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第11層 『だからこその“異”世界』

 

 とりあえずお腹空いてるみたいだし何か食べ物を持って行こうとは思うけど……何がいいんだ?


 気まずい空気に耐えられず逃げる様に部屋を後にし、宣言通り10分程はわらび達をなでぷるしていた鏡也だが、ようやく落ち着いて来た様だ。


「そうとう弱ってたっぽいからな……いきなり腹にガッツリ入れるのは危険だし、とりあえず暖かいスープとかでいいかね……?」


 DPを消費して市販の卵スープの元とカップ、そして小さな鍋を購入する。ちなみにこれは俺が元の世界で冬場の朝食としてお世話になっていたのと同じ商品だ。まさか元の世界の物もDPで買えるとは思わなかった。


 そして鍋にブルースライムの『発水』で生成した水を入れ、レッドスライムの『熱体』でお湯にする。もちろん『発水』で生成した水を飲料水に出来ることは確認済み。

 不純物の一切無い綺麗な水なので、下手したら元の世界の水道水よりも綺麗な程だ。


 卵スープの元を入れたカップにお湯を注いで……あぁ、忘れてた。

 スプーンもDPで購入して軽くかき混ぜる。


「よし、こんなもんかな」


 これまた追加で購入した小さめのトレイに乗せてシャルフィールのいる部屋に向かう。


 扉を開ける前にまずノックをする。

 突然入ってシャルフィールを驚かせない為にも、そして最低限のマナーとしても必要な行為だろう。


「入っても大丈夫か?」

「あ……はい。大丈夫です」

「んじゃ失礼してっと」


 許可を貰ったので部屋の中に入らせてもらう。スライム達も一緒だ。

 部屋の中でシャルフィールはベットの上に上体を起こした上体で座っていた。と言うより俺が出て行ってから1歩も動いていない様に見受けられる。


「さっきはごめんな。確かにスライムは弱い魔物かもしれないけど、俺にとっては大切な、家族も同然の仲間なんだ。だからついカッとなっちゃって……」


 出来る限り優しく話しかける。先程威圧的な感じになってしまったの悪かったとは思うが、一応俺にも引けないポイントはある。

 そこはしっかりと伝えておかなくちゃいけないので、ここに関しては引くつもりは無い。まぁ主にスライム達の事だが……


「いえ……こちらこそすいません……」

「そんなに気にしなくてもいいさ。いきなり食べ物胃に入れるとあまり良くないと思ってスープ用意してしたんだが……飲めそうか?」

「え……あ、はい」


 俺が卵スープを差し出すと、シャルフィールはおずおずとカップを受け取る。飲んでいいものか迷っていた様なので、ジェスチャーでかまわないと伝える。


「あ、熱いから気を付けてな」

「は、はい……」


 シャルフィールはゆっくりとカップに口を付け、想像以上に熱かったのか1度ばっとカップから口を離す。少し恥ずかしそうにしながら、今度はフーフーと息を吹きかけて冷ましてから口を付けた。


 俺もそれよくやったよ……カップスープって想像以上に熱くなってることが多いんだよね……


「暖かい……」


 そう言いながらスープを啜るシャルフィールの頬を、透明な雫が跡を残して滴り落ちて行く。


「ちょっ、どうした……?」


 突然泣き出したシャルフィールに、鏡也はどうしたものかととりあえず声をかける、


 目の前で突然年下の女の子に泣かれたらテンパるのは仕方の無い事だろう。だからこの反応は俺が特別おかしい訳じゃない……はずだ。


「え?あれ……私、泣いて……」


 鏡也に言われて初めて自覚したのか、シャルフィールは手で目元を拭って、指先に付いた雫に驚いた様な表情をしている。

 あれ、あれ……と繰り返すシャルフィールだが、涙は止まることなく溢れ続けている。やがて、シャルフィールは涙を止める事を諦めたのか顔を抑えてうずくまってしまった。

 その肩は僅かに震え、顔を覆う手の隙間からは僅かに嗚咽の声が漏れている。


「えっと……」


 こういう時ってどうしたらいいんだ?

 年下の女の子に泣かれる場面とかもう随分経験してないぞ……?


 泣いている女の子をただ見てるいだけというのもなかなか居心地が悪いので、鏡也は出来るだけ優しい手付きでシャルフィールを落ち着かせる様に背中を撫でる。


「何があったのかは分からないけど……とりあえず泣きたいだけ泣けばいい。全部出し切ったら意外とスッキリするもんだ」


 今はもう会えない父親からの受け売りだが……俺もこの言葉に助けられた事がある。泣くってのは意外といいリフレッシュ方法なのだ。


 俺がそう言って背中を撫でてやると、シャルフィールの嗚咽はより一層激しくなる。1度こうなるともう歯止めは効かず、溜め込んだ物を全て吐き出すように声を上げて泣き出した。


 シャルフィールのこの反応……やっぱり称号にあったアレに関係してるんだろうな……


 シャルフィールの背中を撫でながら、鏡也は換気のために席を外していた間に迷宮核(ダンジョンコア)で調べたシャルフィールのステータスを思い出していた。


 ーーーーーーーーーーーーーーー


 名前:シャルフィール

 種族:狼人族

 性別:女

 年齢:17

 ジョブ:白狼

 レベル:12


 HP:530/530

 MP:120/120


 STR(筋力):180

 VIT(耐久):120

 AGI(敏捷):180

 INT(知性):60

 MND(精神力):60


 【スキル】

 『危険察知Lv.2』『爪術Lv.1』『白狼化』


 【称号】

 『白狼』『奴隷』

 ーーーーーーーーーーーーーーー


 ステータスその物は比較対象がスライムと冒険者しかいないのでどの程度なのかは分からないが、治療中に暴れられたら(もちろん今もだが)俺とスライム達ではひとたまりもない事だけは分かる。


 それよりも重要なのは称号にある奴隷の文字だ。


 そう。称号にある通り、このシャルフィールは奴隷だったらしい。

 となると当然、主となるのはさっきの冒険者達の内の誰かだったはずだ。暗に彼等が死んだと伝えた時のほっとしたような表情は、彼等から解放された事に対する安堵感によるもの……と考えていいだろう。


 そして卵スープひとつで決壊する程にこのシャルフィールは追い詰められていた……と言うことだ。

 17……俺よりも7つも年下のシャルフィールがこんな辛い目にあっている。それがより身近な現実として存在するのがこの世界であり、元の世界の常識が通用しない。


 だからこその“異”世界。


 シャルフィールが泣き止むまでの間、俺は彼女の背中をずっと撫で続けた。

 少しでも多くシャルフィールが辛いものを吐き出せる様に。


スライムダンジョン!の方でもアイディアを募集します(スライムの種族や迷宮の罠など)


ぱっと思い付いたものでもいいのでなにか思いついたらぜひ!

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