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澄んだ殺し手

作者: 黒影翼


(やれやれ、嫌になるな…全く。)


山林を走るミニバンの後部座席、窓の外を流れる都心とはまるで縁のない澄んだ水や木々生い茂る自然の風景を眺めながら、少年…九能鏡一は内心で一人悪態を吐いていた。

肝試しを兼ねた外泊。

そんなものに本来顔を出すタイプではないのだが、彼はあえてそこに居た。


「しかし君たち可愛いね。修次も九能君も隅に置けないな。」

「やだ金田さん止めてくださいよぉ、修君はともかくこの厨二となんて。」


2列目に座っている三人の女子、その中心にいた本町夢華が平然と罵声を放つ。

その両隣の夢華の友人、鈴木咲と田中花の二人も夢華の罵声にあわせてくすくすとわざとらしいくらいの笑い声をもらす。

九能はそれらを鼻で笑い、眼帯をつけた右目をそっとなでる。


「ふっ…主人公属性持ちは辛いぜ。」

「ねぇマジでキモいんだけど…」

「安心しな、わざわざ近づかないから吐くこともないだろうさ。」


睨むような形で振り返った夢華に直接的に罵倒されたにも拘らず、鏡一は余裕を持って返し、再び窓から外を眺める。

話が通じないと思ったのか、それ以上続けることも無く女子たちは背後の鏡一を視界から外し、クラス内では日常となっている鏡一の扱いに、助手席の金田修次は小さく溜息を吐いた。




夏休み、親戚に別荘に誘われた修次は、クラスメイトの何人かに声をかけた。


文武両道の美男子である修次は女子に人気があり、反動か男子陣には疎まれていた。

その上行き先が自然豊かな山林…逆に言うと、特に興味の無い者にとってはする事の無い場所であったため、修次を慕う女子が数人、名乗りを上げた位で終わるはずだったのだが…


幼い頃からの友人であるとはいえ、この手の集団行動には興味を示さないはずの鏡一は、自分から名乗りを上げ、こうしてついてきていた。


(どういう風の吹き回しなんだろうな…)


自分が女子に人望がある事を自覚している修次は、逆に嫌われている鏡一にあまり話を振ると先に名乗り出た三人に悪いと思い訊ねていなかったが、鏡一がこんな集団行動についてくる理由が分からないままだった。


そんな、集団でいるのに孤立している鏡一は、周囲の反応をまるで意に介さずに外の風景を真剣に見ながらすごす。


(クラスメイトの命がかかってるんだ…噂程度とはいえ無視できないからな…)


真剣に外の景色を眺める鏡一。

彼は、ある『噂』を聞き知っていた為、楽しむ気も無いこんなイベントに混じっていたのだ。





この近隣に、殺人鬼がいる…と。





噂は噂。夏休みと言うことも相まって怪談奇談はそれなりに盛り上がっている。


だが無視するには問題がある。

実際に警察官の被害者が出ていること、そして…


(『幽霊』と違って、仮面被って人殺してりゃ、本物の殺人鬼は実在できる。)


別に仮面が必須と言うわけではないが、『正体不明の大量殺人犯』なんてものが実在するのなら、それは殺人鬼と噂されるだろう。

そしてそれは、心霊現象なんかと違い、はるかに危険な本物の人間だ。


「っ…悪いおじさん、少し車を止めてくれ!」

「え?な、何だい?」

「ちょっと何よいきなり!」


と、車の窓から風景を…潜む人が何処かにいるか外を伺っていた鏡一があるものに気づき車を止めるよう催促するが、いきなりの訳の分からない頼みに困惑する運転手、金田衛。

次いで、よけいな奴に邪魔された夢華がヒステリック気味に叫ぶ。


だが、自然の中の別荘に向かう道、他に車が来るわけでもなく止まっても何の迷惑にもならない場所。

そんな所で車内の人間に車を止めるように催促されれば、吐き気か手洗いか、不調を気にかけるなら止まらない筈も無く、まして焦ったように叫んだ鏡一に驚いた衛は少し急ブレーキ気味に車を止めた。

止まったかどうかと言ったタイミングで扉を開いた鏡一は、走りながら眺めていた森の中に向かって駆け出した。


「お、おい鏡一!」


背後からの修次の声にも耳を貸さずに走る鏡一は、やがて自分が見たものが見間違いで無いことをはっきりと見る。


人影。


遠目から、木陰にちらと見えただけだったそれは今、もうその姿をはっきりとさせていた。

黒一色の修道服のようなものに身を包んだ少女が、木に寄りかかっていた。


近づけば、その頭から流れる血を吸い込み、服の色が変わっている。

元が黒だから目立たないものの、近づくとかなり派手に出血しているのが素人目にも分かった。


やがて彼女の下に辿り着いた鏡一は、そっとその肩に触れ、声をかける。


「大丈夫か?」

「っ…貴方…は?」

「そういうのは後だ、怪我治さないと。」


ふらついている彼女を抱えあげた鏡一は、来た道を引き返し走り出した。







~澄んだ殺し手~








鏡一への不平不満を口に談笑していた女子三人は、戻ってきた鏡一と後を追い合流した修次の二人が血みどろの服を着た少女を伴っているのを見て、さすがにその軽口をつぐんだ。


予定だった別荘に怪我をした少女を伴って辿り着いた一行は…





食事をしていた。




丸型のテーブルを囲んで、それぞれに持ち込んだ弁当に箸を伸ばす中、鏡一から弁当とパンを貰った少女は、それらを喉に詰まらせかねない早さで食べ進めていた。


「しかしまさか、ふらついていたのが出血というより空腹が原因とは。」

「す、すみません…」

「いやいや、深い怪我とかじゃなくてなによりだよ。救急箱程度はあるが、重傷なら町に戻らなきゃならなかったからね。」


がっつくような勢いで食事をしていた怪我をした少女は手を止めて縮こまるが、そんな彼女の様子を見て、衛は笑って無事を喜んだ。


通信すら繋がらない深い森の奥地にある別荘。

救急車など呼ぶことも出来ない為、彼女の怪我が酷いものだったのなら引き返す必要があったのだ。

だが、怪我は頭のものだけで出血も止まっていた。

頭部は浅い怪我でも多量の出血を及ぼす為か服を大きく血塗れに染めていたが、致命となる怪我ではなかった。


「けど貴女なんであんな所にいたの?」

「そーそー、一人で来れる様な森じゃないじゃん。」


あからさまな非日常体験にさすがに興味がわいたのか咲と花が当然の疑問を口にする。


「ふらつくほど食べれてなかったんだ、無理はしなくていいけど…」

「いえ…ご迷惑をおかけしている身ですし、体も落ち着きましたから。」


気を使った修次に対して小さく首を振った少女は箸を止めて顔を上げる。




「父が死んでから…殺されてから、森に篭っていたんです。」




少女の一言によって放り込まれた非日常は、あまりに重い代物だった。

軽い気で聞いた二人が引きつった顔で硬直する。


重い空気の中、彼女の左隣に座っていた衛が口を開く。


「君、名前は?」

「御影聖です。」

「良ければしばらくここにいるといい。」

「ぇ…」


衛の誘いに聖と名乗った少女は驚いたように瞳を大きく開いた後、その場の全員を見回す。


「ここは衛叔父さんの別荘だし、叔父さんがいいなら遠慮しなくていいよ。って言うか、放置して聖さんに何かあったら叔父さんの責任になっちゃうし。」

「そうなるよなぁ…ここ俺の別荘だし俺以外皆未成年だし。と言う訳で、むしろ君にはいて貰わないと俺が困る!」


いきなりでは居辛いと思ったのか、堂々と居座れるよう誘う修次。それに続いておどけるようにオーバーアクションを見せる衛。


突然の女子の珍客に繭を顰めた夢華だったが、別荘の持ち主に迷惑がかかるとなればさすがに横槍をはさめず、代わりに聖を見つけた鏡一を睨む。

鏡一は一連の流れを見ながら、鯖の缶詰を食べていた。


「…なんでそんな渋いもん持って来てるのよ。生臭いし。」

「通信効かない森の奥にいくんだ、当然だぜ。」


睨んでくる夢華に対して得意げに語る鏡一。

胸を張って笑みすら見せている彼にこれ以上何を言っても無駄だと思ったのか、夢華は視線を外した。


元々非常用の乾物などは別荘内にも最悪保管してあるが、基本的には当日以降は川での釣りや茸、山菜の採取で過ごし、自然を堪能すると言う企画でもあったので、そんな事をしている暇のない当日の夕食分は各々弁当を買って来た。

