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放送室へ(後編)

「ちょっと待って。あなた一人で行かせるのも危険よ。何があるのかわからないんだから、私も行くわ。あともう一人くらい… 宗田君! 君もちょっとついてきて!」


 島田に呼ばれた宗田という男子はクラスでも羽田と同じか、それ以上に成績優秀の者である。だが、運動が得意ではない。体格も見るからに貧弱で、物静かな性格で自己主張もほとんどなければ目立つこともしない。顔は色白で、目鼻口がどれも細い。顎先は尖って三日月の容をしている。常時、メガネをかけて、部活も科学研究部であるから羽田たちには「学者」もしくは「研究員」というあだ名をつけられている。深沢という男は、特に自己顕示欲もなく、若い男子には珍しく名声よりも実を優先する性分で、この宗田に対しても所謂、対抗意識を抱かない。体力で頼りがなくとも、その知力を頼りにする。仮に自分が二人のボディガード役とされても屈辱とも思わない。


 別のクラスの女の担任教師に一言告げて、島田は深沢と宗田を引き連れ放送室へと向う。一年生のクラスがあるのは一階。いったん玄関の方へと進んで、その側の階段から二階に上がると、すぐ放送室がある。その廊下左手の端の角には職員室があるが、廊下からして静まり返って誰かいる気配がない。島田が言うに、三年生の修学旅行や二年生の職場体験の関係で、教職員は一年生の担任以外はほとんどいないそうである。


「校長先生や教頭先生はいないんですか?」


「校長先生は、今日は外に用事があっていないわ。教頭先生は… そういえば休み時間には見かけなかったわね」


「まさか教頭先生がさっきのアナウンスの人じゃないですよね?」


「ちょっと、恐ろしいこと言わないでよ。さすがにそんなはずはないでしょう… それより入るわよ」


 放送室の重たい防音扉のノブを島田自ら回し、ゆっくりと慎重に開ける。開いたわずかな隙間から中を覗きこんで、そこから見える限りでは誰もいないと判断する。次には大きく開けて、そうして深沢に先に入るように促す。


「俺からですか?」


「さすがの私もドキドキしてきたのよ。こういうことは男の仕事でしょう」


「教師の仕事のような気がしますが…」


 そう言いつつ、深沢は渋ることなく、且つ慎重に忍び足をして足音を立てずに入っていく。彼の心中も決して穏やかではない。緊張に胸が押し潰されそうである。ただ、それが顔に出ない。深沢に続いて宗田が入り、最後に島田が入ってくる。部屋そのものは六畳ほどの広さだが、ミキサーやアンプ、オーディオ、ビデオ編集機材、パソコンなどが置かれて、人二人がすれ違うのもやっとの広さである。レコーディングルームなる二畳ほどの小部屋も内設され、中には二本のマイクが設置されている。入学当初のオリエンテーションで学校内を案内された時に、深沢は入り口付近で中を覗いたことはあったが、入室するのはこれが初めてであった。


「誰もいないですね」


 こう狭いと人が隠れる場所もない。島田は機材をいじり始め、


「深沢君、中のマイクでちょっと喋ってみて」


「こう、ですか?」


 その返事が妙に甲高く室内に響く。



続きます

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