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4−2 三途の番人

 大きな川にかかる大橋の前に、靖司、理都、シノの二人と一匹が対岸を見つめている。


 赤い漆の塗られた木造の橋。


 その長さは、おそらく1キロ。


 橋の対岸は霞んでいて、はっきりとは見えない。


 橋の下には大きな川が流れている。


 橋の入り口の傍らには、『三途の川』と彫られた石板が打ち付けられてある。


 ゆっくりとした川の流れの上を、いくつもの小舟が対岸とこちらとを行き来している。


「これが世にいう三途の川ね。

 あの小舟が死んだ魂をこっちのあの世に運んでいるのね」


「これを渡れば、元の世界に帰れるはずだよな。

 理都、疲れたろ? もう少しで帰れるぞ」


 靖司が理都に手を差し出す。


 理都がその手に自分の手を重ねると、靖司は離れてしまわないようにぎゅっと握った。


 最後の最後、何があるか分からない。


 2人は手を繋いで橋を渡っていく。


「お兄ちゃん、あれ、なにかな?」


「うん?」


 理都が橋の下の川を指差している。


 橋の上から見下ろすと、さっきは気付かなかったが、川を渡る小舟に淡い光が乗っているのがわかった。


 あちら側からこちら側へ来る小舟には光の粒が乗っていて、あちら側へ向かう舟にはそれがない。


「きっと、……あの光は死んだ人の魂だ」


「たましい……。なんだか、きれいなんだね」


「そうだな。俺も初めて見たけど、そう思う」


 シノは、ピョンと橋の欄干の上に飛び乗った。


 立ち止まっていた2人は、また歩き始める。


 

***


 橋の中央に長身の人影が見え、二人が立ち止まる。


 理都の緊張が手を伝って靖司に伝わる。


 その人影は、白い布で顔を隠している。


 頭の両側には角。


「死人を連れて彼岸より此岸へ渡ろうというのはお前であるか」


 右手に金色の棍棒が握られており、明らかな敵意が伝わって来る。


「橋の番人……」


「靖司、この鬼は倒しちゃ駄目。

 ーーこの鬼は、生と死を仕切る門番鬼よ。

 倒すこと自体、土台無理な話なのだけど、万が一、あれを倒しちゃったら、

 それはそれで、あの世とこの世がごっちゃになって大混乱になるわ」

 

 そして、小さく続ける。


「この子たちの親は、生だの死だのの決まりごとに従ってはこなかったけれど。

 この二人はどうするのかしらね」


 欄干の上のシノが、愉快そうに笑う。


「そうか……。けど、橋を塞がれている以上、退けてもらうくらいのことはしないといけない」


「まあ、靖司も死なないようにね。

 あなたもりっちゃんも居なくなったら、ご両親、発狂しちゃうわ」


 門番鬼が金色の棍棒を振り上げる。


 棍棒の先に取り付けられた金具が鈴のようにシャリンと鳴る。


「死者がこの橋を越えることは許されていない。

 それが神の決めたこの世の理である。

 ゆえに戻られよ」


 声がどっしりと響く。


「そういうわけにもいかないんだ」


 理都の手を離し、靖司が手首をひねる。


 ジャケットの袖に仕込んだナイフとカードが滑り落ち、手に収まる。


 右手にナイフ、左手にカード。


 鬼からは見えない。


「りっちゃん、周りには何もないわ。

 雷、狙い通りに落とせるんじゃない?」


「う、うん、やってみる」


 シノは、理都にはまだ狙い通りに雷を落とせないことが分かっている。

 