聖を助けた鏡一は、助けた自分の分をと弁当を全部渡し、それと別に用意しておいた缶詰を開いて食べているのだ。


「すみません鏡一さん…」

「ま、主人公たるもの当然だからな。」

「鏡一はそればっかりだな、まぁよく彼女を見つけられたとは思うけど。」


聖の隣に座る鏡一は微笑んでお決まりの台詞をのたまい、修次に呆れられる。


元々殺人鬼の噂を聞いてついてきた鏡一は、警戒するため外を注視していたのだから当然なのだが、噂の事を話すつもりの無い鏡一は格好つけて笑みを漏らして流した。

噂は噂。いなければ何事も無くこの旅行を堪能した上で帰る可能性もある。

わざわざ不安を煽る気は鏡一には無かった。


「女子に餓えてんでしょ。」

「やだー、衛さん部屋割りこいつに教えないでよ?」

(とは言え…好き放題言うよな全く…)


実は興味もなく好きでもないのに危険だから守りについてきた。等と知るよしもない女子達の罵声に内心で呆れながらも、そうなるように少し頭のおかしい格好をつけた振る舞いをしている鏡一は、いつも通り我関せずと流す事にした。









次の日。

鏡一は、聖と共に山菜を集めていた。


「あ、それは有毒です。」

「っと、ありがとな。」


聖の注意に、見るからに毒々しい斑模様の茸を放り捨てる鏡一。


自然の食料集めも都会を離れた自然の中独特の体験と言う訳で元々予定していた。

鏡一は、修次と共にいるつもりで同行してきた女子達の邪魔にならないように別行動する気でいたのだが、元々山林にいた聖は鏡一に助けて貰ったこともあって、一緒に行動したいと言い、こうなった。


「けど悪いな、ふらついてた上怪我してた翌日だって言うのに。」

「いえ、厄介になっている身ですし、昨日だって鏡一さんのお弁当いただいてしまっていますし、これくらいはやらせてください。」


殊勝な言葉を紡ぐ聖。

鏡一はその様子をまじまじと眺める。


「どうしました?」

「いや、随分回復してるんだなって。それとも元の体力が凄いのか?」


鏡一の漏らした言葉通り、聖の足取りは森の中でもしっかりとしたものだった。

元々の体力が高いか、すぐさま回復したか、何れにしても並の鍛え方ではないことは明らかだ。


「都会の人からすればそうかもしれませんね。森に篭っていたのは強くなるためですから。」

「強くって…」


一般的とは言えず、穏やかでもない内容に顔をしかめる鏡一。

元々殺人鬼の噂を警戒して同伴した鏡一は、聖の話に危機感を覚えたのだ。


「お父さんが殺されたって言ってたよな…死んだ、じゃなくて。敵討ち…なのか?」


ゆっくりと、しかしはっきりと問いかけてくる鏡一に、聖は少しだけ驚いた後で首を横に振った。

そうした後、聖はこれまでの事を語りだした。


聖が父と呼んでいるのは、自分を救ってくれた義理の父らしい。

元々は教会の孤児だった聖は、暴力団の暴走から助けられ、父の様に人々を救える力を得るために、父の死後森に篭っていたのだと言う。


「…って、信じられないですよね、いきなりこんな話。」


全てを話して、聖は苦笑いを浮かべる。

どう考えても普通じゃない。施設や引き取り手の元に入って学校に行くのが普通だ。

それでも、自分を救い出した父を目指すと決めた聖は、人並みに縛られる事を避けてあえてこんな奇妙な真似をしていたのだが…それを普通の人が信じる訳がない事は分かっていて…


