表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

転校生のすぐる君

残り一段の階段をジャンプして降りて、僕は地面についた。この歩道橋を毎日登って降らなくてはいけないなんて、改めて考えると結構面倒なことをしている。

大人になれば、何が変わってくるんだろう。大人ってそもそもどんな生活をしているのだろう。毎日両親が家にいるけども、僕はふと漠然としたことをこうして考えてしまうことがある。

家からのんびり歩いて15分の小学校へ通学している。クラスは32人、全部で5クラス。これは地域では多い方らしい。あのいじめっ子軍団は先生のクラス会議によってバラバラのクラスになったそうだ。その方がいい。いいけど、と僕は足を止めて空を仰ぐ。こうして大人に操られてるって、こういうことがある度に感じるのはあまり居心地のいい思いはしない。早く大人になって自分の足で歩きたいと、簡単に言うとそんなことを僕は思うんだ。自分の足で歩きたいなんてそう大きいことを言っているんじゃなくて、んーなんて言うんだろう。わからない。毎回こうなってしまうから、人に説明できないんだけど。

家についてもまだ太陽はこの地をあたためている。玄関を開けると母がおかえり、と出迎えてくれた。僕はランドセルをポン、と放り投げると、今日あった出来事を手早く話してまた玄関を出ていってしまう。右隣のおじさんに会いに行く為だった。祖父母のいないぼくにとって、僕にとっておじさんの存在は同じくらい近いものだった。小さい頃から僕のことを知ってくれていて、何度か怒られた。その度に僕は、「もう会いになって行ってやらないぞ」と思うのだけれど、それでも少しずつその怒りは消えていく。たまに関係のやい嫌なことがあっても、おじさんは運の悪いことに僕の頭では悪人として、どうしてこんなことばかりなんだと眠れなくなることもあるけれど、夜はだいたいそんなもんだよと、どこかの大人に言われたことがある。そうか。そんなものなのか。

おじさんの家の前についても全くチャイムなんて押す気配もなく、家の裏に回る。縁側によいしょと座って、おじさーんと叫ぶと、おじさんは視線の端にある物置から出てきた。「おかえり。今日はどうだった」と表情を変えずに言うと、僕は何の気もなく今日の昼休みの事を話した。

「今日はすぐる君を学校案内したんだ。先週引っ越してきた子でね、僕とすずちゃんの3人で行ったんだけど、ずっと下向いててあんまり話してくれないんだ。前の学校のことも話してくれないし、昼休み遊びに誘っても来ないんだ。」

そうか。それは幾分か照れ屋な子なんだろうなあ、といつの間にか僕の隣に座って相槌を打つと、

「そうかもしれないけど、でも僕も勇気を出して言ったんだ。」

「そうだよなあ。それは寂しかったな。」

おじさんは続ける。

相槌を打ちながら持ってきてくれた煎餅を、食べたいと思いながら、おじさんの話も聞いてあげようと向き直ると

「でもな、君には覚えておいてほしいんだ。これで、君は少しもすぐる君を嫌いになんてなっちゃあいけないぞ、少しもだ。すぐる君はただ恥ずかしかっただけかもしれない。見慣れないことだらけで緊張しきっていたのかもしれない。もし君がすぐる君の立場だったら、きっと自分の気持ちが開くまで待っていてくれる子がいたらとても嬉しいだろう。それが友達というものだ。それと君は勇気を出して誘ったと言ったが、それは素晴らしいことだ。勇気を出すなんておじさんになっても、簡単にできることじゃない。それは十分に君を褒めてあげるんだ。いいかい、これからこうして、自分の気持ちが通じないことなんていくらでもある。それの乗り越え方というのは人によって様々だ。その中でおじさんは、叶わなかった結果をまず反省した後に、頑張った自分を褒めてあげる。それは誰にも言わないけどね、そうしてここまで来た。まずは自分を大切にすること、それと同じくらい、他人も大事にすること、わかったかい」

僕は隣に座って話すおじさんと目を合わせたまま、じっと話を聞いていた。もう煎餅のことなんて考えていなかった。僕の目が写しているものは心とそのまま直結していて、漠然と、ただ確かに色味をもって僕の中に入ってきた。

「わかった。でも僕の誘い方もいけなかったのかな」


「ほう。感心だな。そう思うことも大切だ。」

おじさんは目を少し開いてまた微笑んだ。どうしてこう、この人は優しいのかと、まだ9歳の僕は首を横に振ってしまう。そういえばどうして、感心した時に首を横に振ってしまうのだろう。何かおかしい。

「僕あの時、すぐる君がどこかにいく途中だったのに

誘っちゃったから」


「そうか。すぐる君も何か用事があったのかもしれないな。」


その日の夜、僕は布団の中で考え続けた。このまますぐる君が下を向いて学校生活を送っていたら、それはつまらない日々になってしまうだろう。どうにか僕にできることはないか。考え続けている内に眠ってしまってた。

次の日の朝、僕はすぐる君におはよう、と声をかけた。すぐる君もおはよう、と返してくれる。

昨日おじさんが言ってくれたように、すぐる君の緊張がほぐれるまで待っていてあげようと思った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