桐生たち校内へ(前編)
UWの面々とヴァイスは校舎の正面玄関から中に入るが、下駄箱の並んだその近辺に人の気配はない。ためしに桐生が、誰かいないかと空中に問うても、返事もない。
「みんな別の場所にいるんじゃないのか? 体育館に武気があるっていう話だ。勝手に上がってしまえばいい」と宮下はズケズケと入って行く。
「靴を脱がなくていいんですか?」
と、弥生が呼び止める。弥生や滋はもちろん、あの桐生やヴァイスも靴を持って、いつの間にか見つけた客用のスリッパを勝手に履いて廊下を汚さない。
「こんな状況で廊下の汚れを気にしている暇もないだろう…」
「校舎は一応、安全区域みたいですからね。こんな状況でもマナーくらいは守らないと、生徒たちを助けにいくと考えると、何の信頼も得られませんよ」
桐生たちは玄関の側で事務局室を見つけて、諸々の話を聞こうと立ち寄るが、そこにも誰もいない。
「なんだろう、全体的に静か、だよね。もっとこう、生徒たちがあたふたとしているものかと思っていたけど、どこにも…」
と、滋は四方を見回す。生徒だけでも千人近くいるこの高校でこの静けさは、放課後も数時間経った閉門時か、もしくは日曜のそれである。
「電気がついているんだから誰かいそうなものだけど、やっぱり体育館かな?」
「遠くから見た限り体育館らしき建物は方角的に向こうのほうだろうね」
ヴァイスが指さす先へ、桐生は歩き出す。現場慣れして、二人はその足に躊躇がない。弥生たちも後について行く。宮下たちも渋々ついて行く。廊下を真っ直ぐ歩いていくと左手に教室が並んで見える。どこも電気がついているが、生徒がいる様子もない。ためしに中を覗いてみると、机上に筆記具や教科書が置かれたままである。五つほど教室の前を通り過ぎるとLの字に曲がって、さらに廊下が二本に分かれる。方角的に体育館へと向う廊下を進むとまた教室が五つ並んでいる。その最初の教室(玄関から数えて六番目の教室)で半分ほど開かれた窓から中を窺うと、五十人以上の生徒が確認できる。それも大半は女子である。彼女たちも桐生たちに気が付くと、私服を着た、見るからに学校関係者とは異なる男たちの姿に室内はざわざわとする。何、誰、次はどうなる… そうして誰かが悲鳴を上げると、室内は騒然となる。隣の教室にも連鎖して、やはりざわめき始める。
「弥生、滋、出番」と桐生は命令する。
「私たちが? あんた、あんまり年下の女子って得意じゃないわよね」
「いいから説明して、話を聞いてこい」
皮肉は言っても文句は言わず、弥生は滋と共にその教室の戸を開け、弥生はズカズカと、滋は会釈して腰を低くしなら中へと入る。突然の入室に教室内の生徒たちはますます驚き、恐怖する。だが、それもすぐのこと。顔が小さく細身の弥生と、男の子か女の子かわからない滋を見ると、騒々しさも俄かに萎んでいく。弥生が教壇に立ち、
「先生か誰か、話ができる人はいませんか?」
そう言って室内を見渡すが、紺地スカートと白のセーラー、または紺地のカーディガンを羽織った女子生徒ばかりである。先生らしき人物が見当たらない。
「あの、隣に先生がいるはずです」
続きます