「…信じるって言うか、俺にはその真偽が分かるんだ。」

「え?」

「真実の瞳…俺の特殊能力さ。」


鏡一は、微笑んで眼帯をつけた自分の瞳を指差した。


「ま、こっちこそ信じて貰えないと思うけどな。何しろ特殊能力だ。変人よりよっぽど希少だしな。」


自身を変人と言われた聖が少し頬を歪めて鏡一を見るが、鏡一はそれを笑って流す。


「歪んで淀んでいれば、偽り欺く気でいれば赤く、強く真摯で純粋なら青く、心の光が見えるんだ。だから、聖に嘘が無い事は一発で分かる。」

「そう…なんですか。」

「殺人鬼がいるって噂があったから、クラスメイト位守ろうと思って興味も無いのについてきたんだが…見てのとおりの扱いでさ。」


呆れたように言う鏡一に、聖はこれまでの鏡一の扱いを思い返して表情を曇らせた。


何かにつけて病人扱いしながらクスクスと笑っている三人の女子に、彼女たちに合わせているのか余り積極的に鏡一を庇ったり口を出したりしない修次。

遊びに来た…にしては楽しそうには見えない鏡一の扱いに聖は少し憤っていたのだが、客分であることと鏡一が怒るでもなく流していることから口は出さなかったのだ。


「何も無ければ普通に楽しんで貰いたいんだが、万一何かあったら俺が来るまで警戒してやってくれ。」

「はい、必ず。」


鏡一の話に笑顔で頷く聖。

彼女に見える光は青く強く、欠片も自分のとんでも話を疑っている要素が無かった。









青い光、赤い光、それらの意味する所。

自分以外見えないことも含めて、鏡一がそれを理解したのは幼い頃からだった。

鏡一にとっての問題は、能力がある事でも、それによって変人扱いされることでもなかった。


真偽が見える力、それは時が進めば進むほど見たくも無い真実を鏡一に突きつけた。


嘘偽り、詐欺悪意が分かる、と言うだけなら、それらを嫌うだけだったろう。

だがむしろ、鏡一が見た酷な真実は、悪ではなかったのだ。


一般に言われる虐めに該当するだろう、徒党を組んで他者を非難する行為に混じる子達の大半が、『勝利を誇る者』のように青き光を放っていた。

どう聞いてもありえない噂話を無責任に語るおばさん達は、ただ『日常を楽しむ者』として青い光を放っていた。


そして、彼らの弱き青の光は、自らの間違いを悪を指摘され、それを理解した時に赤へと変質する。


私は悪くない、私のせいじゃない、だってだってだって…


逆算の如く、『自分は悪くない』と言う所から初め、解を探し出す。

悪い。と解は出ているから、そこからの逆算など歪んで当たり前だと言うのに、当たり前に歪むほうへ進む。

後はもう、ぐちゃぐちゃだ。

心の光が見えたって、それを信じられなきゃ問題の解決なんて出来ない。

それどころか、『正解を当てる事』が解決にならないのだ。それを塗りつぶしたくて仕方が無い者が相手なら、尚更。



人と進んで関わりたく無くなるのは当たり前の、孤独を誘う望んでもいない力。

その特別を抱えた鏡一は、誘いに乗らずに抗う為に特別に見合う自分を目指した。


すなわち、特殊な力を持つ、主人公属性を持つ者と。


自分の言葉を馬鹿にし、頭から人を嗤うような者と関わりを作らない為には非常識的な言動は便利で、普段から繰り返しながら自分でも目指す事で、鏡一はらしく進んできた。

落ち込んで世の人を否定するのでも、一般的じゃないから嘘だと自分の力を否定するのでもなく、自ら名乗り続ける主人公のように…と。




とは言え、人を素直に信じられるものを見てこれなかった鏡一は、普段は能力の事を全ては語らない。

知っている人間…修次等の友人相手にも人の真偽を見る力と言っていて、心の光とその強さなんかまで感じられるとは言っていない。

にも拘らず、会ったばかりの聖に全てを語ったのは…


(…とんでもない話だよな、こんな所で鍛えるなんて。)


彼女が、能力を除けば自分より余程強くて綺麗だと感じたから。

鏡一は、能力だけでは駄目だからとあえて属性とつけて、主人公を名乗るにふさわしい力や功績をつけようと、それなりの事をしてきた。

今回のように困っている人、大変そうな人を見抜いて助けたり、それが出来るように普段から体を鍛えたり雑学を集めたり、主人公足りえるものになろうとし続けてきた。

それなりに大変だったからこそ、そして、聖の話に嘘が無い事を判る力を持っている鏡一だから、異常な彼女の話とその重さ、そしてそれらを澄んだ青い光で語れる事に、尊敬のようなものを感じていたのだ。


(一目惚れ…かなこれは。)


見た目でなく、僅かな話とそれが示す聖の澄んだ心への一目惚れ。

自覚して、聖と視線があった鏡一はすぐに顔を逸らした。


「どうかしました?」

「や、なんでもない。」


視線を外したままで鏡一は小さく息を吐いて、自分の心が聖に見えていないことにほっとしていた。


ほっと、一息吐いて、照れた内心を誤魔化す為に別の事を考える。


言葉が本当か嘘か判るだけじゃない、鏡一の能力。

それはつまり、何か企んでいたりよこしまなものを隠していたりすれば、それも赤き光として見る事が出来る訳で…


(聖が殺人鬼絡みじゃないなら…まさか…な。)


今回見た赤い光を思い出した鏡一は、どうかそこまでの大事でないようにと祈っていた。













聖と鏡一が集めた山菜と、修次達が集めた川魚等を中心に皆で調理した食事を終えたその日の夜。

夢華はゆっくりと目を開けた。


「あ、あれ?」


確か、食後少しして眠たくなって、慣れない山中活動で疲れたからだと早めに休むことになった。

なのに…


腕を拘束されて動けなくなっている現状が理解できず、一気に意識が覚めた。


「な…何よこれ…」


薄暗い部屋の中、視界には入らない背後の…それでも、感覚で縛られていることが判る両腕。

明らかに異常な自分の状況に、訳が解らず周囲を見渡す夢華。

ベッドの上、まるで贄のような扱いになっている事に戸惑う彼女の前に、仮面を被った男が姿を見せた。


「っ…あ、貴方何よ!何する気よっ!!」


恐怖にパニックになっている夢華ににじりよってくる仮面の男。

その息は荒く、若干前のめりに近付いてくる男に、回らない頭でも何が目的かわかる。解ってしまう。


「ひっ…い、いや…いや!!来ないで!!」


ベッドでもがく夢華。だが、縛られている腕がベッドにも留められていて、動くことができない。


男の手が夢華に伸びて…




「そこまでだ。」




唐突に、短く明るい場違いな声が響いた。

背後からの、部屋の入口からの声に、慌てて振り向く仮面の男。


「どうせ遺伝子鑑定引っ掛かるだろ、仮面被る必要ないだろ?衛さん。」


異常な状態に当たり前のように現れたのは、夢華が散々馬鹿にしていた鏡一だった。

仮面を被った男は、振り返って鏡一と相対しつつ、自身の仮面に手をかける。


「…君が来るなんて少し驚いたけどね、鏡一君。」


仮面をはずして投げ捨てる衛の視線の先、開かれた扉を背にして立つ鏡一の姿があった。

鏡一は真っ直ぐにたって自分を見据えてくる衛に少し驚く。


「何だ?嫌に冷静じゃんか。」

「食後に僕が別で出した睡眠導入剤入りのジュースを飲む前に、君はさっさと部屋に行ったからね。来るなら君しかいなかったのさ。」

「そんなもん出してたのか。」


調理自体は皆で体験する形でやっていたため、薬品で全滅することは避けられるのはわかっていた鏡一は、夕食だけ一緒に採ってさっさと部屋で寝る事に…寝てしまった事にすることにしたのだ。

