第0層 『これから1度死にます』
最近はダンジョン経営系にハマってる。
読み漁ってたら書きたくなった。だから書いた。
後悔も反省もしていない。
ちゃんとヒャッハーの方も書いてますよ!
ぴちょん、ぴちょんと一定間隔で頬に当たる水滴の感覚で意識が呼び覚まされる。
次いで感じたのは背中……と言うか背面全体に感じるのゴツゴツとした違和感。現代日本のふかふかお布団に慣れた身としては最悪の寝心地だ。
軽く身動ぎして寝心地最悪のゴツゴツを深く味合わされた所でようやく2度寝を諦めて目を開ける。
「……知らない天井だ」
なんとなく言わなければ行けない気がした。
ただそれだけの気持ちで呟いた言葉は、誰の耳に入ることも無く虚しく溶けて消える。
ゆっくりと体を起こすと、そこは見知らぬ薄暗い洞窟の中。
周囲を軽く見渡すもそこに人影は無く、誰かが隠れているような気配もしない。
普通ならパニックになるような現象を前に、目を覚ました青年は小さく呟いた。
「あぁ……無事に生き返れたか」
◆◆◆◆
時は少し遡る。
日はとうに暮れ、しかしまだまだ活気に溢れる繁華街。
そこには、仲良さげに歩く4人の男女の姿があった。
「くぅ〜明日も休みってのはここまで嬉しいもんなんだな」
「もしもーし。私は明日お昼から出勤なんですけど〜?」
「まぁまぁびっきーも悪気は無いだろうから許してあげなよしおりん。それより今夜はパーっと行こうぜい。な、きょーちん」
「あのなぁ、家飲みするのはいいけどあれ後片付けめっちゃ大変なんだぞ?しかもお前は最後は大抵酔い潰れて家に泊まってくパターンだし」
「いつもお世話になっております!」
“びっきー”と呼ばれた両手にガタイのいい男性が休日を謳歌し、“しおりん”と呼ばれたショートボブの女性が“びっきー”に恨めしげにそう言えば、“きょーちん”と呼ばれた両手にビニール袋を抱えた男性が家飲みを提案する、ぱっと見中学生くらいに見える少女にやんわりとチョップを放つ。
楽しげな声とそのやり取りは、どこから見ても仲良しグループである。
“びっきー”こと泉島 響。
“しおりん”こと紙繰栞。
“きょーちん”こと日向鏡也。
そしてぱっと見中学生のなんちゃって未成年、最古美桜。
事実この4人は、高校生の同級生で、その頃から付き合いがある正真正銘の仲良し4人組である。高校を卒業し、社会人となった今もたまにこうして顔を合わせているのだ。
そして、今日この日も4人で集まって鏡也の家で飲むつもりで酒やツマミ、ジュースやお菓子と色々買い込んでいた所だ。
いつもと同じ、何もおかしな所は無い日常の一コマだった。
そう、この時までは。
「……ん?なぁ、何か割れる様な音が聞こえなかったか?」
最初にそう声を上げたのは響だった。
父の背中に憧れて同じ格闘家の道に進んだ響は、そういった何かを察知する力が他の3人よりも高く、だからこそ普通では気付けない様なモノに気付けてしまった。
「いや?特に何も聞こえなかったけど」
「私も聞こえなかったわ。美桜は?」
「んー聞こえた様な聞こえなかった様な?」
おっかしいな……と首を捻る響だが、他の3人は特に何か聞こえた様子もなく、自身の気の所為と言う事にした様だ。
そのまま鏡也の家に向かって歩き続ける4人だが……
パキッ……パキパキ……
「っ!また聞こえた」
もう一度聞こえたその音に響はやはり気の所為ではなかったとバッと辺りを見渡す。
今度は他の3人にも聞こえた様で、彼等も響と同じ様に辺りを見渡している。
パキパキ……ビキッ……ビキビキ……
なり止むどころか密度を増していく軋むような怪音に、4人の顔に明確な不安と恐怖が浮かぶ。
音はだんだんと激しくなり、ついに……
バキンッ!
