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まるで武器庫で食料庫のような体育館(前編)

 第一体育館に置かれた武器の数は相当で、総数で四百人分はまかなえる。種類も豊富。剣、槍、ナイフ、斧、ハンマー、杖、弓、ボーガン、ブーメラン、等々。剣なら剣で長いものから短いもの、細いものから太いものまでと、バリエーションもある。色も黒、白、赤、青、緑に黄色、ピンクなど。選ぶ者を悩ますが、作りそのものはこだわりがあるとは御世辞にも言い難く、どれも玩具のごとき造りである。斬れはするだろうが、すぐに刃毀れ、罅割れが懸念される。いわゆる冒険初めの武器レベルである。深沢は武器に目を配りつつ、回復アイテムも置かれていないか探すが、降りかけるのみで傷が治るような道具は見当たらない。消毒液、包帯、絆創膏などは豊富に見つけても、これらは保健室でも手に入る。


「ここにはないですね。隣の第二体育館はどうですかね?」


 島田と共に隣へ足を運ぶと、その第二体育館にはいつ運んだのか業務用の大きな冷蔵庫が何台も置かれ、中はすべて食料が詰め込まれていた。フロアの隅には乾物や乾パンの類も目にでき、ロープやシャベルといった武器にも併用できる道具もある。残念だが、ここにも薬らしきものはない。教頭先生が死なないことだけを、もう祈るしかない。


「羽田君たちの姿があるわね」


 冷蔵庫の周りにいる十数人の男子生徒の中にその姿を見つける。腰に朱色の鞘に入った剣を携え、緑色のボーガンも手にしながら、食料をいくつも自分の懐、ポケットに押し込んでは満足気な顔を仲間に見せている。その仲間も、彼と似たような装備をして、同じく食料を準備している。彼らは本気でこの世界からの脱出ゲームに参加するつもりであろう。彼らに限らず体育館に足を運んでいる生徒たちは、どれもそのつもりである。一緒になってここまで足を運んだ男性教師たちにも、羽田たち生徒を止める気配がない。非日常の緊急事態との判断で、我が身を守るものは我が身と、自分たちも武器や食料を整えている。島田は同僚の男の先生には目もくれず、真っ直ぐ羽田たち自分のクラスの生徒の方へと歩み寄る。それに気づいた羽田たちはそれまで出発に胸を昂ぶらせ満面笑みであった顔を、途端に険しくさせた。


「何ですか? 先生」


 見れば島田も眉と目尻のつり上がった難しい顔をしている。この状況にあっても生徒の勝手は許さないとの強い信念は捨てていない。


「君たち、本気でこのゲームとやらをクリアしようと、そう考えているのね? いったい何が起きているともまだはっきりとわかっていないというのに、危険も考えず、そんな武器まで持って、もし本当に命が掛かるゲームだとしたら死ぬことだってありうるのよ」


「そんなのはわかっていますよ。だけど、この状況からして命がけのゲームに俺たち全員、放り込まれていることは確かだ。先生こそ、そういった認識がなさ過ぎるんじゃない? 現実を受け止めなよ。放り込まれているなら脱出するしかない。そのためには闘うしかない。行動を起こすしかない。何か間違ってます?」


 島田に睨まれても羽田も怯まない。その態度にして言動にして、彼らの覚悟も十分に据わっている。血気盛んな若さ故の気違いのみとも言い難い。強い正義感と、こんな世界を作って自分たちを閉じ込めた犯人に怒りを抱いて鉄槌をくれようとの気持ちの固さが窺える。確かに羽田の言っていることにも一理ある。学校という公の機関である以上、団体として皆でじっくり話しあって行動するのと、そんなことは言っていられないと自ら行動に移すのと、島田と羽田の差は、只そういった方法論でしかない。目的そのものは、詰まる所は一緒である。そして、その差異こそが面倒な話である。


「間違ってるかって? ああ、間違ってるわよ。誰の許可をもらって勝手な行動をしているのよ」


「そんなものはここにきて必要ないでしょう。先生もいい加減、状況を考えたらどうなんだ。それに、あそこの二組の担任からは、むしろいい武器を選べって、アドバイスを受けましたよ。もしかして、先生だけなんじゃないんですか? いまだに現実を受け入れていないのは」



続きます

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