衛の赤い光に…やましい企みに気づいていたから。

でも、人は怒りなり下心なり、何もしなくても思う事はある。どうかそうであるようにと祈りつつも、結局事が起きてしまった事に、鏡一は溜息を吐いた。


「疲れを理由にすれば、少し眠たくなる程度の薬の効果なんか誰も疑わないだろうからね。」

「女子を襲おう何て残念な犯罪者の割に考えてるな。」

「残念…か…」


ギリ…と、何か軋むような音が響く。

それは硬く握られた衛の拳から聞こえた音で、相応の力が込められている事を示すものだった。


「…金田の生まれにふさわしいようにと勉強漬けにされた挙句に気づけば30代…金に地位につられて擦り寄ってくる醜い女共から妻を選ぶなんて…冗談じゃない。」

「名家の悩みって奴か。修次がそこまで地獄っぽくないのは次男だからか?」

「望んでも無いって言うのに…」


忌々しげに語る衛。

対して、それを眺める鏡一が浮かべたのは怒りではなく苦笑いだった。


「一応言っとくと最近は学生だって醜いと思うぞ?付き合った人数の話で盛り上がる女とか。それに、家のせいにして人を襲おうって男も大概醜いと思うし。」


責めるという事も無いが、正直に否定を告げる鏡一に対して、衛はより目つきを鋭くして鏡一を睨む。


「格好いいのは自分だけとでも?」

「何と言っても主人公属性持ってるからな。」


眼帯に覆われた右目を指差して笑う鏡一。

悪意に満ちた犯罪者を前に自然で余裕のあるその態度をいぶかしみながら、衛はポケットからナイフを取り出した。


「この近辺で警察が複数人殺されていてね、都心を離れた辺境という事もあって、山中の村では殺人鬼の噂が出ているんだ。」

「知ってる。」

「君たちは殺人鬼に殺されたことになるのさ。正当防衛でかろうじて殺人鬼を倒した僕が守れなかった被害者として…ね。」


ナイフを手に嗤う衛。

状況についていけずに混乱していた夢華がその意味するところに気づいて息を呑む。


つまりは、衛は真相を知る者を殺すつもりなのだ。噂の殺人鬼のせいにして。


衛が殺人鬼の正体なのかと考えていた鏡一は、外れていた上でしょうもないことに絡んだ今回の一件に、呆れ気味に肩をすくめた。


「そういう工作、よっぽど上手くやって運よくないと今時成功しないと思うんだけどな…技術発展してるし。」

「そんな言葉で引くなら…こんな事すると思うかっ!!!」

「ひっ!!」


一切の躊躇い無く、力一杯に握ったナイフを鏡一めがけて振るう衛。

凄惨な光景を想像した夢華が息を呑んで…


鏡一はその一閃を、左腕で受けた。


「は?ぶぐっ!!!」


左腕をそのままに、右拳でアッパーのような軌跡を描いた鏡一は、その拳を衛の顎ではなく鼻の下に叩き込んだ。

重要機関の多い顔面に浮き上がり軌道の拳を放り込まれた衛は首を跳ね上げながらたたらを踏む。

衛は鼻血が流れる顔を空いている左手で押さえながら、腕でナイフを受けた鏡一を化け物を見るような目で見た。


「な、何だお前…」


対して、さも当然と言った様子で慌てることも無く息を吐いた鏡一は、そっと左腕を…その服の切り口を見せた。


「力んで振り下ろした所悪いけど、刃物って素早く押すか引くかしないとあんまり切れないぜ?そんな小さいナイフを力んで振ったってレザーガード切れる訳ないだろ。」


断ち切れた服の下からは、腕とは明らかに違う茶色の何かが覗いていた。

そして、見せびらかすようにあげていた左腕を急に突き出す鏡一。


意表までついた左ジャブ。腕でナイフを防いだ疑問が晴れている最中だった衛にしてみれば完全な奇襲で再び同じ箇所を殴られ頭が事態についていかない。


右手に握ったナイフを振り回してどうにかしようとしたものの、その右手首を掴んだ鏡一は、懐にもぐりこむようにして踏み込みながら屈み…


「とりあえず寝とけ変態!!」


綺麗な背負い投げを決めて、衛を背中から床に叩き付けた。

その手の訓練をしている人間ならばともかく、片腕を掴まれた状態で背中から落とされれば普通は呼吸困難を起こす。

学生時分は鍛えてもいた衛だったが、所詮企業人間となってしまっていた身で綺麗に投げ落とされてはどうしようもなかった。


「あ、貴方…一体…何…」

「だーから言ってるだろ?主人公属性を持つ者ってな。」


ベッドの上で困惑する夢華を見ながら、鏡一は自分の右目を指差してニヤリと笑みを浮かべた。







縄で適当に拘束した衛を部屋に置いて夢華を開放した鏡一は、修次だけを起こして事情の説明をした。

警察じゃない鏡一にしてみれば、別に衛を逮捕する権限も必要もないし、修次の親戚である彼をつるし上げのように叩くのに、勝手にはしたくなかったのだ。尤も…


「俺はまぁ別に…って言っても、殺人まで計画してたんじゃ放置も出来ないよな。」


襲われかけ、殺される予定だった女の子が別にいる以上、許すもなにも無かった。


「まさかこんな事になるなんて…本当ごめん。本町さんも。」

「修君のせいじゃ…悪いのはコイツだから。」


深々と頭を下げて謝る修次の前で、夢華はそのフォローをしつつ、拘束してある衛を睨む。

衛は、既に止まった鼻血の痕をそのままに沈黙していた。


「けど、本当に悪いな、また助けて貰って。」

「気にするな、何と言っても主人公属性持ってる身だからな。」

「貴方、本当に一体何なのよ?」


自慢げに非常識なことを告げる鏡一に、今助けられたばかりの手前強くも出れない夢華が、消え入るような声で呟く。

そんな鏡一の間に入るように修次が立って、自分が聞いたことを話した。


人の嘘が判る『真実の瞳』と呼ぶ力を持ち、軽い人間を敬遠しつつも、人や自分の力を嫌いにならないために主人公属性と言っている事を。


「力があってもそれだけで人を馬鹿にしてたらろくなものじゃないって、だから主人公属性って言って、ずっと見合う自分になるように努力してきたんだ。皆は馬鹿にしてるけど、鏡一は柔剣道も強いし、困ってることを隠してる人を俺も含めて何人も助けてきてる。だから、軽く装備もしてて、結構危険にも首突っ込んでるんだよ。」


明らかな『装備』であるレザーガードに、ナイフを防ぐ異常な度胸。

最悪鏡一自身が何者なのかと疑われるような状況だと思ったため、修次は一通りの説明をしたのだ。

元々変人扱いされている鏡一から話すより、そのほうがいいだろうと思っての事だったが、鏡一のほうは壁を背に興味なさ気にしていた。

実際、鏡一はどう思われようが興味がなかったのだ。

大抵は自分を変人扱いするものだし、そんな人でも仲間内では綺麗な心を見せる事もある。

自分を嫌っているからと、その人の全部が穢れたものじゃない事をよく知っている鏡一は、変人扱い位は気にしたものじゃなかった。


だから…


「その…ありがとう。」

「え、あ、いや…ま、無事でよかった。」


夢華に礼を言われるとは、鏡一はまるで想像もしていなかった。

少し躊躇いがちに、それでも感謝を告げた夢華に対して、どう返したものか戸惑いつつ無難に返す鏡一。

その目にうつる夢華の光に、悪意はなかった。

どうせろくな反応しないだろうと思い込んでいた鏡一は、素直に示された感謝に返す言葉がすぐに出なかったのだ。


(これも醍醐味…だな。)


悪く見える人がいても、その全てが必ず悪い訳じゃない。

夢華のように偏見で人を見がちな人でも、助けた時の感謝が素直なものだと分かると嬉しく、そんな気持ちは、人の一面だけ見て勝手に絶望して何もしていなかったら分からなかったことだと鏡一は改めて思う。


