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校舎を呑み込んだ巨大な「穴」(後編)

 桐生たちが所属する基地のほかに全国にはいくつかUWの地方基地が存在する。それでもいわゆる能力者というものはどの基地も数が少なく、場所によってはゼロというところも少なくない。桐生のように運動能力に特化した能力者となると皆無に等しい。逆に彼が県外に飛んで「あちら側」に関わる問題解決に手を貸すことが多い。そう経験豊富な彼でも、今回のようなスケールの「穴」は初めてだと言うのだから、相当異常な事態である。


「ほかの地方基地に頼むか、UW日本の本店のほうに要請するか、ってことよね? どちらにしても、あんた以上に働ける能力者はいないと思うけど?」と弥生は運転手の横顔を見ながら聞く。


「へえ、そうなんだ」と滋も後部座席より桐生の顔を斜めに覗き込む。


「でも、できるなら私たちだけで何とかするようにしないと、何だかんだと口やかましく言われて、権力争いみたいなことになりかねないわよ?」


「それを言われると面倒くさくなるけど、それでも解決優先だな。もうじき着くぞ」


 住宅地の脇道を入って少し坂を登ったところに、地図上その高校はある。公立で全校生徒の数は約千人。坂の途中にはりんご園が見える。中心街から随分と離れて丘の上にあるせいか近辺はどちらかといえばまだ田舎の風景を残している。そういった立地のせいか毎年入試の倍率が丁度一倍くらいとあまり人気がない。滋はこの高校を実際に目にするのは初めだという。坂を上り切ると、本来そこにあるべきはずの校舎がない。代わりに、次元が歪んでできた、巨大な「穴」が大地に居座っている。坂道からそこまで二十段ほど石の階段がある。その階段を下った先に校門があり、その前ではすでに一般隊員の鈴木と田中がバリケードを設けて一般人の立ち入りを禁止している。深緑色の迷彩ツナギにヘルメットといった彼らの格好は森の中では紛れても、町の中では返って目立つ。付近にはほかに何台かパトカーも止まっている。警官も何人かいる。近所の住人の姿も見えるが、ここが田舎で山の上の方にあるせいか、または「穴」が発見されてまだそれほど時間が経っていないためか、現状、数は多くない。マスコミ関係者らしき者も数人いる。もちろん門の中には入れない。入れないが、門の外からでもその「穴」ははっきりと見えて、写真に撮られている。桐生は車を門の前までつけた。窓を開けて、


「二人とも御疲れ様です」


「隊長、待ってましたよ。すぐに上がりましょう」


 門の番を警官に任せて、桐生の車は鈴木たちの案内で柵を避けて門を抜け、階段を迂回して運動場に隣接する職員専用の駐車場へと向う。下車して改めて巨大な「穴」を目の前にすると、三人は揃って唖然とする。


「はっきりいって、尋常ではありません」


 田中の一言で桐生も頭の中を整えて、


「そう、だね。それで、中には入ってみました?」と聞く。


「いえ、さすがにまだです。命令もなしに勝手なことはできませんよ」


「大きさの変動はどうですか?」


「先ほど三十分前から比べると、数センチですが小さくなっているみたいですね」


「いくら大きくても、もたもたしている訳にもいかないってことか。それじゃ早速、ちょっと覗いてみるよ」


 そう言って桐生は「穴」へと上半身を差し入れる。


「どう?」


 弥生が聞くと、桐生はいったん体を引き戻す。


「上空だった。下のほうに校舎が見えたよ。ただ、何か変だ。『あちら側』は夜なんだけど、何か明るいんだよ。世界そのものが何か不思議な感じだった。場所もどこなのか、危険な生物がいるのかいないのか… ヴァイスに助言をもらいたいところだが…」


「あの人に連絡してあるの?」


「一応、お前らと合流する前に電話を掛けてみたんだけど、こういうときに限って繋がらないんだよ。まあ、どちらにしても待っていられないし、とりあえず俺が先行して校舎のほうへと調べに行くよ。学校の生徒の救出が第一だからな。お前たちはここにいてロープをたらして待機してろ」


 桐生はそう指示すると、すぐに刀一本携えて「穴」へと飛び込んだ。するとどういうことか、それ以上の進入を防ぐかのように、急に巨大な「穴」が萎み始める。


「弥生さん!」


「ちょっと、何よこれ! どうして?」


 「穴」はみるみる小さく萎む。直径十メートル程になったところで、


「どうします?!」


 鈴木に指示を仰がれた弥生は、焦りからか、


「滋君、私たちも入るわよ!」と言う。


「え? 本当ですか!」


 驚く滋を、しかし彼女は「穴」の中へと突き飛ばして自分も続いて飛び込むのであった。



続きます

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