まるで武器庫で食料庫のような体育館(後編)
羽田が味方に取り入れようとする二組の担任というのは、苗字を池田といって、数学を教える男性の教諭で、身体全体、中肉よりやや肉がついて、色白で頬が膨れ口の尖ったひょっとこみたいな顔をして、いつも縁のないメガネをかけている。歳も三十の辺り。中腰でロープやシャベルを選別していたが、二人の問答に気が付くと、振り返って近寄ってきた。
「島田先生、どうしました? そんな邪険な顔をして」
島田は唖然としてしまう。池田という教師は島田とも歳が近ければ、その気性も大差がない。怒るときは一切の言い訳も許さず怒って、生徒にもほとんど媚びずに、それでいて気の弱い生徒には一応の気配りも見せる。深沢は特に話したこともなく、別に好きでも嫌いでもなく、詳しくその性格を知らない。普段のやり取りを見る限り、島田と仲が悪そうにも見えない。だが、今の島田は明らかに池田の一言に腹を立てている。
「池田先生、先生がこの子たちに武器を持たせることを許したんですか?」
低い声で言い放つと、池田もたじろいでしまう。
「いや、許したというか、まあ、いいものを選ぶようには勧めましたけど」
これを聞いて島田の口から深い溜息が漏れた。
「それじゃ、この子たちが外に出て、武器を振り回すことを許可したのと同じじゃないですか。いや、勧めているならもっと性質が悪いですよ。子供たちが危険にさらされるんですよ? 教師なら止める立場でしょうが」
同じ年代の女教師に、しかも生徒の前で説教されては池田も癇癪を起す。白い顔をみるみる紅潮させ、薄い唇の端をフルフルと震わせ、首を横に傾けながら、
「先生、そんな言い方はないだろう。こんなわけのわからない状況にあって、自ら立ち向かおうとする若者を止めることができますか? それに何も彼らだけに任せようとしているわけでもない。私たち教師も武器を持って、先頭に立って彼らを導こうとしているだけだ。誤解しないでもらいたい」
「それはいったい誰が決めたんです?」
「誰って、我々の判断だけど、何か? ここに来ているほかの男の先生たちも考えは同じだ。まあ、確かに、島田先生たちにはまだ相談はしていなかったですけど、これからしようと思っていたところです。何にせよ、常識を超えた事態だ。食料も確かめてみたけど、あのアナウンスの言っていた通りだった。ここにいたって、そのうち飢え死にしてしまうだけだろう。結局、動かないといけないなら、戦力になる者はたとえ生徒でも使う。我々はもう、そういう状況に置かれているってことなんだよ」
「それが先生の理屈ですか?」
「ああ、そうだ。間違っていないと思うがね」
島田は、納得できるようで、納得できない。これを一蹴できる反論も浮かばない。
そのとき、体育館の外から無数の悲鳴が耳に届く。体育館にいた者は一様に戸惑い、次には窓や、外へと通じる鉄扉へと駆け寄っていく。
「おい、教室にいた奴らが外に出てるぞ!」
「それより、何だあれ? モンスターじゃないのか?」
「何?! よし、行くぞ!」
羽田の号令で彼の仲間たちは扉を開けて駆け出していく。島田や深沢は、彼らが出て行って、ようやくその開いた出口から外を眺めた。
続きます




