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何故か宮下たちもいる

 二体を両断すれば、他の石像たちの目標がヴァイスへと移る。結界を叩いていた槍も仇討とばかりに彼単体へと一斉に振り回す。だが、どれも紙一重で躱してしまう。躱しながら、また一体、もう一体と両断、破壊してしまうのであった。


「滋、いまのうちに結界を解け!」


 指示通り滋が結界を解除すると、攻められ嫌いの桐生は溜まった鬱憤を晴らしに敵に飛び掛かって得物で一体を両断する。残りの敵は二人が競うように破壊した。ヴァイスが登場して数十秒の間に九体の石像が砂になってしまった。


「いつになく防戦一方だったね」とヴァイスは刀を鞘に納めながら言う。


「お前、何でここにいるんだよ? もの凄く助かったけど」と桐生も得物をしまいながら訊ねた。


「うん? まあ、君らUWと関わっていた結果、こうなったってとこかな」


「俺たちと? 今回の件に関してお前に何かを頼んだ覚えはないけどね。心の中では物凄く助けに来てもらいたかったけど」


「タイミングからして念でも通じたってこと? 男同士でそれはちょっと気色悪いけど、まあ、ただの偶然だよ。それと、UWっていっても別に君らじゃないからね。ほら、あそこ」


 ヴァイスが指さす先に白衣を着た二人の男が見える。戦闘も終わって危険もなくなったと判断してか、歩いて近づいてくる。


「あれって研究所の宮下さん? と、助手の人。なんでこんなところに…」


「いろいろとあってね。前回、君らが仲間の保護のために俺を差し出してくれた結果がここだよ」


「日野原さんのときのことか? 研究所の人たち、『穴』に関してお前に手助けしてもらいたいって話だったよな?」


「その『穴』を潜ったらこの世界だったんだよ。それで見事に閉じ込められてね」


「お前が? それはまた珍しい」


 ヴァイスといえば、「あちら側」と「こちら側」を自由に行き来している稀な能力者である。一旦は彼がいれば難なくこの世界から脱出できると期待したものの、どうやらそれもできないらしい。


「『あちら側』への『穴』になるような針の先ほどの『穴』の元みたいなものが、空間中いろんなところで生まれては消えているものなんだよ。それが自然と『穴』になる確率は相当に低いんだけど、目ではなかなか確認できない小さなそれを見つけて俺の魔法力でこじ開けて『穴』にして普段は行き来しているんだが、この世界ではその小さな『穴』を見つけることすらできないんだ。生息している生き物、死ねば砂に変わるところなどから見ても、おそらくこの世界は作られた世界なんじゃないかと、そう思うんだ。なかなか考えにくいことだけどね」


「おそらく? お前、さっきのアナウンスを聞いていなかったのか?」


「アナウンス? いや全然。二人のお守りをしながら歩いていて君らを見つけたばかりだからね」


「あそこに学校が見えるだろ。そのスピーカーを通して、この世界を作った奴が犯行声明にも似たことを言っていたぞ。そいつによれば、この世界はゲームなんだとさ」


 そこでようやく宮下たちも合流する。歩き疲れて力のない表情を隠すとも誤魔化すともしない。荒れる息が落ち着くのを待って、落ちついたところで今度は普段の毛嫌いを顔に出してギロリと睨む。


「何故、お前たちがここにいる?」


 怒っているようだが、それでも疲弊が際立って迫力に欠ける。桐生の目には気の毒である。


「何故といわれても、俺たちとも仕事でね。宮下さん、何かやつれているけど、大丈夫?」


「大丈夫なわけがなかろう!」


「約半日、飲まず食わずで出てくるモンスターから逃げ回っていたからね」とヴァイスは微笑する。


 自分たちが発見したと思っていたこの新しい世界に、発表はおろか、脱出することもできないうちに、よりによって桐生隊に侵入されている事実が、宮下にはとにかく歯痒い。


「桐生誠司、お前たちはいつもそうやって周りを出し抜こうとする。ちゃんと説明をしてもらおうか。君たちがここにいる理由を。その経緯を。ここで体験したことの全てを話すんだ」


「そんなに目くじら立てなくっても。俺たちとしてもそちらを出し抜こうなんて思っちゃいないんだけどね。自分たちのことを棚に上げるのはよくないと思いますよ」


 桐生もこの状況下にあって、不仲であってもUW内で情報を隠すつもりはない。この件に関するそれまでの経緯を、努めて丁寧に説明してあげる。話の一つ一つに宮下の質問が挟まれ、それにも逐一応じるが、代わりに宮下たちがこの世界へとやってきた経緯を訊ねると、宮下は茶を濁す。もっとも、ヴァイスが補足をしてしまう。宮下は咳払いを一つして、


「まぁ、要するにあの塔に向かえばこの世界から抜け出せるというわけだな? そして管理人というものもそこにいると?」


「そこまでは断定できませんけどね。この世界のどこにいるのか。そいつの話だと、この世界の外からでもこの中の様子を観察できるみたいですからね」


「何にせよ我々は先にそちらへと向う。君たちはあの校舎の生徒たちの保護を優先させるといい」


「俺たちもそのつもりですけど… まさか、お二人で向うつもりですか?」


「それこそ、まさかだろう。ヴァイス・サイファーに護衛を頼むに決まっている」


「ふ~ん、そうやって自分たちだけ脱出して、管理人がいるなら自分たちだけで捕まえようというおつもりですか?」


「何とでも言うがいい。どちらにしても人命を守り、敵を捕まえることは我々の仕事だ。より多くの人命を助けるには君たち実行部の人間たちの方が適している以上、これは合理的な作戦だよ」


 桐生としても、この作られた世界の発見を手柄にする了見はない。興味もない。自身の任務遂行が第一である。弥生や滋も然りなら、宮下のやりように文句はない。


「ヴァイス、お前もそれでいいんだな?」


「俺はどちらでも。この世界の究明は後日、いくらでもできると考えているからね」


「その台詞、ちょっと恐ろしいが… まあ、いいか。それで宮下さんは、すぐにでも向うんですか?」


「そうだな、できれば水と食料があれば分けてもらいたいが…」


「そんなの、俺たちは持ってませんよ。でも、あの校舎にならそれがあるみたいですよ」


 そう言われて、不本意ながら宮下たちも一旦校舎に向うことにした。彼ら研究員が先頭を切って歩き、続いて弥生と滋が、末尾に桐生とヴァイスが並んでついていく。その途中、


「ところでヴァイス。さっきお前が話していた、小さな『穴』のことだけど、目で確認できないっていうそれをお前は普段、どうやって見つけているんだ?」と桐生は聞く。


「うん? それは企業秘密」



続きます

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