「けどどうしようか…運転出来るの叔父さんだけだしな…」


縛ってある衛に視線を向けて呟く修次。

車ですら山中の林道を数時間走る必要があるような場所で、運転手が犯罪者。

この状況では帰るどころか近場の町までいくことすら大変だ。


「あぁ、俺が電話してくるよ。」

「はぁ?この辺圏外だったでしょ。」


それができれば苦労はしない、と言わんばかりの夢華を前に、鏡一は自身の通信機器を取り出す。

多機能小型化が進む現代にしては大きめで不格好なそれを手に笑みを見せる鏡一。


「防水対衝撃信号強化集音機能…荒事用に弄くってみた強化外装だ。」

「いつの間にそんなもの…全く、何から何まで悪いな鏡一。」

「さすがに外には出ないとまずそうだからちょっといってくる。」


衛の事も含めて身内である修次に後始末を任せ、鏡一は通信機の使える外に出る事にした。


外装で通信強度を上げると電力消費が大きくなるので、普段はその機能は使用していない。

切り替えられるようになっているので外へ向かいつつ起動させると…


外に出る前に電話が鳴った。


「…は?」


鳴った、と言うことはつまり、かかって来たという事だ。

家族には連絡がつかない所に来ることは伝えてあるし、友人もろくにいない鏡一に外部からこんなタイミングに連絡が来る理由が判らない。


繋がったとは言え外のほうが安定するので、外に出た鏡一は通話を繋ぐ。


「九能鏡一ですが、誰ですか?」


非通知からの連絡に、一応は敬語で応対する鏡一。


『警察だ。無事か、真実の瞳を持つ主人公君。』


携帯から返ってきた声は、ある意味予想の範疇にあるものだった。

個人で他人事に首を突っ込んで、犯罪者を引き渡すに近い真似もしたことがある鏡一。そんな自分に他人から通話が入るとなれば、法に絡んだ相手であることは想像できた。

しかし、あまり広くは語っていないはずの真実の瞳と言う自称まで当てて、かつ馬鹿にしたような物言いをする相手に、鏡一は顔をしかめた。


「何だよいきなり。」

『心の色が見えないといきなり無能丸出しか。』


携帯の向こう側から聞こえてくる、自身の本当の力を言い当ててくる声に硬直する鏡一。

普段人の心が見える前提で会話をしていることもあって、機器を使用して遠方と音のみをやり取りしているとそれが出来なくなる。

多量の情報を持つ真意の不透明な相手が悪意を感じる対応をしてくる


「いきなり性格悪い野郎だな…何で俺の力の正体知ってんだよ?」

『その力が君だけのものでもないからだ。』


携帯越しに聞こえてきた声が語る内容は鏡一の予想の範疇にもあったものだが、自身を苦しめつつも特別足らしめてきたものが自分一人のものではないとされて顔をしかめる。


『君の気分はどうでもいい。それより側に変わった人はいないか?』

「は?こっちの変態把握してたのかよ。それならもう捕まえたぜ。」


既に拘束している金田護の姿を思い返して笑う鏡一。

しばらくの無言の後、携帯から息を吐くような音がして…


『…失礼、具体的に聞こう。修道服の殺人鬼の少女は一緒じゃないか?』


全く予想にない一言によって硬直した。


「…ちょっと待て、なんの冗談だそれは。」

『…一緒か、嫌な予感はしたが。』

「っ!だから何なんだって聞いてんだよ!御影聖って娘は一緒にいるけど」

『殺人鬼のような悪意は見えない…と言うんだろう?』


焦る彼の先を読んだかのように語る電話越しの声に苛立ちを募らせる。


『悪意がないんだ。』

「は?」

『彼女の父は異端の警官だった。逃がした犯罪者によって家族を殺され、人を殺しかねない凶悪犯を速やかに排除するようになった…な。』


硬直。

父を継ぎ人々を護ると澄みきった強い意思で口にしていた聖。

その澄んだ強い意思で殺人鬼と呼ばれる代物になってしまう理由。

鏡一に届いた言葉が示した事実は、その繋がらない二律背反を繋げてしまう物だった。


『かの父が危険な重罪人相手に動く類の私服警官だったこともあって、一般の警官の制服まで知らないくらいの常識不足でな、田舎の職業警官が怯えて銃を抜くのが早すぎて死人まで出ている。』

「そういう…理由かよっ…」


噂の真相が判って歯噛みする鏡一。

こんな辺境で警官二人が綺麗に殺されれば、『一体どこの手練が人殺しなんて』と騒ぎになって当然。

それが、殺人鬼の噂の大本だったと言う訳だ。


『…とにかく、彼女への対処はこちらの仕事だ、貴様は彼女を刺激しないようにだけ注意しろ。いいな?』

「そりゃ聖に何かする気なんて俺には」


応えかけて鏡一は言葉を止める。

今この俗世と殆ど隔離された場所には、女子学生を襲い、挙げ句に殺人鬼の噂を利用して皆殺しにする事で証拠隠滅を謀った変態が…


「悪い、急ぎだ。」

『何?おい、待』


一方的に通話を切った鏡一は、早足で駆け出した。


鏡一が連絡をつける相手は犯罪者が同伴することもあって警察になってしまう。

そうなるとどの道ここにいる皆には説明をせざるを得ない。

説明を聞けば殺人を計画していたことが判明する。


(嫌な予感もするし、予感の根拠もあるし、くそっ…おとなしくして)

「きゃあああぁぁぁっ!!!」

「主人公到着前に事起こるなよっ!!!」


考えている間に聞こえてきた女性特有の甲高い声に、鏡一は自棄気味に叫んで全速力で駆けた。









鏡一は目の前の光景に歯噛みしていた。

殺される寸前の衛。それを止めようとして返り討ちにあったらしく、夢華たちに支えられている修次。


それら全ての犯人、心に澄んだ青い光を湛えた少女…聖。



「悪いな…俺は、お前を殺さなきゃならなくなった。」



鏡一は告げて、ゆっくりと右目につけた眼帯を外してポケットにしまった。


『真実の瞳…俺の特殊能力さ。』


儀式のような動作と真剣な鏡一の瞳を見て、聖の脳裏に鏡一の言葉が蘇る。

眼帯をしたままでも関係なく心を見れているのは、聖を助けたときからずっと外していないから彼女もわかっていた。

だが、元々意味を込めて祈ると言う事を知っている聖は、鏡一のその動作に意味が込められていることを感じ取った。


『本気を出す』という意味を。


直後、鏡一はカッターナイフを聖目掛けて投擲した。

全力、加減なしで放たれたそれは、聖の手にあったナイフによって弾き飛ばされる。

それは、無意識でも出来るほど鍛えられた野生での殺し合い…森での修行で身に付けた力。

無意識だからこそ、思考の方が追い付いていなかった。


鏡一が本気で自分を殺す。そう言う理由が聖には分からなかった。

ただ、聖にとっての正解は…



「父様、私を救ってくれた父様が何故人を殺すんですか?それも、悲しそうに…」

「二人以上殺しかねない奴を放っておいたら、死ぬ人間は多くなってしまうだろ。守りたいのなら…無秩序な刃は折らなければならないんだ…」



自身を救ってくれた父の、悲しく優しい解答。

ただそれだけ。故に…


「そう…ですか…」


胸に刺さる痛みに傷ついた表情を隠そうともせず、しかし迷い無く地を蹴って、部屋の入り口からカッターを投げた…自分を殺そうとした鏡一に向かって切りかかった。




空間を裂くかのような鋭い一閃を下がってかわす鏡一。

反撃に出ようと構えた所に、間髪いれずに放たれる後ろ回し蹴りが掠めた。


(いや、速い速い速い!!!)


慌てて部屋から出る鏡一。

とても素人が近距離でさばける代物ではない。


とはいえ、取り敢えずは予定通りに進んでいた。


教養常識の不足で自らを殺しに来るものを排除するなら、殺傷武器を使った後に殺すと嘘をつくだけで自分を狙ってくれると考えたのだ。

カッターの投擲に抵抗がないでもなかったが、聖の強さは把握していたし、余程当たり所が悪くなければ大丈夫と考え加減しなかった。

投擲物の切り払い何て超人的な真似をするとまでは鏡一も予想していなかったが、自分を殺しにかかってくれるところまでは大体予定通りだ。


ただ…


(ここから何をどうするかまでは全く考えてなかったけどな!!)


おびき出して、どうにかなる相手じゃ無い事を一瞬で思い知った。

廊下で聖と向かい合った鏡一は、右腕を振り抜くと、その袖口から何かが飛び出す。


分銅のついた紐。


軽くするため強度や張力はさほどでもない市販の紐に分銅をつけた程度のものだが、中距離武器としては勿論、2、3階程度の高さなら降りることもできる小道具。


足にでも絡まれば…鏡一はそう考えていたのだが…


ナイフの一閃でアッサリと断ち切られた。



「いや待て嘘だろおい!」



さほどでもない強度とは言え、軽い人間なら少しぶら下がること位は出来そうな紐。

鏡一自身も加工するときには、しっかり伸ばして鋏のように挟んで力を加える類いの刃物で切る代物だ。

振るっている…空中にあるしなった状態の紐を、ナイフのような短い刃物で薙いだ程度で、一撃で完全切断何てどうかしている。


「くそ…っ!!」


悩む間もなく距離を詰めにかかる聖。

ナイフを持つ右手だけは最大限に警戒する鏡一だったが…


(っ、蹴りか!!)


