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第五話 えっ、もうラスボス撃破……!?

 王国南部に位置するマイレヤ遺跡。

 大陸南端に位置し、かつて女神ミトレーヤが邪悪なる存在を封じたとされるここは、遺跡の他に参拝場所としても有名であり、観光客の絶えない場所であった。

 だが今の王国民にとっては、忌むべき魔物が出現した場所として記憶されていた。

 魔物の跋扈する場所を好き好んで訪れる者はおらず、王国軍であっても容易には近づけない魔境と化していた。

 その遺跡の入り口に、一人佇む青年の姿があった。


                           ※


 砂ばかりの荒野を南に真っ直ぐ進み、四時間程掛けてマイレヤ遺跡へと辿り着いた。

 出た頃はまだ朝靄が掛かっていたけど、今は太陽が真上に昇っている。

 元々観光地だった場所らしく、遺跡の入口には立て看板や屋台の残骸が転がっている。

 神話によると、女神の加護があった時代は技術が今より遥かに進んでいたとか。

 魔物を封じる為にその身を捧げた女神は、魔物に支配されたこの場所を見てどう思うのだろう。


 遺跡に向かおうと決めたのは、役に立たないお告げを貰った数日後のこと。

 街の人に話を聞いたり、図書館で片っ端から文献を漁ったりして、世界を救う為の情報を探した。

 今更だが、この世界の文字は違和感なく読むことが出来た。

 一見全く見知らぬ文字なのだが、頭に自然と意味が流れ込んでくるのだ。

 

 読み込んだ本の中で、魔物が発生したとされる王国南部の遺跡を知った。

 魔物をどうにかすれば世界を救ったとみなされるかもしれないし、一気に発生源を叩けばこれ以上王都が襲われなくて済む。

 今のレベルでは手が付けられないような魔物が出てくるかもしれないが、行ってみないことには始まらない。

 そう決意し、一泊してから街を出ることにした。 


 出発の朝、まだ寝ているナルクを起こさないように部屋を出る。

 今日は五日に一度の朝市の日らしく、大通りは早朝だと言うのに騒がしかった。

 街を出てからは相変わらずの高エンカウントに加え、進む度に魔物の強さが二次関数的に上がっていった。

 『けいさん』を使えばどうにか撃退出来るが、一々体を休めなければいけないので時間が掛かる。

 敵の強さが途中からは幸いし、飛躍的にレベルは上がっていった。

 得られる資金は対して増えなかったが、流石に経験値は敵の強さと比例しているようだ。

 遺跡に着く頃には、レベルは30まで上がっていた。

 ……レベルが上がっても、覚えた特技は『けいさん』のみだったが。


 遺跡の中に入ってからも、魔物の登場頻度は全く下がらない。

 それどころか、一回の遭遇で三、四体の魔物が出るのが普通になっている。

 怪我の功名か、戦闘を繰り返す度にレベルがもりもり上がっていく。

 レベルが40になる頃には、『けいさん』を使わずとも魔物と渡り合えるようになっていた。

  

 石造りの道を歩いていけば、地下へと続く階段がぽっかりと口を開けていた。

 両手を広げられないくらいの狭い感覚の通路は、明かりの差さない先まで伸びているようだった。

 照明も地図もない中、自分の感覚だけを頼りに足を進める。

 狭苦しい通路の中でも、容赦なく魔物は現れる。

 何処にこんなに潜んでいるのかと疑問に思う数が次々と現れ、多少うんざりしながらも先へ進んでいく。


 通路の突き当りにあったのは、石で作られた重厚な扉。


 「まぶしっ……!?」 


 扉を開いたとき、目の前の視界が一気に開け、網膜に光が差し込んだ。

 目が光に慣れたそこには、今までの閉塞感から一転、横幅数十mはある広い部屋が広がっていた。

 壁面が見えない程高い天井には等間隔にシャンデリアのような照明が吊るされていて、赤黒い不気味な光を放っている。


 部屋の中央には赤い絨毯が引かれ、中央の階段へと続いている。

 階段を目で辿っていくと、最上部に設けられた四角い足場に、何かの大きな影が見えた。 

 全長14、5m程、上部に出っ張った蛙のような二つの目と、上下に積み重なった二つの口、鋭い爪の生えた四本の腕がまず目に付く。

 体色は淀んだ緑一色で、胴体中央には三番目の目が不気味に紅い瞳を開いている。更に背中からは、何本もの触手が不気味にうねっていた。

 遠目から見ても明らかに分かる異形の姿を見て、緊張が瞬時に高まる 


 こいつが親玉なのか?

