素直
『美穂ちゃん、検温の時間だよ』
と、入ってきた、いつもとは違う看護師さん。
『・・・?』
私が不思議そうにしていたのに気付いた様子の看護師さん
『ビックリさせちゃったかな? ごめんね。美穂ちゃんの担当だった看護師さん救命救急科に異動になっちゃってね・・今日から、美穂ちゃんの担当看護師になった"松本雅也"です。よろしくね』
笑顔で話しかけてきた。
『えっ?』
『そりゃあ、驚くよね。 ごめんね 美穂ちゃん』
何故か謝る 松本さん。
『いいえ、よろしくお願いします』
(嫌って言っても、決まったことは仕方が無い、長く入院していて知ったことだ 言っても無駄なのだ 流されて終わるから)
『うん。仲良くしようね 美穂ちゃん』
ハイテンションな松本さん
『・・・・』
『お熱計ってくれる? 美穂ちゃん』
黙って体温計を脇に挟む私。 体温を計りながらその間に、脈をとる松本さん動きに無駄がない。そんなに此処に居たくないのか?と思う私。 そんなこと思ってしまうから、私の態度もそっけないものになってしまう。
ピピピッピピピッ・・・電子体温計の終了を知らせる電子音
『はい。見せてくれる?』
無言で体温計を渡す私。 カルテにスラスラ記入していく松本さん。
『はい。終了』
という松本さんに、患者として最低限の事はする私。
『ありがとうございました』
『あれ? 美穂ちゃん 他に具合悪いところあるの?』
松本さんが、私を見つめながら問いかける
『いえ、ありません』
『う~ん? 何か悩んでる?心配事かな?』
『いえ、ありません』
『美穂ちゃん、朝のしないといけないこと終わったからちょっと お話しない?』
(えっ? 何? 何話すの?)
心のなかでこだまする私の声。
『・・・はい』
『え~ そんな不安そうな顔しないで。 お話しようよ』
『うん・・・』
『美穂ちゃん午後のあたたかい時、一緒にさぁ、中庭にある噴水見に行こうか?』
『中庭? 噴水?』
『美穂ちゃん、ずっと病室だったから、知らないかな?』
『はい』
『それじゃあ、中庭に決定!!』
松本さんが、決めて何やら嬉しそうにしている・・。
午前中の時間が、ゆっくりと流れて看護師さんが、昼食の配膳とともに、投薬のある患者さんには、配膳されたトレイの隅に忘れないように置かれている。あまり食欲ないので、少量にしてくれている。
少し食べて、箸の止まった美穂、薬を飲んで病室の窓から外の世界を見つめる暫くして、看護師の松本さんが病室に入ってきた。
『美穂ちゃん、これに乗って』
と、車椅子を美穂の前に向ける
『えっ? 歩けますよ』
不思議そうに、聞き返す美穂
『うん知ってる でも無理しちゃダメだから』
しかなく車椅子に座った美穂
『あら、美穂ちゃん お散歩? 良いわねぇ、お天気も良いしいってらっしゃい』
すれ違う看護師さんが声を掛けてくれる。
『はい。いってきます』
そんな私に、松本さんが車椅子を押しながら
『美穂ちゃん、中庭初めてだっけ?』
『病室と処置室、診察室しか行ったことないですよ』
素直に応える私。
『頑張っていたんだね。これからは俺が、美穂ちゃんを色々な所に連れて行ってあげるよ』
松本さんが言ってくれる。
『中庭以外に、まだ良いところが、あるんですか?』
(ん? もしかして・・美穂ちゃん、病院内だけだと思ってるのか?)
『そりゃあ、たくさんあるよ』
『へぇ~ 私きっと、行けないなぁ』
私が言うと
『行ったことがなかったら、行けばいい。したこと無いなら、やってみればいい。 美穂ちゃん』
『そんな簡単に出来ないし、行けないし、独りぼっちだもん。良いよ、このままで・・。どうせ、』
『美穂ちゃん!! それ以上言ったらダメだよ』
松本さんが、少しムキになって私を叱る。そんな話をしていたら、中庭の噴水前に着いた。松本さんはベンチに座った。2人並んで噴水を見つめる。私は、さっきの話で少しイライラしていた。折角、楽しみにしていた初めてのお散歩だったのに。
『美穂ちゃん 少し落ち着いて聞いて・・・』
松本さんが、穏やかな口調で話し始めた。
『はい』
『まず、美穂ちゃんは 独りぼっちじゃないよ。みんな美穂ちゃんが 早く良くなって。って思いながら看護させてもらってるよ』
松本さんが言う。
『それは知っています 私が言いたいのは そういうことじゃない』
『うん。そうじゃないかなぁ。とは思ったよ でも敢えてあんな言い方してみたんだ。 ごめんね』
美穂ちゃんは ひとり噴水の前まで歩いていき 何か考えている
『美穂ちゃん やっぱり戻ろう 今度は、夕陽が綺麗に見れる展望室連れて行ってあげるから』
松本さんは必死に私に問いかける
『松本さんは どうして私のために こんなにしてくれるの?他の人にもしてるの?』
『他の人にはしてないよ 美穂ちゃんだからだよ』
『・・・・』
『美穂ちゃんとお喋りしたかったんだよ』
『いつもしてるよ』
『それは お喋りじゃないよ もっと美穂ちゃんの事 知りたかったんだよ』
『どうして・・・。』
私は、松本さんの本心が知りたかった。
美穂ちゃんを よく見てみると 少し震えているような気がした。俺は慌てて 美穂ちゃんの傍に行くと 噴水の水が風向きがこっちに向いてて 美穂ちゃんは濡れていた。
『美穂ちゃん 病室戻って 着替えよ。 濡れてるよ』
『嫌、次いつ来れるかわからないから もう少しいる』
『また、連れて来てあげるから・・』
『もう少しだけ・・・』
と、言ってその場を動こうとしない 美穂ちゃん
『美穂ちゃんの事 守ってあげたいって思ったからだよ』
『いつも してくれているでしょ?』
『看護もそうだけど・・仕事としてじゃなく プライベートで男としてね』
と、言った松本さん
『えっ?』
『そりゃあ、驚くよね ごめんね急で。いつも1人で頑張っている美穂ちゃんの事 俺が守ってやりたいんだよ』
と、ポロッと告白をした松本さん。いつもどこかで肩肘を張って生きてきた私。
もう少し素直になっても良いのかなぁ。
あなたの傍で・・・