11、大晦日 ハルの告白
今回ものすごく短めです。
ハル視点になります。
職業柄、登録していない電話番号でも取る。ただその時はちょうど客先で出損なった。
『突然すみません、いとこの月子です。大丈夫らしいので落ち付いて安心して聞いていただきたいんですが、理沙さんが職場で調子が悪くなって救急搬送されたそうです。今うちの母がついていますので━━』
出られるようになったタイミングにちょうど再度掛かってきた電話。
丁寧なのか砕けているのか判別しにくい口調は落ち着いていて、こちらが慌てないようにという配慮がバシバシとそれはもう痛いくらいに伝わってきて、小さい迷子相手みたいなそれに「あ、これ大丈夫そうだな」と思わざるえないほどだった。
すっきりとシンプルなパンツスタイルに幅の細いショートブーツ。
久々に見た義理の従姉は電話でイメージした通りしっかり者で世話焼きでカッコ良くて、ああ、そうそう、月ちゃんってこういう人だったなと思い出した。
そして、長く抱えてきた違和感に決着がついたと思って、そうすると自然と口をついて出てしまった、それに。
「あはは、『抱いて』ってやつ?」
後部席に持っていたバッグを乗せながら、月ちゃんにケラケラと笑って返された。
投げ返されたド直球に、自分の発言も棚に上げて思わず絶句した。
分かってる。
彼女が言ってるのは巷で言われるフレーズであって━━
いや、それより何言ったんだ自分。
とんでもない事さらっと口走ったよな。
後部座席のドアから顔を上げて、車を挟んで目を合わせた月ちゃんは「しまった」という顔をしていた。
*
なんとなく年上に惹かれるものがあって少し上の先輩と距離を詰めては離れるという事を繰り返していた時に周囲から言われた。
『たまには年下とか行ってみろって。年下の方が可愛いじゃん』
少し考えて、答えた。
『年下が可愛いのは当然だろ。カッコ良くてしっかり者な年上がたまに見せる可愛さ考えてみろ。どっちがいいか分かるだろ』
『マニアだな。てかさすが着眼点の違う男は違うねぇ。でもたまには他にも目を向けてみろって。オマエそっちの方が向いてると思うけど』
そう言われてそれも一理あるかと視野を広く持つことを心掛けてみれば、悲しい現実に行きあたった。
どんなタイプと付き合っても、年下・同い年・年上と網羅してみても払拭できない違和感を確信しただけだった。
『理想が高すぎるんだよ。このイケメン』
『お前ね、ちょっとは我慢とかしろよ。相手だって他人なんだから、合わない事だってあって当然だあろうが』
男友達からの批判混じりのありがたいアドバイスは確かに納得出来るもので、自分が恋愛というものにひどく乙女な理想を抱いているのか、理想が高すぎるのかと思って順応しようとしてみたけれど、どうしても今で言う所の「コレジャナイ感」がつきまとって、今はその時じゃないんだと思うようになっていた。
会社の事もあるし、会社と自分の人間性も落ち着けばまた違うだろ。
まぁ三十過ぎたらさすがに変わってるだろ。
そう思って、二十代前半で己の枯れ具合にどうよと思いつつも、あるリアルな恋愛というものに興味がなくなっていたのだけれど。
すぐに自分のスマートフォンを男の手に渡し、自宅のリビングとはいえ血のつながらない男のいる家で無防備にうたた寝して、アイスクリームを平然と回し食いしようとする月ちゃんの無防備さが非常に面白くなかった。
呆れるなどという生易しいものではなく、それは嫉妬にも似ていて。
なんて事ない。
とっくに理想の女性ってやつに出会っていて、悲しいかなそれに気付いていないだけだった。
まぁ一緒に過ごしたのが十歳前後なんだから仕方ない。
ちょっとした憧れだと思っていたものがガチなやつで、異性のタイプが完全に一人の女性にすでに絞られていたなんて。
そんなの気付くわけがない。
*
事態に気付くよりも早く思わずプロポーズなどしてしまったけれど、あっさり無かった事にされた。
まぁ、そりゃそうだろうという話だから、いったん引いて距離を縮める事にした。
その結果、おそろしいまでに親戚のお姉さん然とされてしまったのだけれど。