 でも、理都の刀は折れてしまっている。


 それに、靖司のカードがあれば落ちる場所を確定させられるかもしれない。


 ただし、靖司の未来の確定は発動から1秒以内だけ。


 その短い間に理都が雷を落とさなければいけない。


「敵意感知。――――モク


 棍棒を殴りつけるように前方に振り下ろす。


「木々よ、罪人を犯そうとするものに戒めを与えよ」


 足元の橋から木の枝が伸びる。


「わぁっ」


 それは生命のあるもののように動き回る。


 まるで触手。


 頭上で太い枝や細い枝が複雑に絡みあい、網を作り出す。


 二人と一匹がそれを見上げる。


「ち。理都、避けろ」


「う、うん」


 靖司と理都は後ろに跳んで避ける。


「妖術……。棍棒は攻撃の発動体か……」


 右手のスローイングナイフを鬼に投擲する。


 そのナイフは鬼に命中する直前に、金色の棍棒ではたき落とされる。


 再び、棍棒を振り下ろし、


。浄化の炎、彼らを戒めよ」


 網状に絡み合った木の枝に突然、火がつく。

 

 それはさながら炎の網。


 風を切って燃え上がる。


「とにかく避け続けて!」


 シノが叫ぶように言う。


 意思を持っているかのように追従し、襲い掛かる。


 頭上の炎が覆いかぶさってくる。


 二人を完全に覆っている。


 避けられない!!!


「そこまで得意じゃないんだが――!」


 ナイフで足元に氷結のルーンを刻む。


 何本もの氷柱が足元から現れ、炎の牢を支える。


 畳み掛けるように鬼が続ける。


。死者を在るべき地中へ返せ」


 途端に、炎の牢が土に変わった。


 その体積が凄まじい。


 重力に加速されて、土石流のように襲ってくる。


 氷柱を押しつぶす。


「いやあああ!」


「理都! 手を取れ!」


 靖司が伸ばした手を必死に掴む。


 2人は土石流に飲まれる。


 完全に飲み込まれる直前、靖司は空いた手でカードを鬼の足元に投げる。


 鬼は立て続けに、棍棒を振るい続ける。


キン。鋼鉄の鎖よ、死者を地に打ち付けよ」


 土石流に埋もれた2人の全身を囲う土が鎖に変わり、絡みつく。


スイ。生命は、彼奴らには不要なもの。抜き去れ」


 橋の下の川の水が渦巻き、ハリケーンのように回転しながら持ち上がり、水の回転刃が埋もれた2人に襲いかかる。


 靖司も理都も土と鎖に体の自由を奪われなす術もない。


 理都はかろうじて動く中指と人差し指で、雷のルーンの形を作った。


 もう片方の手で繋いだままの兄の手をぎゅっと握り、形成したルーンに魔力を通す。


 一か八かの賭け! お兄ちゃん、お願い!


 靖司は手を握られたのを合図に、鬼の足元に投げたタロットカード、


 剣のエースの逆位置――災難――に魔力を通す。

 

 水の刃が2人に到達する直前、雷が天空から落ちる。


 それは、鬼のもつ金色の棍棒に落雷する。


 棍棒が吹き飛び、橋に転がった。


 その途端、門番鬼の術が解け、土も鎖も水も霧散していった。


***


 靖司は立ち上がると、決して離さなかった理都の手を引き、体を起こしてやる。


 けれど、そのまま倒れ掛かってくる。


「理都、理都」


 呼びかけても答えがない。


「気絶しているのか」


「さあ、今のうちに」


 どこに隠れていたのか、現れたシノが促す。


 直撃ではないが、門番鬼にも電撃は伝わり、膝をついている。


「悪いな、通らせてもらう」


 理都を背負って、鬼の横を抜けると、河の対岸まで一気に駆け抜ける。


 二人が橋を渡り切る直前、その背後で門番鬼が金色の混紡を拾い上げるとそれを靖司に向けた。


「現世に存在の許されぬ者共よ。いづれ、またここに来るときは、地獄へ案内してやろう」


 橋を渡りきった途端、二人は目の回るような強い頭痛を感じた。


 辺りの景色が消えていく。


 なんとなく、これで元の世界に戻れると確信できた。


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