2−3 独白
一方、理都の母親は娘の帰りが遅いことを心配して、屋敷の縁側で柱にもたれて空を仰いだ。
一緒にお祭りに言った子の家に電話してみると、すでに帰ってきていると言っていた。
魔術で未来を観てみたが、はっきりとしない結果だった。
占いと別種の未来観測はほぼ必中……ただし娘の理都のこと以外はだ。
昔から理都の未来だけは判然としない。
その理由はきっとあの子が普通ではないからだ。
空を仰いだまま、理都の母親は瞼を閉じて、10年前のあの日を振り返る。
***
あの子が私達の前に現れてもう10年が経つ。
10年前のあの日、私は屋敷の離れにある社の中で赤ん坊を見つけた。
例えば、誰かが赤ん坊を社に捨てた、そういう可能性は考えられる。
けれど、それは物理的に有り得ないことなのだ。
この屋敷のある空間も屋敷自体も、そして社すら、魔術で創られた偽物だ。
そんな偽物の中に、誰かが侵入して、赤ん坊を置いていくなんて有り得ない。
夫と話し合ったけれど、結局、どのようにして赤ん坊がここに来たのかの答えは出なかった。
目元が自分と似ているような気がした。
結局、私達は共に育てるという答えで一致した。
名前もなにも残されていなかった。
だから私たちは自分たちの名前から一文字つづとって理都と名付けた。
息子と同じくらい愛情を注いだ。
ただひとつ条件が設けられた。
住む家を別にし、息子に合わせる機会もできるだけ制限したのだ。
私達、月代家には守り通さなければならない秘密が多すぎるためだ。
その秘密を多くに語ることはできず、血の繋がる息子の靖司にだけ背負わさせねばならない。
理都はいつもは自分の所属する協会の宿舎で暮らしている。
月に1度か2度、剣術や魔術を教えるくらいしか屋敷には来ない。
でも学校にいる間と寝る時間以外はほとんど一緒にいるようにしている。
10つになった理都は私に似た黒い瞳と髪で、顔立ちも私とそっくりに育った。
もしかすると、18年前、息子の靖司と一緒に生まれてくるはずだった双子のもう一人が同じ年になっていたら、りっちゃんみたいな子に育っていたのかな、と思ってしまったりもする。
でもそれはあり得ないことなのだ……。
理都の母親は閉じていた瞼を開ける。
そばに夫があぐらをかいて座っているのを見つけた。
「あら、いらしてたんですね」
「考え事をしていたのか? 理都のこと?」
「はい。もう、あの子ったらどこにいるのやら」
「心配しなくてもシノがついているから大丈夫だ。
それに靖司を向かいに行かせたんだろ?」
「ええ、そうですね……」
短く応えると、再び星の瞬く空を仰ぎ見る。
しばらくして、女は膝を折って夫の隣に腰を下ろして寄り添うと、その肩に頭を乗せた。
2人は娘が今どんな目にあっているか全く想像もできていなかった。