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校舎を呑み込んだ巨大な「穴」(前編)

 UWに入隊して数か月も経てば業界にも慣れて会話の節々にもその道の人間の香りがするもので、大学キャンパス内、佐久間滋の携帯のバイブレーションが彼を呼び出し、その相手が桐生隊長からであれば、以前までは「どうしたの?」などと呑気な聞き方をしたものが、今では、


「何かあったの?」


 と仕事前提の応答をして、急務も覚悟ができている。


「おう、仕事だ。それも緊急のな。弥生も呼んですぐに合流する。お前、学校か?」


「うん、前のように文系の方の図書館にいるけど」


「俺もすぐ近くだからそこへ向うよ。弥生にもそこへ来させる」


「それで、具体的には何があったの?」


「合流してから話すよ」


 ひとまず電話を切って三分もしないうちに滋のもとへ桐生が現れる。本日も穴の開いたジーンズにカットソーとラフな格好をしている。比べて滋は黒のパンツに白のシャツ、黒いベストを着て、こちらはまるでフォーマルといった形。普段の桐生なら、レポートばかりの勤勉さと併せてからかってきようものも、今日に限ってそれはない。緊急なのだとよくわかる。


「弥生さんは?」


「なかなか繋がらない。もう一回掛けてみる」


 弥生はやはり出ない。しばらくしつこいくらいに呼び出していると、彼らの背後から、


「何よ?」


 弥生がいる。黒のジーンズに白のブラウスと、格好が大人びた風味。その茶髪も真っ直ぐ下しているので垢が抜けて見える。


「電話に出ろよ。いきなり背後から現れると驚くだろ」


「ここ、図書館よ。ほいほいと電話に出るわけにもいかないでしょ」


「弥生さんもここにいたんだ。まったく気づかなかった」


「まあね。それより何よ。いつになく真面目な顔をしているじゃない。大きな仕事?」


 弥生は急に呼び出されてあまり機嫌が良さそうにない。それでも仕事となれば怠ける彼女でもない。不機嫌さと真剣さが調味されて桐生を見る目つきは鋭い。


「とりあえず出るぞ。車に乗って現地に向いながら話す」


 三人は図書館を後にする。桐生がすぐにキャンパスの門の前に車を着ける。二人も乗り込んで本題に入ると、どうやら「穴」のことだと知らされる。


「俺もまだ電話で連絡を受けただけなんで、実際に目にしていないからどれほどのものなのか、本当なのかどうなのかまだわからないけど、話によればとにかく大きな『穴』らしい。学校の校舎が丸々すっぽり隠れてしまうくらいの」


「え? 何よそれ。そんな大きなものがどこにできたって言うのよ?」


「だから、学校だ。E町の自由丘高校。あそこの校舎が消えてしまって、代わりに大きな『穴』がそこにドンッと構えているらしい」


「まったくわからないわ。何よそれ? そんな大きな『穴』が存在するものなの?」


「そんなの俺に聞くなよ。俺だってそんなの見たこともなければ聞いたこともねぇよ」


「あの、僕はまだまだ二人の話についていけないというか、そう熱くならず、できれば冷静に教えてもらいたいんだけど…」


「そうだな、お前はまだ『穴』を実際に見るのは初めてか。話はしたことあると思うけど、要するに『あちら側』への入り口なわけだ。直径五メートルくらいの規模でも相当なものだっていうのに、今度のはスケールが違う。それが学校を丸々呑み込んでしまったなんて話だから、場所が場所だけに目立って仕方ない。とにかく処理が大変なんだよ」


「なるほど。周りの住人とか、マスコミが騒ぎ出すと面倒だね」


「今回はそれだけじゃないわね。学校が呑み込まれたってことは、校舎にいた生徒たちが百人単位で『あちら側』に行ってしまった可能性が大きいってことよね。それ、もの凄く大問題よ」と弥生は補足する。


「集団迷子… それを救出するのが僕らの仕事って、こと?」


 ご名答である。


「でも、それだけの人数だ、俺たちだけじゃどうにもならないかもな。応援の必要が出てくるかもね」


「応援?」



続きます

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