蹴りかかってくる事を察した鏡一は聖のみぞおちへの一撃を防いで吹っ飛ばされた。


これが、鏡一が普段全てを明かしていない理由。

心の光を見ることによる行動予測。


単に嘘がわかるだけでは出来ない事だが、言葉ではなく心を見ているため、行動を行う意識がある部位を感知すれば行動予測が出来るのだ。

当然、実用レベルにするために、柔剣道の試合や喧嘩含めた騒動等での練習を積んでいる。

ナイフの軌道をあっさり見抜いて防いだのも、この力を磨いた結果なのだが…


ナイフの二閃から回し蹴り、空いた手を掴みに伸ばし、下がってかわせば今度は突き…


聖の獣じみた身のこなしと洗練された連撃に、行動予測を出来てもしのぐのが手一杯になってしまっていた。


偶に牽制まがいに振るった鏡一の手は、服を掠めることすらなくかわされる。


(俺と同じ力があるわけでもないのに、超反応が過ぎるだろったく!!)


優秀な素手の人間や武器を持っただけの暴漢ならどうにかできる自信のある鏡一も、人外の身体能力に迫る体で武器と格闘技術を備えた者の相手は、身の丈を超えていた。


逃げ回りながら手を考えようと駆ける鏡一。

広間に出て、二階に続く折り返し階段をかけ上がった鏡一は、折り返したところで驚愕する。


聖は、一階から跳躍して二階の床をつかんでいた。


そのまま懸垂のように素早く身体を上げた聖は、手すりと床を繋ぐ柵をつかみつつ二階に上がる。


「は…っそ…」


鏡一はきっちり二階まで駆け上がってしまってから気付く。

柵の外から手すりを軽々飛び越え二階の床に着地した聖。

彼女の息はかけらも乱れていなかった。


世界クラスの陸上選手だって200mで息切れするものなのに、全力戦闘から階段を駆け上がった鏡一が、なんの疲れもない訳がなかった。

そんな鏡一を前に、あまりにも自然な様相の聖。

必死で駆け回る鏡一を前に、体力に余裕があるのかそもそも全力ではないのか、聖は息も切らさずに真っ直ぐに立っていた。


(人も元々猿だけどな…ったく…)


二階の床に掴まって懸垂混じりに上がってきた聖に人類の祖先を思い出した鏡一は、苦笑いしつつ構える。


逃げるのは無理、となれば事を構えるしかない。

だが、交戦も不可能事だと、鏡一は自覚していた。


超人番組くらいなら出演出来そうな身体能力を見せる聖がナイフを使いこなす。

不良が武器を持っただけなら何とか出来る自信のある鏡一も、戦闘の達人が武器を持っていればどうにもならない。

進むも退くもままならない状態で、鏡一は…



全力で後方へ飛んだ。



距離を詰めようと駆け出す聖を前に、鏡一は近場の部屋の扉を思いっきり開いた。

駆け出した聖の視界を半分ほど埋める扉。その影に潜り込むようにして消えた鏡一の後を追って、聖は部屋に飛び込もうとして…足をとられた。


扉の取っ手を掴んだ手をブレーキに急停止した鏡一は、扉の影から聖に足払いを仕掛けたのだ。

正面から戦っても逃げてもどうにもならないなら、奇策しかない。

もとより競技者ではない鏡一には奇策は得意技で、綺麗に足をとられた聖は廊下で倒れ…


勢いをそのままに転がって立ち上がった。


(っておい!ダメージ所か時間稼ぎにもならないのかよ!!)


転んで身体を打つ程度のことは期待していた鏡一だったが、受け身どころかそのままに立ち直った聖を見て驚愕する。

一瞬の硬直。その隙を逃さず、聖は肩から体当たりで鏡一を部屋の中に押し込んだ。仰向けに倒された鏡一、彼の腰に乗った聖は両手でナイフを振り上げる。


振り下ろされればそれで終わり。


窓から差し込む月明かりに照らされて光る銀のナイフ。

鏡一はそれを見ないように瞳を閉じた。


(この期に及んで青い光…か、本当に凄いな。)


澄んだ心を示す青い光。

それが、鏡一が聖に見た意志の光だった。それも、今も尚…である。

殺意や狂気じゃない、真っ直ぐな意志を示すそれは…鏡一が惹かれた理由にして、この狂った現状の原因でもある。


(けったいな能力といい、好きになれた人といい、つくづく変わった巡り会わせだな…)


自身の終わりを目前にしながら、鏡一はそれでも笑ってしまっていた。

目を閉じているから実感がないのか?と、自分の前に何処か他人事のように感じていた鏡一は、しばらくしても何の変化も無い事をいぶかしんでゆっくりと目を開いた。


聖は、ナイフを振り上げた姿勢のまま鏡一を見て動かなくなっていた。


「鏡一さん…何で…私を殺さなきゃいけなくなったんですか?」


聞きながら、聖はかすかに震えていた。


「やだなって…思ったんです、鏡一さんを殺すのは嫌だって。でも、多くの人を殺しそうな人を止めるのは、多くの人の命を守ることになる。だから…人殺しを躊躇わない人は絶対に止めなければ…殺さなければいけなくて…」

「あ…」


震える声で言葉を紡いだ聖。その言葉が懺悔のように聞こえ、鏡一は聖が気づいてしまった事を悟る。


「人を守るためにここに来た鏡一さんが私を殺さなきゃいけなくなった理由は何なんですか?鏡一さんが皆を守りに来た、殺人鬼の正体って…誰…なんで…」

「もういいよ、いいって。」


がたがたと震えだした聖。その体はもう鏡一を押さえ込むためのバランスも保っておらず、年相応の少女の重さだけであっさりと起き上がることが出来た。

震えながら、自身を壊す言葉を聴く為に、それを察していながら、それでも逃げないように言葉を紡ぐ聖。そんな彼女を、鏡一はそっと抱きしめて頭をなでた。


約束と理想の姿から間逆の大罪を繰り返していた。そんな事実に感づいた聖が取った行動は、事実から逃げるために自分を殺してしまうことではなく、その事実を確認すること。


他の誰が何をどうしようと、鏡一にはもうそんな彼女を責める気なんてなかった。


聖は泣いた。

鏡一にすがり付いて、消え入りそうな声と共に涙を流し続けた。





ひとしきり泣いて落ち着きを取り戻した聖は、顔を上げると目元を手の甲で拭い、小さく頭を下げた。


「す、すみません…私のせいなのに…」

「もう死んじゃった警察の人はともかく、俺は気にしなくていいって。大体田舎警官だからって女の子一人に手も足も出ないで銃抜くような奴自業自得だっての。」


心底傷ついている聖を励ましたくてあえて軽口を叩いてみる鏡一だったが、苦い顔をする彼女に、すぐに失言だったと頭を下げる。

自分を救った父の様にと一人で鍛え、結果が正反対で、挙句取り返しがつかないとなれば励まされた程度で立ち直れるわけもなかった。

鏡一は俯いた聖の頭を抱き寄せる。





バンッ!!!





