98.D【凶夢:21】
◎【21】◎
〔オシリスとアイシス〕
ここは日本の島根県の某所
某ホテルのある部屋の中には、四豊院奏と七照院燕彦と六甲院美咲と六甲院美幸と陸堂翼と陸堂瑛と『暁恵』の七人がいて、なにやら話し合いを続けていた。
その目的や行動原理などは、まだ全くの不明なのだが、謎の少女・暁恵を利用して、あの地球の護り神〈アクナディオス〉を誘き寄せることにある。
もし成功すれば、これは世界初にして、世紀の大発見となるだろう。
だがしかし、ここで問題なのだが、一体どうやって暁恵を利用して、あの地球の護り神〈アクナディオス〉を誘き寄せるか、である。
相手は「神」を自称してるだけあって、そこまでバカではないだろうし、そう簡単にこちらの仕掛けに乗ってくるとは、正直思えないからだ。
なので、早速問題に行き詰まる。
なかなか良い作戦が思いつかない様で、真剣な顔をして奏と燕彦と瑛・翼が無言のまま考え込む。
あの地球の護り神〈アクナディオス〉を誘き寄せる。
それは、ただ単に何処か適当な場所に、暁恵を一人にして、そのまま地球の護り神〈アクナディオス〉がやって来るまで、別の場所で待ち続ける。
でも、そんな単純なやり方でやっても、本当に地球の護り神〈アクナディオス〉を誘き寄せられるのか?
先程も言ったように、あの地球の護り神〈アクナディオス〉もバカではないだろうし、そんな単純な方法で誘き寄せられるわけがない。
つまり実際問題、理論的にも物理的にも、あの地球の護り神〈アクナディオス〉を誘き寄せることが不可能なのである。
では、一体どうすればいいのか……?
それを現在みんなで話し合っている。
だがしかし、非常に残念ながら、なかなか良い作戦が思いつかないでいる。
「もしかして、打つ手なしなのですか?」
「………」
「やっぱり無理ですかね?」
美咲・美幸の遠慮がちな疑問に、瑛たちが答えられないでいる。
まぁ、無理もない。
そもそも、あの地球の護り神〈アクナディオス〉を誘きだそうとする自体、非現実的であり、また「触らぬ神に祟りなし」と言うように、出来るだけ関わりたくないからだ。
それだけリスクが高いのだ。
「……美咲よ。 簡単に言うけど、相手は人間を人間とも思わぬ残虐非道の冷酷な神なのだぞ。 仮に誘き寄せることに成功したとして、その後どうするつもりなのだ……?」
「……えっ!!?」
「そ、それはなんとか話し合いで……」
「それは不可能だぞ。 奴らは基本的に打算で動く。 お前たちの目的に、奴らでも利益となる項目があるのなら、多少なりとも話し合いに乗ってくるだろうけど……。」
「残念だけど、あなたたちのやろうとしてることは、むしろ奴らの利益にはマイナスよ。 下手をすると、あなたたち殺されちゃうわよ。」
「ああ、無防備で危険だな」
「ですが、"悪夢" を見た方を異世界転移させているではないですか? それは何故です?」
「はい、それは "悪夢" を見たからです。 その "悪夢" を見た者たちは、半ば半死半生状態ですから、彼らにとって利用しやすいのです。 だから彼らの実験台には最適なのでしょう。」
「……そ、そんな……」
「……そ、そうですか……」
明らかに関係性を持ちたくない瑛たちの説明に、意気消沈していく美咲・美幸を尻目に、暁恵はさらに畳み掛ける様に、瑛たちに質問してきた。
「つまり、それは戦っても勝てない相手……だからですね?」
「……むむっ!」
「いやぁ、それはぁ……」
「……た、確かに……」
痛いところをつかれたからなのか、燕彦と奏と翼が反論できないでいると、
「その通りだ。 俺たち人間の力では、奴らに勝てない。」
「……!」
この暁恵の鋭い質問に、瑛が真っ向から答えた。
「奴らに攻撃は通用しない。 実体がないからな。 だがしかし、奴らは俺たち人間に攻撃できる。 しかも致命傷を与えるほどの威力を持っている。 つまり、現状では俺たち人間に奴らは倒せないんだ。」
「………」
「ですが、全く策がないわけではありません。」
「ああ、そこで現在考えているのが、死神反逆者と悪魔的化物の共同戦線なのだ。 そこから、活路と勝機を生み出す可能性を慎重に模索している。」
「ですが、そんなにすぐできるわけではありません。 それこそ、何年間という長いスパンで考えていかないといけません。」
「……!」
「ああ、そうだ。 だからこそ、あの地球の護り神〈アクナディオス〉を誘き寄せる作戦が、早急に必要であれば、それこそ、お手上げだよな? 翼よ」
「……はい……」
「だってさ、どうする?」
「残念ながら、時間を要する。 ここは一旦、体制を立て直し改める他あるまい。」
「そういうわけにはいきません!! もう時間がないんですっ!!」
さすがの瑛たちの完璧かつ慎重な説明に、思わず「なるほど」と、美咲・美幸が納得しかける中で、唯一この暁恵だけが、まるで切羽詰まった様な迫力で反論してきた。
「何故だ? 何故、そんなに急ぐ? 何か急ぐ理由でもあるのか?」
「……そ、それは……い、言えません……」
「そういうわけにはいかないぞ。 こちらもある意味命が懸かってるんだ。 目的も理由も教えてもらえないんじゃぁ話にならんぞ。」
「……くっ……」
「……そ、それは……」
「しかし、それでは……」
今度は美咲・美幸が反論できないでいると、
「……少し……考える時間を……ください……」
……と、暁恵が力なく答えると、気の抜けた感じで立ち上がり、このまま部屋を出ていった。
まだ何かあるようで、暁恵はまだ重大かつ重要な何かを隠している。
そんな気がしてならない。
その暁恵が、フラフラしながら、半べそかいて出ていった?




