ヴァイス、宗田を追う(前編)
ヴァイスが「穴」を抜けて桐生たちが住む世界へと戻ってみると、先にコクピットから戻った三百数十人の生徒たちは無事、警察に保護されていた。数が数だけに対応も一苦労だが、怪我人も教頭先生以外におらず、皆、従順に警官の指示を受けている。派手に取り乱す者もいない。どうやらこちらは問題ない。
ヴァイスはグラウンドの周りに張られたネットの鉄柱の天辺に登り、ロボットを動かして攻撃してきた宗田の姿を探す。すでに逃げたか、付近にはその顔は見当たらない。代わりにUWの一般隊員、田中と鈴木の姿を見つける。地方基地の穂高や村田も合流している。彼らは彼らで消えた校舎の近辺を調査している。その背後で研究所の宮下たちが穂高に叫んでいる。先に逃げた宗田の姿を目にしなかったのかと聞いて、見ていない、いやそんなはずはない、との問答を繰り返している。果てに、役立たずだとか、貴様のほうこそなんとやらと、醜い罵り合いを始めている。普段より仲が悪いのはわかるにしても互いに年甲斐もない。村田や一般隊員の二人は相手にもせず、止めるともせず、二人の勝手に任せて「穴」のあった空間を調べている。その光景をヴァイスは鼻で笑って、鉄柱より飛び降りた。
「ご苦労様です」
「うおっ! なんじゃ、ヴァイス・サイファーやないか」と穂高が大袈裟に驚いた。
「こんにちは。こっちの世界はまだ昼なんですね。ちょっと暑い」
本題から逸れて挨拶から入るが、
「ヴァイス・サイファー、お前、どうやって出てこれた? 『穴』は塞がったはずじゃないか」
穂高との言い合いの勢いそのままに目くじら立てて宮下が食ってかかるが、
「まあ、俺ですから」
そこに村田が立ち入って、
「君もどうしてここにいる? この件と何か関わりがあるのかい?」と聞く。
「ええ、まあ。桐生誠司たちと先ほどまで一緒に行動していましたからね。そこの宮下さんたちとも一緒でしたけど」
「本当にいったい何があったって言うんだ? 宮下さんは人を探しているとかで怒鳴ってばかりで詳しく話してくれない。生徒は一度に何人も戻ってくる。まったく事態を飲み込めないよ。『あちら側』でいったい何が起きているというんだ?」
ヴァイスはチラリと宮下を見る。
「はっきりといえば、今回の『穴』の先は『あちら側』じゃないんですよ。誰がどう作ったのかまだわからないけれど、この世界とも『あちら側』とも違う、また別の世界のようなんです。そして、それを自分で作ったという自称首謀者もいて…」
「その首謀者を追跡中、ということかい?」
「ええ。正確にはその首謀者と関わる人物の追跡ですけどね、俺は」
村田たちも一斉に目を細めて宮下を見つめた。
「宮下さん、また自分たちだけで処理しようとしましたね?」
「何を言う。我々も閉じ込められた一人だ。それもこの学校よりも先にだ! 我々とて被害者なんだよ。我々は我々で調べることがある。いまはその途中に過ぎないだけだ」
と、言い終えた拍子に何事かを思い出し、怒った顔もスッと仮面を被ったように真顔に変える。
「忘れていた。学校だ。我々が最初に見つけたあの学校の、あのパソコンだ」
独り言を呟き出すと、いきなり踵を返して、助手に合図を送っている。
「ふん、君らは君らで調査するがいい。我々には我々の仕事がある」
と、憎たらしく言い捨てると、助手と共に正門の方へと向かって歩き出し、振り返りもしないで去っていった
続きます