唐突に、銃声が響いた。


「っ!」

「な…う、つっ…」


咄嗟に立ち上がる鏡一。

同じく立ち上がろうとした聖だったが、左足に走った激痛に崩れ落ちる。

その足は、赤黒い血に塗れていた。


鏡一は聖を庇うように立ち、部屋の入り口で銃を手に嗤う男を睨み付けた。


「お前…っ!!」

「くくくっ…動くなよ残念主人公。長生きしたかったらな。」

「っ…」


銃を手に笑う衛。

いくら能力を理由に事件に首を突っ込んできた鏡一でも、銃を相手取ったことはない。

そもそも、無手で武器を相手に立ち回る事自体並ではないのだ。


「何でそんなもの…そもそも何で自由なんだよっ!」

「ご丁寧にカッターを投げっぱなしにしていってくれた馬鹿がいたからな。」

「ぐ…」


聖への対処に頭が向かいすぎて衛を縄で縛っていた事などすっかり頭になかった鏡一は、今更になってそれを後悔する。


「お前の前で彼女をなぶってやる。捕らえてくれた礼にな。」

「…いい趣味してるよ全く。」


悪態を吐いてみる鏡一だが、さすがにこの状態で余裕はなかった。


「さぁ聖、まずは彼の手足を縛って貰お」

「お断りします。」


勝利者の如く語る衛の前で、聖は立ち上がった。

足とはいえ直撃している銃弾による傷は深く、放置するには危険だ。

当然スムーズに立てるわけもなく、立つのがやっとの有り様である。

にも拘らず、その口調はいつも通りだった。


「…何だと?」

「二連射を正確には無理でしょう。私と鏡一さん…立て続けに殺せるか試して見ますか?」


右手のナイフをちらつかせる聖。

足がダメでもナイフは投げられると言わんばかりの挑発。

銃を構えた自身を前に挑発までかけてくる聖を前に、衛の頭に二人とも殺してしまおうかと言う考えがよぎり…


刹那、鏡一が動いた。


横への跳躍。

壁に音を立ててぶつかる勢いで。

聖を庇うように立っていた鏡一が急に動き、衛は一瞬迷った。

動いた鏡一と敵対を明言している聖、どっちを狙うかを。

が、それも一瞬。女子を襲う気でいた彼は、怒りに任せて鏡一目掛けて引き金を引いた。


が、殺すのかいたぶるのかで迷いながら怒り任せに適当につけた照準は狙いにもならず、放たれた弾丸は鏡一の頬を抉って背後の壁に着弾する。

鏡一は迷い無く、ポケットから取り出したそれを、引いてはなった。


聖相手に外した、右目の眼帯。

厨二病を装う為の飾りであると同時に、実はスリングショットになる暗器。

だが、玉がない為、鏡一は輪ゴムを飛ばす要領で眼帯自体を飛ばした。


眼帯の装飾部が目元に当たりたじろぐ衛に向かって、鏡一は壁を蹴るように駆け出した。

同時に、その横を通りすぎる銀色の閃光。

それが、銃を持つ衛の手の甲に突き刺さった。


「っ…お前ぇ!!」


聖が投擲したナイフが刺さったのだと理解し、彼女を睨んだところで…


衛の顔が、グシャリと歪んだ。


ダッシュの勢いをのせる形で放たれた鏡一の拳。それが綺麗に衛の顔面を捉えたのだ。

倒れた衛はそのまま動かなくなり、鏡一はそれだけ確認して息を鳴らす。


「俺の女に手を出しやがって…主人公属性なめんな!!」


拳を握って叫ぶ鏡一。

学生の身で銃を向けられた恐怖を振り切った興奮で気が高ぶっていたせいなのだが…


「あ、あの…」

「あ…」


恐る恐ると言った様子で声をかけてきた聖と目が合った所でようやく、あまりにも手順立場等をすっ飛ばした発言をしてしまった事に今更気づく鏡一。

緊張と動揺で頭が回らなくなる鏡一だったが、視界に入った聖の左足にようやく我を取り戻す。

その足に刻まれた、赤黒い血の滴る銃弾による傷跡。


「と、とりあえず、コイツちゃんと拘束して、手当てしようか。」

「あ、は、はい。」


出血がかえって冷静さを取り戻させ、二人は黙々と衛の拘束と足の応急処置に動き出した。









次の日、鏡一に連絡を入れた警官、日野信也が別荘まで迎えに来てくれたため、一同は無事に岐路につく事ができた。

事前会話で聖以外に事件を起こした者がいる事も把握していたため、犯人護送用の車両と学生達を家に送り返すための車両の二台が用意されたのだが、鏡一と修次は聖と衛の乗せられたパトカーの方に同乗していた。

修次は衛の親族として、そして今回の旅行に誘ったものとして自分から事情聴取に名乗り出て、鏡一は少しでも聖と共にいる為。


信也の計らいではあったが、犯罪者としての護送なんて状態ではそんな時間も楽しく会話とは行かず、重い空気のままあっさりと終わりのときを迎えてしまう。


先に衛を預けてくると引き払った伸也と、それについていった修次の計らいで出来た時間、警察署の前で鏡一と聖は向かい合っていた。


「あの…鏡一さん…」

「ん?」

「その…俺の女って言ってくれてた事なんですけど…」


言い辛そうに言葉を紡ぐ聖の言葉に自分の大胆発言を思い出した鏡一は、少し照れたように視線を外し、所在なさげに頬を掻く。


「あー…えっと…」


鏡一は少し躊躇いつつ、深い息を吐いてから覚悟を決めて聖を見る。


「おっ…俺とっ…付き合って…いや、結婚してくれ。」


銃相手に対峙した鏡一だったが、告白と言うまるでベクトルの違う緊張感にガチガチに力が入っていて、まともに言葉を紡げていなかった。

きをつけの姿勢でピンと棒立ちし、それでもなお視線を外すことだけはせずに聖と向かい合う鏡一。

なれた様子の無い鏡一の様子に、逆に真剣さを感じる聖。


「…ごめんなさい。」


聖は消え入りそうな声でそう言って首を横に振った。

全身に力が入ったまま動かなくなる鏡一。


「ヒロインとの別れ際にフラれる主人公か、斬新だな。」


と、まるで周囲の様子が入ってきていなかった二人に、衛の引き渡しを終えた伸也が唐突に割って入った。

真後ろからの声に慌てて振り返る聖。

そこまできてようやく立ち直った鏡一が、傷心を振り切るように信也を睨む。


「ぐっ…う、うるせぇっ!!」

「求婚までして見事な玉砕だな、いい夢は見れたか厨二病の童貞少年。」

「どっ…法律上は当たり前だろうがっ!!警官の癖に何言い出してんだ!!」

「法律上当たり前の間で済めば良いな、魔法使い候補。」


ささくれだった精神を奮い立たせて噛みつく鏡一だったが、玉砕直後ではそれもむなしくあっさり伸也にあしらわれる。


「あっ…あの…違っ…鏡一さんが嫌とかそういう話じゃないんです。」


照れと驚きで固まっていた聖だが、二人の険悪な空気に慌てて割って入る。

聖には優しい二人は示し会わせたように口を閉ざし、彼女の言葉を待った。


「実は…シスターとして働こうと思っているんです。」


躊躇いがちに言葉を紡ぐ聖。

元より教育を受けられなかった環境含めて、更生再教育という意味も込めて教会で勤める事となったのだ。

義父に助けられる前も教会にいた聖は、そこで改めて一般常識含めての更生を受けることにしたのだ。


「確かに…私は間違えました…でも…」


重々しく言葉を紡ぐ聖。


「今回の一件でもし鏡一さんを含めて皆が殺されてしまっていたらと思うと…どうしても狂気を止める事が悪いと言い切れなくて。」

「それは…だよな。」


重く話す聖の言葉に、鏡一は自身の頬に刻まれた銃弾の傷を撫でる。

怯えた警察を殺してしまったのが間違いとしても、聖の話は鏡一には良くわかった。

銃を向けられ、撃たれているのに、武器を振らないほうがいいなんて平和ボケもいい所だ。鏡一にも、その実感は自身の頬を裂いた傷と共に今も寒気として残っている。


「だから…逆にシスターとして禁忌に触れずに人の力になる事を学んで、本当にどうすればいいのかをちゃんと考えたいんです。…鏡一さんは、物騒なことしなくても、私と衛さんを止めて見せましたし。」

