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エピローグ

 一ヶ月後の占術協会の宿舎。


 ワンルームの部屋にはテレビ、キッチン、冷蔵庫、勉強机、それにベッドが置かれている。


 10歳の少女が住むには十分である一方、一人暮らしするには住人が幼すぎるともいえる。


 客観的にみて寂しさを感じざるを得ないが、それでも理都はそれなりの日々を過ごしていた。


 寝起きし、勉強するだけの部屋あるし、外に出れば誰かしらが声をかけてくれる。


 何より、ベランダでひっくり返って心地よさそうに眠っているシノがいる。


 ただ小言が多いのが玉に瑕。


 今は、ベッドに腰掛け、二振りの刀の手入れ真っ最中。


 油塗紙に油をつけ、刃に丁寧に油を塗っていく。


 これは錆つかないようにするために必要なのだ。


 二週間前のこと。


 道場の中央で理都と母親の小都音がお互い向き合って正座している。


「もう一人前ね。お母さんの刀をりっちゃんに譲るね」


 小都音が二振りの刀を理都に差し出す。


「銘は清風明月。もう一つ、こっちは雲心月性。大事に使うのよ」


「せいふうめいげつ……、うんしんげっせい」


 理都が刀の名前を繰り返す。


「元は私のお父さん、あなたのおじいちゃんの刀なの」


 と小都音が付け足す。


 理都は祖父とは一度も会った事がない。


 遠い昔に、悪い人たちと闘って亡くなったと聞かされていた。


 その刀の波紋の美しさに、刀の手入れをしているだけで理都の心が踊る。


 ベッドから立ち上がり、手入れを終えた刀を中段に構える。


 その重さによろけてしまう。


 受け継いだ二振りの刀を自在に扱えるようになるまでにはまだまだ時間がかかりそうだ。


 ベランダにいるシノは薄っすらと片目を開けて、まどろみの中で、刀の手入れをしていた理都を見ていた。


 風に揺られて耳がピクピクと動く。

 

 刀を授けられて嬉しいのね、とシノは思った。


 でも……。


「あの母親、罪滅ぼしのつもりかしら……」


 あの子がこの世界に存在し始めた瞬間から、私は全部を見てきたのだ。


 ――――理都がこの世にどのように生まれ出でたのかを、あの神社で。


「人間たちのルールでは、あの罪は許されるのかしら。

 それとも、ただ罰せられないだけなのかしらね……。

 あれを見ていたのは私と神様以外、誰もいなかったんだもの。

 あら、でも神様の罰も跳ね除けちゃったわね、このあいだ。

 ほんと、人の業って海よりも深いわ」


 キィーと音を立てて理都は扉を開ける。


 シノは理都の後を追ってワンルームの外に出る。


 髪をくるくる巻いた少女が理都に気づいて手を振る。


「りっちゃん、こんちゃーす」


「あ、みさとちゃん。って!?」


 みさとと呼ばれた少女は、真っ赤なドレスを着ている。


 その赤は血――――?


「あ、フェイク? えーっと、どしたの、それ?」


 おどろおどろしい格好だが血の匂いはしない。


「どお? どお? 似合うでしょ?」


 くるっと回るとドレスのスカートがふわりと広がる。


「もうすぐでハロウィンでしょ? その準備!」


「へえー、うん、似合ってるよ。私はどうしようかなあ」


「シノには天使の羽、つけてあげるね」


 足元のシノはぶんぶんと首を振る。


「去年みたいなのはゴメンよ」


「去年? なんだっけ?」


「確かシノちゃんには、コウモリのコスプレさせてたよ?」


「思い出した! 終わった後、羽を取るの大変だったんだ」


「あれは、りっちゃんがボンドで羽を付けるからよ」


「え!? りっちゃん、そんなことしたの?」


「ちょっと、毛がムシれちゃった」


「ひ、ひどい……」


「とにかく、私のことはいいから」


 シノは理都から逃げるように距離を取る。


 その日の夜、理都はカエルの着ぐるみに身を包んで鏡の中の自分を見詰める。


 ぶかぶかだ……。


「ねえ、シノ、これぶかぶか」


「いいんじゃないの? 似合ってるわ」


 人間って変な生き物ね、とシノは心の中で呟いた。


 月代理都とシノの日々はこれからもこんな風に続いていく、何もなければ、きっと。



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