そして幕が上がる
「ーーーー!!ーーてーーさー!!ーきてーくーさい!!」
うっ…ぐ…っ…
誰かが…呼んでる…?
うっすらと目を開ける。するとそこには、必死になって肩を揺すって何か叫んでいる後輩がいた。
「ーー部長?起きました?起きたんですか?」
まだ半分意識が朦朧としているのであまり何を言ってるか理解できなかったが、とりあえず緩く首を縦に振った。
「~っ!!よかった…!!」
そういってキツく抱きしめられた。
…抱きしめられた。
ーーーー!?
ダキシメラレタ?
「何やっとんじゃこんにゃろ!!」
うちは鳩尾にめり込ませるように制裁を加えた。
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「あらあら。那月ちゃん起きたの?」
「会長!!」
「…おはよう…」
「蘭海ちゃん!!」
そういってうちは2人を抱きしめた。
後ろからなんか変な視線を頂いたが気にしない。
「で、今どういう状況?」
「ん~、それなんだけどね…」
と、不安げに会長が説明してくれた。
要約すると、意味不明なフード男に何処かに拉致られたということらしい。…いや、そんくらいは察せるよ…
「今はまだ、それ以上の情報はありません。ここがどこかも分かりませんし、俺達の容姿や持ち物も変わっています」
容姿…?
ハッ!?そういえばみんな髪の色や長さ、あと目の色が違う!?
「…気づかなかったの…?」
蘭海ちゃんの可哀想なものを見る目が心に鋭く突き刺さった。そしてトドメの一撃。
「マヌケな中身が変わってないようでよかったです」
「悪かったなマヌケで!!」
涙目で叫んだら救世主…いや、女神が現れた。
「まぁまぁ、相変わらず那月ちゃんは愛されてるのね」
そう言って慈愛に満ちた微笑みを零したのだった。
…いや、マヌケな部分は否定してくれないんですか?
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落ち着いた所で改めて3人の見た目を確認する。
まずは要。
髪型に変化は見られない。色は黒から綺麗な藍色。元のストレートで癖のない髪にマッチしていて実に要らしい。
そして目の色はなんと、狼を思わせる灰色に変わっていた。
相変わらずのクール属性系イケメンで纏まっていてよかったなほんと。これが髪とかピンクだったらと思うと笑いが……おっと、別に何も想像してませんよ?
危うく顔に出そうだったのでさっさと会長に視線を向ける。
…うっそぉ。これはずるいっすよ会長。何がって?だって髪の色はミルクティーのようなロイヤルブロンド。しかも胸までしかなかったはずなのに、今では腰あたりまである。しかもしかも、目は淡いピンク色。これはずるい。さっきうちが言った女神は例えじゃなかった。そう女神だ。これであらあらまぁまぁとか威力3倍よ?むしろただ微笑むだけでHPが回復しそうだ。
…次にいこうか。
最後に蘭海ちゃん。
oh......神はどれだけ試練を与えるのですか?可愛い過ぎて物凄く抱きしめたいんですが。今はみんな真剣な時間だから我慢。…真剣な時間だから!ちょっと鼻息荒くなってたり手がぷるぷると震えているかもしんないが堪えろうち!今は耐える時!!
…落ち着こうか。
冷静に観察する。髪の毛は薄い紫。サラサラのストレートで、これまた腰までだった髪が足元まで伸びている。地面にはギリギリついてないようだ。瞳は檸檬のような鋭い黄色。全体的に猫のようだ。
その可愛らしい猫が首をこてんとかしげてこちらを見ている。…反則だろ…
これ以上見たらヤバイと思い顔を下げる。するとふぁさっと耳元から髪が垂れてきた。…何だろうか、この違和感。
…!?
うちの髪ながっ!?てか白っ!!
「本当に今更ですね」
「うっせぇ!」
じゃあ、今度は自分自身の確認。
自分の髪を手に取る。綺麗な白い髪だ。銀とかそういう色が何もついてない。ただただ白い。しかも腰より長い。拉致される前ボブだった私には違和感しかないわ。あ、あと。
「なぁ、うちの目の色って何色?」
「赤です」
「赤!?」
へぇ、赤か。つまり白い髪に紅い瞳ね。…なんとなく嫌な予感がするのは何故だ…
あぁ、あと。服はみんな黒っぽいローブです。魔法使いが着るようなやつ。みんな同じサイズなのか、会長は胸の部分がキツそうだし、蘭海ちゃんは萌袖になってます。ご馳走様です。
とまぁ、外見の確認は大丈夫だな。てか…
「みんな物凄く違和感ないな!!」
これが1番の感想である。
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あと持ち物、か。確認しようと肩から下げられていた質素なバッグに手を伸ばす。しかし、中には何も入っていなかった。
「うちバッグの中何も入ってないわ」
「いや、恐らくですが、取り出すのにはコツがいるかと」
はい?取り出すのにコツがいる?
その言葉に込められた意味を考える。
取り出すこと前提ならば、何かしら物が入っているということ。しかし、最初にうちはそれを否定した。なのに、要は何かが入ってると確信している。しかもバッグなのに取り出すのに何らかの手順が必要らしい。それも、普通とは違う方法で。
…ここで、うちのオタク脳が仕事をする。
「つまり、''そういう''ことか」
そうしてうちは、元いた世界では存在するはずのない力を想像し、それを右手へ移動させるようにイメージさせた。そしてその手でバッグの中を探りながら、『入っている物を整理して教えてくれ』と念じた。すると、結構豊富なラインナップが頭の中に展開された。
「…どうやら、自力でできたようですね」
「まぁ、こういうのは定番だもんな」
「すごーい!那月ちゃん!私なんて全くもって意味不明だったのよ?」
「…那月、凄い…いい子、いい子…」
何故か蘭海ちゃんに頭を撫でられた。少し照れくさいが、嫌な気はしない。
「えーと、話を少しまとめると、この世界は『魔力の存在するファンタジーな世界』ということで間違いない?」
「えぇ、それは確実でしょう」
「じゃあそうすると、うちらが拉致られたのはやっぱり魔王討伐のためか?」
「確定はできませんが、可能性はあります。いわゆる勇者召喚ですよね」
「そうそう!お約束の!…ってことはチートの1つや2つくらいありそうなもんだけどな」
「ちょ、ちょっと待って?勇者召喚って、携帯小説でよくある類のものよね?確か」
「そう!1度は夢見るチートで異世界ライフ!!」
…そうだ。ここは私が知らない世界。つまり異世界。元の世界に帰る手段については、まだ全然分からない。
と、いうことは…
本当に来たのか異世界ライフ!!
初投稿です。誤字脱字等、指摘して頂けるとありがたいです。よろしくお願いします。