「あまりコイツを褒めるなよ?馬鹿な子供の暴走ほど危ないものはない。」

「警官が子供の旅行に逐一ついてこれるなら俺だって何もしなくてもいいだろうさ!何もしなきゃ通話すらできずに全員殺されてたっての!」


大人として注意する信也に対して怒る鏡一。

だが、今回危険な犯人側の聖は二人に何一つ言えず黙ってしまい、聖が静かになった理由を察した二人は互いから目線を外して黙る。


「それで…ですね…」


喧嘩が収まったと確認した所で、聖が再び続きを話し始める。


「その…禁忌を避けて努めるとなると…何もしてあげられませんから…」

「ぁ…あー…」


どうしようもないほど恥ずかしそうにたどたどしく言葉を紡ぐ聖。

その様子に何を言いたいのか悟った鏡一は、どう返したものか戸惑いながら視線をさまよわせる。


「だからその…ごめんなさい。答えが出るまでなんて…待たせられないから…」


恥ずかしくもあり重くもある理由に喋りづらくなり、二人は揃って言葉を止める。

少しして、沈黙を破ったのは…



鏡一の足音だった。


「そんな長い間待ってられるかよ。」


呟くように漏らした鏡一の言葉を聞いて目を伏せる聖。

鏡一はそんな彼女から離れるかのようにきびすを返して歩き始め…




「お前より沢山の人を救う。」




聖に背を向けたまま、鏡一はよくとおる声でそう告げた。

聖が俯いていた顔を上げると、鏡一は振り返って真っ直ぐに腕を伸ばして人差し指を差していた。


「そして…そんな救い手になってから、『やめられたくなきゃ俺の嫁になれ』って言いに来てやる。」

「ぇ…」

「気の抜ける反応してんなよ。出来るに決まってんだろ?」


挑戦状を叩きつけるかのような鏡一の姿を呆けたように眺める聖。

そんな彼女を前に鏡一は笑ってつきだしていた手を握りこみ、自分の胸元を叩く。


「俺は主人公だぜ、必ず待たせずに迎えに来てみせるからな!!」


宣誓と共に駆け出す鏡一。

聖は、言葉を返す間もなく居なくなった鏡一の去っていった方を眺める。

呆然としている彼女の肩に優しく手を置く伸也。


「馬鹿には二種類いてな。」


鏡一のことを指しているのだろう酷い台詞。

けれど、言葉の割に優しい雰囲気を感じた聖は背後の伸也の顔を見上げる。

伸也は笑顔だった。


「世界や挫折を知らず、逆上せ上がっているだけの馬鹿と…それらを味わっても止まらない馬鹿。前者は子供には起こりがちだが、後者は時々化ける。」

「鏡一さん…」


伸也の挙げた二種類の馬鹿。

その声の優しさから、鏡一が後者だと指し示している事は聖にもわかった。


「お前に負けて、銃口を前にして尚あんな台詞を吐ける馬鹿だ。本当に辿り着くかもしれんぞ。」

「…そうですね。」


聖は思い返す。

悲しみを飲んで狩り手として人を守ろうとしていた父と、誰一人…それこそ罪人である自身や衛すら死なせず笑っていた鏡一の姿。


(もし全てが上手くいくのなら、父様も鏡一さんのように在りたかったのかな…)


自身で父の様にと思いながらも、悲しげに動いていた父と違い、前向きである為に人を守ろうとしていた鏡一の姿がすぐに浮かぶほど鮮明に聖の心に残っていた。




あとがき


『地球を動植物を憂い、懸命に努力を積み重ね、真面目に全力で人間の絶滅を目的に活動する』人と、『事件に戦争とどろどろしたものが大好きで人間模様を眺めるため、本心を隠し嘘八百を並べ立て善人を装う』人。

学生時代に、こんなのがいたらどうなるんだろう?と考えたのがこの『澄んだ殺し手』の元になってます。

嘘を吐くのが悪い事、人に迷惑をかけるのが悪い事、と単純に教わってきているのが普通だと思いますが、この場合は誰をどう評価するのでしょう?

物語等だと前者は『狂者』と扱われがちで、後者はどこかで本性がばれて痛い目を見るというのが相場ですが、前者の人に『そんな本心を持つな、嘘を吐け』と自由意志の否定を行うのが正しいのか、後者の人に『嘘をやめて人の不幸が好きでたまらないと公言しろ』と言うのが正しいのか…

作者の既作『言の葉に踊る』も誰が悪かったのかと考えないかと思って書くことにした代物の為、この手のことがずっと頭をぐるぐる回ってるようです。


あとがき冒頭の二人の設定で書かなかったのは、あからさまに長編の模様を呈するのが容易に想像できたからです。

間繋ぎの間に投稿する短編のつもりで書き始めたので、そんな長々と…かけるつもりは無かったんだけどなぁ…どうしてこうなった(2017年のカレンダーを眺めながら遠い目)。



登場人物についてのお話


九能鏡一

真実の瞳は、こういう能力がないと重罪重ねている人の心中が『綺麗』なんて気づける人間なんていないため必要でした。ってだけで、随分大変な人生に設定されたなぁ(汗)こんな能力持ってポンと人波に放り出されたら純粋に面白おかしくとは間違いなく行かないでしょうが…

主人公で『あろうとしている』って強調することもあって、最後上手く行かないよう『撃沈』して貰ってますが…できたら、『ザマァ』とは言わないであげて下さい(苦笑)。


御影聖

修道服の刃物使いの少女。ベタですね(苦笑)。

あくまでも前提情報常識のトチ狂ってるだけの優しいいい子…のつもりなのですがどうでしょう?

懸命に努力を積み重ね、真面目に全力で人間の絶滅を目的に活動する方が大元なので、人を守る仕事を継ぐ為に普通の生活を投げて黙々と鍛錬を…って、性根の歪んだ人には無理があると思います。


金田修次

女の子を連れ出すにあたり、鏡一の設定じゃ無理があるので、今回の一件に巻き込まれ役です。金持ちの家の女子から人気のあるイケメン…普通の男子には煙たいなぁ。


本町夢華

連れ出され、巻き込まれた修次好きの女子。

被害者役にして、鏡一への普通の女子の反応を示す役。

一応、普通の女子のつもりなので、助けられてまで鏡一に冷たい反応はしなかったんです。


鈴木咲&田中花

夢華の取り巻きの女子。

本当それだけ…って言うとアレですが、さすがに男子二人いる旅行に女子一人でくっついていくのには凄く古い知り合いとかでもないとありえないので、まぁ取り巻き位は必要かと。数人の女子に笑われるって様のほうが鏡一の扱いが判りやすくもなるので。


金田衛

今回の主題である聖の隠れ蓑(笑)。全く同情できませんが、犯人『役』って時点で確実にロクな結末を迎えないことが確定しているので、役としてはかわいそうな人です。


日野信也

聖の父親と友人だった…なんて設定もあったりする、ちょい憎まれ役の大人。

聖を初対面の男子から庇おうとしている辺りから察した方もいるでしょうか?


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