回復アイテムみたいなものがあれば…
深沢と宗田の男二人で教頭先生を担いで保健室へと運ぶ間、島田は手を貸すべきか、貸さないで誘導役に徹するか、彼らの周りをうろうろと前を歩いたり後ろを歩いたり、横についたりと邪魔な動きをする。本人はいたって真面目に動揺しているので、深沢たちも咎めることができない。結局一度も手を貸すことなく保健室へと到着して、ベッドの上まで男の力のみで運んでしまう。それでも、島田も保健室に入ってしまえば機敏に動く。戸棚から消毒液や包帯を探し出し、深沢には氷の準備をするように指示を出し、宗田には綺麗なタオルがないか探させる。それらを用意して島田に手渡すと、タオルを濡らして患部をふき取る。消毒液をかける。その上からビニール袋に詰めた氷を別の新しいタオルで巻いたものを当て、固定する。応急処置の体験のない生徒二人は、処置の仕様に口を挟むこともせず、黙々と島田のやることを見守った。
「よしっ、これで一応は処置できたでしょう。でも…」
これで教頭先生が治るとも限らない。いまだ目を覚まそうともしない。呼吸はしていても依然危ういことに変わりはないのである。このまま処置も虚しく本当に死んでしまっては、この世界を、退屈した日々からの脱却や新しい刺激のゲームとして楽しむ余裕も一切消えてしまう。ただのサバイバルである。ふと深沢は先ほどのアナウンスを思い出す。
「先生、体育館に食料や武器や何かがあるっていうなら、もっといい医薬品とか、もしくはテレビゲームであるような回復アイテムみたいなものもないんですかね?」
「何よ? 回復アイテムって…」
「いや、ふりかけたら傷が治るみたいなものなんですけど、そんな都合のいいものはないのかなぁと思って。あったら、教頭先生の怪我も治して、意識も取り戻して、それで給湯室で何があったのか、誰にどのように襲われたのか、話してもらえると思ったんですけど。教頭先生を襲った犯人が、先ほどのアナウンスの人物その人だったら、それならその犯人を捕まえてしまえば、俺たちも簡単にこの世界から帰れるかと」
「そんなものが本当にあるなら君の言うとおりになるかもしれないけど… あ、そうだ、羽田君たち体育館に向ったんだった。本当に武器も置いてあったとしたら、彼ら、大丈夫かな? 他の先生も何人か向ったようだけど、暴走したりしないわよね?」
「さあ、それはあいつらのことだから、なんとも… でも、気になるなら先生も体育館に行きませんか? 俺も一度、何が置かれているのか確認したいんですよね」
「そうねぇ…」
返事を渋って横目でベッドの上を見る。いつ目が覚めるともわからない教頭を自分が看病し続けるよりも、クラスの生徒をまとめ、不安を少しでも消せるよう働くことが教師という立場としては良策であると彼女も考える。では誰が教頭先生を看ていればいいのか。今度はちらりと宗田のほうを見る。と、宗田も島田の期待を読み取って、
「僕が看ていていいですよ」と言う。
「そう? ありがたいわ。あとですぐにもう数人くらい誰かをここに来させるから、それまで我慢していて。何かあったらどこからでも逃げなさいよ」
そう言って島田は深沢を引きつれ、保健室を出、早足にいったん自分たちの教室へと向う。
「宗田君、一人にして大丈夫ですかね?」
「教頭先生を襲った犯人がまだ校舎の中にいるかもしれないってことでしょ? だから、早く教室に戻って、誰か男子を呼んでこないと」
「いや、俺としては、実は宗田君が犯人かもしれないとも考えているんですよね」
「ちょっと、そういう憶測はやめてよ。もっと同級生を信じてあげないと」
「いや、可能性の話です。それにこの学校を狙って学校だけをそのままこんな世界につれてきたってことを考えると、俺の勘だとあのアナウンスの奴はきっと学校関係者なんじゃないかと思うんですよね。そうなると、教頭先生を襲った人も多分、学校の人…」
島田の足が止まる。険しく深沢を睨む。
「君の言っていることが正しかったら、君も犯人の可能性があるってことよね?」
低い声で言い放たれると、普段、島田に怒られたことがないだけに胸に刺さる。
「そうか… 確かにそうなってしまいますね」
「そう、そうよ。そんな考え方だと、君、私のことも疑うことになるわよ。私たちは警察じゃないんだから、第三者じゃないんだから、自分一人だけが犯人じゃないなんて思っていたら駄目よ。証拠がない限り、みんな犯人じゃないの」
「う~ん。先生の言うとおりか… スイマセン。そういう考え方はもうやめます。正直、先生が犯人じゃないかって疑ったこともあるので、そうだったらいまの俺が大ピンチですからね。いや、確かに」
教室に着くと、先ほどと変わった様子もない。集まっている生徒も大半は女子である。中には相変わらず泣いているものもいる。隣の教室、またその隣の教室でも同じように分散しないで集まって、この不可思議な現象の恐怖と不安から身を寄せ合うことで耐えている。島田は、その中でもここに残っている男子を三人ほど適当に選び、彼らに保健室に向うよう頼む。その際に教頭先生が怪我をしているという事情を説明するが、彼女の声が大きいのと、その男子たちが聞き返す声とで、他の女子たちにも伝わってしまう。迂闊にも不安を煽ってしまうが、それでも将来、看護学校を志望している生徒などが自ら看病を買って出てくれる。結局、男子二人、女子四人で保健室へと向わせることとなる。
「じゃあ、私たちは体育館に」
体育館は校舎の中でも端にある。体育館と呼ばれるものは二階にあり、その下、一階には柔道場と剣道場がある。深沢たちは二階の「体育館」へと階段を駆け上がる。その二階の「体育館」も、第一体育館と第二体育館と二つに分かれている。第一体育はバスケットコート三面くらいの広さ、第二体育館はバスケットコート二面くらいの広さがある。先に第一体育館へと行く。すでに五十人くらいの生徒が中にいる。教師の姿も何人か見え、女子の姿もチラホラ見える。館内の端にはズラリと木箱が並べられ、中には剣や弓、盾などが入っている。
「武器があるって話は、本当だったんだ…」
続きます




