのも大切だからな」


 俺がそう言って立ち上がり、軽く伸びをすると背骨がポキポキと音を鳴らす。

 んん〜と声を漏らしながら体を伸ばしている鏡也を横目に、シャルフィールは「はい……」と小さく呟くと、すっかり冷めてしまった卵スープに口を付ける。


「それで……シャルフィールはこの後どうする?迷宮(ダンジョン)から出たいなら送ってくよ。ただ、俺はここを離れる訳にはいかないし迷宮(ダンジョン)の外からは1人で行ってもらう事になるけど……それでも大丈夫か?」

「それは……ごめんなさい。先程話した通り私はあの人達に連れ回されていたせいでレベルこそ上がってはいますが……それだけです。魔物を相手にした事なんて今まで1度もありません。迷宮(ダンジョン)の外に送って貰ったところでとても街まで行けるとは……」


 なるほど……レベルは12とそこそこあるのにスキルに戦闘系のスキルが全くと言っていいほど無かったのはそういう事か……

 彼女の持っていた『爪術』は狼人族なら全員が生まれながらにして持っているものらしく、『白狼化』という見るからに強そうなスキルも使った事無く、それ以前にそもそも使い方が分からないらしい。


 この迷宮(ダンジョン)の周囲の森にはゴブリンやコボルト、オークと言った魔物も生息している。

 確かにこれでは近くの街(それでも十数kmは離れている)にすらたどり着けるか怪しいだろう。


「あの……キョウヤさんはこの迷宮(ダンジョン)で生活しているんですよね……?」


 あーまずったな。

 さっきは思わず口を滑らせてしまったが、 俺がこの迷宮(ダンジョン)迷宮主(ダンジョンマスター)である事は伏せた方がよかったかもしれない。

 この世界にとって迷宮(ダンジョン)とは宝の山であると同時に魔物や(トラップ)が蔓延る危険地帯なのだ。

 完全に管理出来るならともかく、それ以外の迷宮(ダンジョン)ならとっとと攻略してしまえというのがこの世界の認識である。


 迷宮(ダンジョン)が攻略……つまり迷宮核(ダンジョンコア)が破壊されるか迷宮主(ダンジョンマスター)を討伐すれば、新たな宝と共に魔物や(トラップ)が出現しなくなり、既に出現している魔物や(トラップ)が消滅無いし機能停止する。

 それ故に管理出来ない迷宮(ダンジョン)はさっさと潰してしまうに限るのだ。


 まぁ迷宮(ダンジョン)の奥地で魔物と共に生活しているとか状況証拠としては十分すぎる気はするけどな。


「……あぁ。スライム達と一緒にここで生活してるんだ」


 そんな事を考えていたせいで返事がワンテンポ遅れてしまった。

 だが、幸いな事にシャルフィールが特に気になった様子は無かった。


「なら……お願いします。私もここにいさせてください!」

「……へ?」


 ここにって……迷宮(ダンジョン)にって事だよな……?

 一般的に迷宮(ダンジョン)の認識って危険区域となんら変わりないが……


「ここにって……迷宮(ダンジョン)だぞ?いいのか?」

「私は奴隷……運良く街にたどり着いたところで同じような事の繰り返しになるだけです。それよりもこの迷宮(ダンジョン)の方がよっぽど……」


 これまでの事を思い出しているのか、シャルフィールは悲痛に歪んだ顔ですがり付くように目の前の青年に懇願する。


「無理なお願いなのは分かっているつもりです!それでも……お願いします!なんでもしますから、私をここにいさせてください……!」


 隠しきれない過去への恐怖に彩られた、必死さすら感じる少女の懇願の声は、鏡也をたじろがせるには十分だった。


「なんでもって……女の子が簡単にそんな事言うもんじゃないぞ」


 咄嗟に鏡也が言葉に出来たのは、言葉の根幹に触れない、ある意味揚げ足取りとも言えるような、そんな言葉だけだった。

 シャルフィールの言葉は……言葉の重さは、受け入れるにしろ拒絶するにしろ、生半可な気持ちの言葉で返せるほど軽いモノでは無かったのだ。


 思わず当たり障りのない事言ってお茶を濁したが……まだうら若い乙女がなんでもすると来たか。

 街に戻りたくない一心なのか多少なりとも信用されているのか。


 全く……ネットの世界には「なんでも」ってワードだけで反応する怖い人達も大量にいるんだぞ?いや、異世界にネット民はいないけどさ。

 ここで俺が「なんでもするって言ったよな?」とか言って襲いかかったらどうするんだよ……いや、さすがに7歳も年下の少女に手は出さないけどさ。


 っとそうじゃなくて。


 受け入れるにしろ拒絶するにしろ問題は多い。とりあえずの現実問題としてこの少女を養えるのかと言ったら……

 シャルフィールが迷宮(ダンジョン)に1時間滞在した際の取得DPは3.25で、1日……つまり24時間で78DP。100時間滞在すれば死亡時と同じ325DP。


 つまりシャルフィールがいることでこの迷宮(ダンジョン)に与えられる恩恵は1日78DPであり、24時間周期で供給される迷宮(ダンジョン)の自動生成分の8%にも満たない。


