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桐生たち校内へ(後編)

 女子の一人がそう教えてくれる。と、時を同じくして、隣の教室から誰かが出てきたようで、廊下で待機していた桐生たちに向って、


「あなたたちは誰ですか!」


 威圧的ながら、恐怖を押し隠した震えた声を発するのは二十代後半か三十代前半ほどの、黒い髪をポニーテールにした背の低い女の大人である。化粧で作っているが、素地はなかなか童顔である。


「弥生、先生らしき人が出てきた」


 窓から顔を出して桐生がそう伝えると、弥生たちも教室を出ようとするが、桐生は掌を翳していったんそれを制止する。出てきた女教師と向きあった彼は、


「怪しいものではないと言っても信じてもらえないかもしれませんが、単刀直入に言います。俺たちはあなた方を救出にきた者たちです」


 救出という言葉が聞こえたのか、教室の中はまたざわざわとする。


「救出? 救出ですか? あなたたちは一体何者なんですか? 証拠はありますか? そもそもここはどこなんですか? 一体何が起きているんですか?」


 積った不安も溜まった鬱憤も一度に吐き出さんと、女教師は質問を並べる。さて桐生も困る。何から答えればというより、目に見えて冷静ではないこの先生で大丈夫なのかと疑わしい。これなら、先ほど弥生に向って隣に先生がいると教えてくれた生徒のほうが話になる。年下の女子も得意ではないが、それ以上に急かす女は、彼はもっと得意ではない。


「何者、といわれて具体的なことは言えませんが、正確には違うけれど国から派遣されているようなものです。ちなみに証拠はないです。ここはどこで、何が起きたかって話ですけど、それは俺たちもまだ詳しくわかっていない状況です。先ほどのアナウンスを俺たちも聞いていたんですが、まあ、そういうことだろうと思います。確かなことは、この学校ごと、あなたたちは別次元の世界に呑み込まれた、ということです。それも意図的に」


「あなた方は、さっきのアナウンスの人の味方ではないと、そういうことですか? その証拠はありますか?」


 質問ばかりである。


「う~ん、それもないです」


「それじゃ、あなた方が私たちを助けてくれるという保証がないじゃないですか! 本当は私たちをどうしようって言うんですか!?」


 女教師は目を血走らせながら叫んだと思うと、途端に白目になり、糸が切れたようにその場で卒倒する。


「先生! 大丈夫ですか!」


 抱きかかえてみると口から泡を吹いている。桐生はヴァイスを見上げて、


「お前、何かした?」と聞く。


「いや、まったく」


「過度の恐怖と興奮で失神したな」


 宮下が女教師を覗き込む。その顔を二、三度平手でなぶってみるが目を覚まさない。


「まいったね」


 ふと振り返ると、教室内の生徒たちが自分たちと倒れた先生のことをジッと見つめている。


「人殺しだ」


 誰かが呟く。


「いやいや、違う、違う。ただの失神、失神」


 それでも、


「人殺しよぅ!」


 悲鳴に似た叫びがまた悲鳴を呼んで教室内は騒然を蒸し返す。もはや混乱となり、一人がこの場から逃げ出そうと窓へと駆け出せば、何人もそれに続いて窓際が混雑する。外にこそ敵がいるというのに、


「まずいね、こりゃ」


 桐生の顔は苦笑で歪んでしまう。



続きます

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