目の前の空間が爆ぜた。
状況を飲み込めず呆然としている4人を飲み込んだその不可視の爆発は、しかしその4人以外には何も影響を与えず、他の人には気付かれることも無かった。
爆発が収まったその場所にはただ酒やらツマミやらが大量に入ったビニール袋だけが落ちていた。
◇◇◇◇
周囲にはただ白銀の波がうねっているだけ。上も下も右も左も分からない、水中に漂っているかのような不思議な感覚。
そんな不思議な空間に4人はいた。
「おーい。みんな無事か?」
「おう。痛くも痒くもねぇ」
「あたしも平気平気〜」
「私も大丈夫」
エコーがかかった様な鏡也の声に、周囲に漂っていた他の3人も同じくエコーのかかった様な声で返す。
ふよふよと白銀の中を泳いで集まった4人は謎の爆発に巻き込まれたにも関わらず、全員無事どころかかすり傷1つ負っていない。
「さっきのはなんだったんだ……?」
「それ以前にここはどこだって話だろ」
「ってあたし達のお酒が無い!」
「美桜ちゃん……今はそれどころじゃないと思うよ?」
しこたま買い込んだ酒類が全て無くなっている事に気が付き絶望の表情を浮かべる美桜。
こいつは俺達の中で1番酒に弱いくせに1番酒が好きだからなぁ……そりゃそんな顔にもなるか。
そしてその美桜の叫びで気が付いたのか、響も同じ様な表情をしていた。ちなみにこっちはいくらでも飲めるタイプの酒好きだ。
改めてよく見てみると、今現在の俺達の持ち物はあの爆発の時に身に付けていた物だけのようだ。手に持っていた物(主に飲み会用に買い込んだ酒類)は全て無くなっている。
「袋が無くなってるって事はあたしのちーかまも!?」
「サラミ全部消えた!?」
「だから、2人とも今はそれどころじゃ……」
「ふっふっふ……俺はしっかり自分のビーフジャーキーはポケットに確保してあるのさ」
そう言ってポケットからビーフジャーキーを取り出す。ビニール袋に入っていた得用の大量に入っているヤツは消えてしまったが……ポケットに突っ込んでおいた38g入の小さいヤツは無事だったのだ!
「「なにぃ!?ズルいぞきょーちん!」」
「あぁ鏡也君まで……」
「栞も肩の力抜けよ。こんな意味不明の現象に巻き込まれて4人であーだこーだ言った所で答えなんか出ないでしょ」
三人寄れば文殊の知恵とは言うが……「いきなり何も無いところが爆発してこんな場所にやって来ました」なんて現象は3人どころか300人集まってもどうにもならないだろう。
だったら後は野となれ山となれだ。
「うぅ……それはそうだけど……なんでそんなに落ち着いていられるの?」
「んー1人だったら正直パニクって慌てふためいてただろうけどさ、みんながいるから……なんてね」
「そっ……か。そうだよね」
冗談めかしてそう言うと、栞は何か納得した様に頷くと、ゴソゴソとポーチを漁り始めた。どうやら栞も落ち着いたらしい。
俺達の中じゃ栞が1番頭良いしこいつがいつまでもテンパってたらでるアイディアも出ない。
それに今俺は響と美桜からビーフジャーキーを守るのに忙しい。これはこの謎空間でのラストビーフジャーキーなんだぞ!奪われる訳には行かない!
「はいはい二人とも落ち着いて。ちーかまもサラミも私が持ってるから。なんなら私の分の煮干しもあるわよ」
「「なにぃ!?さっすがしおりん!」」
「はいはい、褒めてもちーかまとサラミしか出ないわよ」
おぉ……さすが栞。いざと言う時(おつまみ切れ)のために2人の好みのおつまみをみんなで買い込んだのとは別に確保していたのか……
見抜けなかった!この俺の目をもってしても!
「あ、鏡也君の分のビーフジャーキーは無いよ?」
「なぜに!?」
「だって鏡也君は自分で確保してたでしょ?それ」
そう言って栞が指差したのは俺の手に握られたビーフジャーキー。
あわよくばビーフジャーキーだけ2袋ある、とか考えてたが……バレてたのか。
そのままの流れで酒無しのおつまみだけのプチパーティーが始まろうとしたその矢先。
『あなた達は……随分と落ち着いていますね』
俺達の声とは違ってエコーのかかっていない、それどころか脳に直接響く様な声が聞こえた。
次いで感じるのは空間の揺らぎ。感覚としては水中で誰かが近寄ってきた時の水のイメージに近いだろうか。
4人は突然聞こえた見知らぬ声に警戒心を滲ませながらその方向に視線を向け……
「「「「…………?」」」」
『巻き込んでしまって本当にすみませんでした。責任をもって説明させていただきますので……』
そこには何もいなかった。
確かに声は聞こえるし、そこにナニカがいるのは分かるのだが、肝心のその姿が見えない。視線の先にはただただ白銀のうねりがあるだけだ。
「えっ……と。どこにいるのか分からないけど……どちら様で?」
『あぁ、失礼しました。あなた方は現在“世界の狭間”にいる状態ですので特定の世界に存在する者を視認する事は出来ません。なのでこの状態で事情の説明をさせていただきます』
……世界の狭間と来たか。わけわかめだわ。
そういやわけわかめって死語なんだっけ。一周まわって復活した感はあるけど。
『とは言っても“狭間”に存在できる時間は限られていますので手短になってしまいます。まず第一に……あなた方はこれから1度死にます』
スライムダンジョン!の方でもアイディアを募集します(スライムの種族や迷宮の罠など)
ぱっとした思い付きでもいいのでなにか思いついたらぜひ!