 困惑する俺の姿を、魔物がぎょろりと三つの目で捉えた。

 異形の怪物は、こちらの考えなどお構いなしに火炎を吐き出す。

 青い炎が蛇のようにうねり、顔から数センチ上を通り抜けていった。

 『けいさん』を使っていなければ、今ので一回死んでいただろう。


 「問答無用、かよっ!」


 二つの口は忙しく動き、常に火炎と電撃を途切れなく吐き出す。

 その波状攻撃を避けつつ、中央の階段を一気に駆け上がった。

 体に絡みつこうと伸ばされた触手を叩き斬り、四本の腕から繰り出される斬撃を回避して相手の懐に飛び込む。

 木刀を腰で一直線に構え、体重を乗せて胴体の目に突き刺した。 

 緑色の体液が噴水のように吹き出し、魔物は苦悶の声を挙げてもがく。

 生々しい感触に構わず、その状態から一気に木刀を振り上げた。

 胴体から頭部まで、上半身を縦一文字に切り開かれた魔物は、もがくのを止め、後方にゆっくりと倒れた。


 動きが止まった魔物を見て、緊張が一気に解ける。

 大きく息を吐き、木刀を腰に納めた、そのとき。

 動きを止めた筈の魔物の体が、成長する植物のように蠢き始めた。

 咄嗟に後方に飛び退かなければ、伸び盛る体の中に巻き込まれていただろう。 

 呆然とするこちらの目の前で、魔物の体は次第に変化し、一つの形を取った。


 「……第二形態って訳か」


 獅子と竜が混ざったような頭部に、漆黒の鎧を纏った人間のような体。

 背中には四対の羽を持ち、体長より長いそれぞれの羽は大きな弧を描いている。

 身長は3m程、先程の姿からは随分と小ぶりな、一見すれば大きめの人間にも見える姿。

 だがその体から発せられる威圧感は、先程のものと比べ物にならない程強大であった。


 『けいさん』を使っていても、これは予想できなかった。 

 が、目の前に出てきたのならやるしかない。

 勝てなければ、死ぬだけだ。


 一度大きく咆哮した魔物は、四対の翼を大きくはためかせて飛び立つと、色鮮やかな光弾を連続で掃射した。

 その全てを避けつつ、祭壇の四隅に建っていた長い柱の影まで移動した。

 盾代わりにした柱が、光弾の直撃を受け根元から崩れていく。

 完全に平衡を失って横倒しに倒れた柱を、避けずに両手で受け止める。

 

 「これで!」


 折れた柱を両手で肩に担ぎ、回転させて思いっ切り放り投げた。

 レベルが上がって強化された身体能力が、常人では不可能な技を可能としていた。

 遠心力を加えられて放り投げられた柱が、狙い澄ましたように魔物の体へ向かう。

 魔物は咄嗟に翼の一つで柱を防いだが、勢いを殺しきれずに空中でよろめく。

 その隙に、残っていた柱の一つを三角に蹴って空中へ飛び上がった。 

 

 「終わりだっ!」


 跳躍の勢いのまま空中で木刀を一閃し、魔物の胴体を切り裂く。

 真っ二つになった魔物の体は、空中でそのまま消滅していった。


 木刀を支えにして着地し、更なる進化を警戒しつつ態勢を立て直す。

 静寂が戻った室内に聞こえるのは自分の呼吸音だけで、先程までの戦闘が嘘のように静かだった。

 

 「勝った、のか?」


 放心状態になりつつ木刀を納めようとした、次の瞬間。

 

 突然目の前が暗くなり、それまでの遺跡の光景が消えた。

 状況を理解するより先に、映像が頭に流れ込んでくる。

 平和の戻った王国と、喜びを露わにする民衆の姿。 


 「魔物の姿は消え、世界に平和が戻りました」


 と、教会で聞いた女性の声が脳裏に直接流れ始める。

 まさかこれは、ゲームのエンディングなのか?

 女性の声に乗せて、繁栄してく王国の風景が描写されていく。

 どうやら今の魔物がラスボスで、倒したことでゲームクリアとみなされたようだ。

 ナルクと会えなくなるのは残念だが、これでようやく普通の暮らしに戻れる。


 「が」


 えっ? 

 映し出されていた景色が一瞬で変化し、平和そのものだった王国は炎に包まれていく。

 

 「再び復活した邪悪な存在によって、世界は再び危機に陥りました」


 溢れ出した魔物によって、世界中様々な都市が廃墟へと変わっていく。


 「彼奴らの勢いは凄まじく、人間達は対抗することも出来ずに滅びてしまいました」


 集まった兵士達の抵抗も、屍が積み上がる速度を緩めるだけで。


 「結局、世界は邪悪な存在によって支配されてしまったのです」


 見渡す限り延々と続く廃墟の中で、雲霞の如く溢れる魔物達。

 山や丘、海や川等、世界の全てが魔物に満ちている。

 先程倒したはずの異形の怪物が、魔物達の中心で大きな咆哮を挙げた。

 絶望的な光景の中、視界が闇に染まっていく。

  

 「っ!?」


 目が開いたそこは、見慣れた宿屋のベッドで。


 「今のは……?」


 窓の外に見える光景は、遺跡に出掛ける前と変化が無い。

 瓦礫の目立つ復興途中の街並みと、朝市の準備で賑わう大通り。

 隣を見れば、ナルクが自分のベッドで寝息を立てていた。


 ベッドに腰を降ろし、状況を整理してみる。

 今までのことが夢だったとは思えない。

 ステータスを見ればレベルは50まで上がっているし、半分になってしまったが稼いだお金もある。 

 この状況は、一度死亡したときに似ている。

 違うのは、時間が今朝まで巻き戻っている事だろうか。


 ――まさか、バッドエンドで一回やり直しってことなのか?


 ただラスボスを倒すだけでなく、何らかの条件を満たさなければ、ゲームクリアとみなされない。

 バッドエンドもエンディングの一つとしてみなされるが、それはクリアした内には入らず、クリア特典なども無い。

 ルート分岐の多いゲームや、ノベルゲームではよくある仕様だ。 


 「……って、どんな条件なんだよ」


 ベッドに倒れ込み、思わず不満を呟く。

 普通にクリアしてバッドエンドになるのなら、せめて何らかのヒントが欲しい。

 自棄になりそうな気持ちで、ベッドへぐいっと顔を埋める。

 ふっくらとした柔らかさが、ささくれた気持ちを少しだけ和らげてくれた。

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