 一方DPで購入出来る食事がだいたいコンビニ弁当ひとつで300DP。1日3食コンビニ弁当だとしても900DPも必要になる。これはなかなかに重い数字だ。

 まぁ、コンビニ弁当は異世界産の食材だから割高なので、この世界で一般的な食事は1食だいたい10DP〜30DPで購入出来る。

 これなら1日3食でも60DPで済むのでシャルフィールによる1日の収入でも十分賄える。

 そう考えるとコンビニ弁当高ぇな。


 あ、卵スープはスープの元5袋入で100DPでした。コンビニ弁当の後だと安く感じるけど1袋20DPな上にお湯も必要なので、やはり異世界産の食材はなかなかに割高なのだろう。


 それ以前に、20過ぎの男が17の少女を迷宮(いえ)に居候させるってモラル的にどうなのよ。

 他にも……


 いや、あれこれ適当な理屈捏ねても意味無いか。

 結局は目の前ですがり付くような目で見てくるか弱い(多分この部屋の中で1番ステータス高い)少女を切り捨てられるかどうかというだけの事。

 そして、それが出来るくらいならまず保護してないって話だ。


 ……はぁ、拾っちゃったもんはしょうがない……か。

 よく考えると拾ったって捨て犬か何かみたいな言い方だけど……やっぱりこれが結構適切な表現な気がする。


 息を深く吸って一気に吐き出す。結構大きなため息だ。

 俺の反応を見て、何を思ったのかシャルフィールの体がビクリと小さく震える。


「まぁ……なんだ。これでも俺は訳ありでな」

「そう……ですよね。やっぱり、ダメ……ですよね……」


 俺の言葉を聞いて、シャルフィールは力なく俯く。


「まてまて、そう早まるな」

「……へ?」

「さっきも言った通り俺は訳あり(ダンジョンマスター)だ。万が一に備えてある程度の制限は付けさせて貰うが……それでもいいなら、まぁ、好きなだけいてくれてかまわない」

「………………」



 言葉を飲み込むのに時間がかかっているのか、ぽかんとした顔で俺を見上げるシャルフィールの姿に、鏡也は思わず苦笑を浮かべる。


「どうした?お前がいさせてくれって言ったんだろ?」

「本当に……いても、いいんですか……?」

「だからそう言ってるだろ?それとも冗談だったのか?」

「そんな訳ありません!ただ……私は獣人ですし絶対に断られるかと……」

「この世界での獣人の扱いは知らないが、俺は見ての通り迷宮(ダンジョン)の奥に住んでるような奴だ。そんな俺に獣人だからどうとかは全く無いぞ。断るとしたら迷宮主(ダンジョンマスター)として危険だと判断した時だけだ」


 この世界の獣人の扱いが決していいものとは言えない事はシャルフィールを連れていた冒険者や、フラーム聖国などから分かる事だが、この世界の住人じゃない俺にとっては全く関係無い。


「そうなんですか……許していただいて、本当によかったです。あっ、安心してください!先程も言った通り私は戦った事なんて1度もないので、キョウヤさんに……この迷宮(ダンジョン)にとっての脅威にはなりえません!」


 それはそんなに誇って言うことだろうか……?


 まぁ、そこら辺はある程度は信用している。背中をさすっていた時やスープを渡した時など、殺ろうと思えば殺れたタイミングはあったが、1度も何か仕掛けてくるような事は無かったからな。

 もし俺に害をなそうとしているならそのタイミングでなんらかの行動を起こしていただろう。


「ただし、滞在を認めるには1つだけ条件がある」

「はい!ここにいさせてくれるならどんな条件でもかまいません!」


 こいつはまた簡単になんでもとか言って……

 まぁ、ちょうどいい。迷宮核(ダンジョンコア)からの情報にも無くて早急にどうしても知りたい事があったのだ。


「そんなに大層な事を要求するつもりはないぞ?ちょっと教えて欲しい事があるんだ」

「なんでもお聞きください!分かる事なら全てお答えします!」


 やる気は十分の様だ。

 こうなると最大の難関は聞いた事に対してシャルフィールがどう言った反応をするかだが……そこまで大変なことにはならないはずだ。


「なら聞くが……ステータスって、どう開くんだ?」



スライムダンジョン!の方でもアイディアを募集します(スライムの種族や迷宮の罠など)


ぱっと思い付いたものでもいいのでなにか思いついたらぜひ!

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