81.D【凶夢:04】
◎【04】◎
〔オシリスとアイシス〕
日本の大阪府の某所
ある日の朝
大阪府の某警察署の署内にある取調室では、今日もベテランの刑事が、ある男性容疑者の取り調べをしている。
「……」
「おい、お前がやったんか?」
「…黙秘する…」
その男性容疑者は相変わらず黙秘権を行使している。
「ちっ、またなんか? まいったわ! ホンマ一体どうなっとるんや!?」
「……」
「全くホンマそっくりやなー。 こいつは双子ちゃうしな、兄弟も両親ももうおらへん。 独り身やし……他人の空似にしては、ホンマ似すぎやでえー。」
「……」
「ホンマ……どないせいっちゅうんや!? もう訳わからんわー!! ……頭イタイわ」
「……失礼しますわ」
するとそこに、若手の刑事がベテランの刑事のいる取調室に入ってきており、ベテランの刑事にそぉっと静かに耳打ちをした。
「っ!!?」
それを聞いていた、ベテランの刑事が……とても信じられない……という顔をしていて、物凄く驚愕していた。
「なんやて、ホンマか!!?」
「はい、ホンマですわ。」
なんと、その内容とは、京都府で "真犯人" が逮捕された話しであり、その容疑者の容姿が、ブサイクでデブのオタクの四十代の男性であり、今も取り調べをしている男性容疑者とは、全く違う容姿の別人であった。
「はい、彼が事件現場にいて、証拠も見つかっていて、何より自供も始めておりますわ。」
「そんな、アホな」
その真犯人の男が、事件当日に事件現場の近くにある防犯カメラに映っていて、その男の自宅には、襲った少女の下着や血のついた刃物などの証拠も発見されており、自分には動機もある……と自ら犯行を自供しているのだが、黙秘している男性容疑者の方には、一切証拠がない。
さらには、京都府で逮捕された真犯人の男と大阪府で逮捕されて黙秘している男性容疑者には、全く接点がないのだ。
これはもしかして、誤認逮捕なのでは……っ!?
「そんなことはありえん! また誤認逮捕やなんて!」
「ですが実は、残念ながら……この大阪府の警察署では、とんでもない事態が起きているようですわ……。」
「………なんやて?」
なんと言うことなのか、当時の捜査員の刑事たちが、なかなか解決する事が出来ない、この少女暴行傷害事件に異常な焦りや苛立ちを感じており、当時たまたま事件現場の近くに住んでいた男性を、適当に任意で引っ張っていた。 だけど、当日は仕事で居なかった男性が一体何が起きたのか、全く理解する事が出来ずに、弁護士の助言で黙秘を貫いているのだ。 つまり、全く関係ない無実の人間を逮捕してしまったのだ。
「…っ!!?」
さらには、取り調べをしている…このベテランの刑事には、その事実を全く知らされずにいて、無駄で無意味な取り調べを続けていたのだが、京都府の警察署の警察官が早々に真犯人を逮捕してしまい、この事件は解決してしまった。
「…っ!」
(そんなアホな! またかいな! またワシをダシに使いおったんかぁっ!!)
さすがのベテランの刑事も、これには凄くショックを受けていて、頭を抱えている。
早速なのだが、ベテランの刑事が男性容疑者など放っておいて、すぐに刑事部部長室まで慌てて走っていった。 部屋に到着するとすぐにドアを開けて室内に入り、窓際の席に座る刑事部長に、詰め寄って怒鳴り散らす。
「おい、これは一体どないなってるやぁっ!?」
「……」
「おいおい、まさかワシに無実の男を自白させるつもりやったんかぁっ!?」
「……」
「おいおいおい、なんとか言うたらどうやぁっ!? ワレにはクチがないんかぁっ!?」
「……」
だけど、刑事部長は椅子に座ったまま、ずぅーと沈黙していて俯いている。
「な、何なんやぁっ!? こりゃあ……っ!?」
「……」
するとなんと、ベテランの刑事のすぐ背後で、何者かの気配がして―――
ドカァッ!
「ぐがぁっ!?」
ドサッ!
背後から何者かに、何かの鉄の棒のような物で後頭部を殴りつけられてしまい、ベテランの刑事が前のめりに倒れて気絶した。
―――-◎-―――
旧アメリカ連合国アラスカ領
ある日の夜
そこは見渡す限りの白い雪と猛吹雪で、視界は既に夜空や星さえも見れない程のホワイトアウト状態である。
そこに黒茶色の防寒具を身にまとい、伝説の七聖剣のひとつ【ロンギヌス】を所持している、ハリー・ダグラスが一人でポツンと立っている。
さらにハリーの目の前には、あの〈アクナディオス〉も立って現れている。
「……で、このボクに一体何をやらせたいのだ…?」
「……『保険魔法』の入手…」
「…? 初めて聞く言葉だけど、一体何なのだ…?」
「…詳細は我々にも不明…存在するのかさえ…不明…それを探すのだよ…。」
「やれやれ、やっぱり…そう言う不可能なことを、このボクにさせるつもりなのか…?」
「…不可能ではない…必ず探しだすのだ…!」
「ふん、在るのかどうかも解らないのだろう? まったく…いつになることやら…?」
「だが…やるのだ!」
「……」
「これは魔法を使用する者にしか見つけられない。」
「なるほど、そう言う意味なのか、それなら確かに、そこで魔法使用者の…このボクが選ばれたわけだな…?」
「ああ、そうだな。 キミは相当訓練された魔法使用者のエリート軍人だからな。」
「ふん、過去の話しだ。」
「そして、我々はキミを裏切った人間を必ず見つけだし、キミの前に連れてくる。」
「よし、いいだろう! それで行こうか!」
すると、〈アクナディオス〉がなにやら、この地の周辺の地図とコンパスを取り出して、ハリーに手渡した。
「これは……?」
「その地図の赤色で印がついている場所が……今回のキミの目的地だよ。」
「ほーう、用意がいいな」
「他に何か質問は……?」
「それで、その『保険魔法』とやらを見つけたら、一体どうすればいいのだ…?」
「まだ…ここでは見つからない…と思うがな…。」
「何…っ!?」
「まぁー、それでは頑張れよ。 ハリー・ダグラス」
「…ふん…」
そこで〈アクナディオス〉も姿を消しており、ここで遂に、ハリーが完全に一人になっていて、一面の白い雪と猛吹雪の中を歩き始めている。
「ちっ、全く面倒臭いなぁ!」
そのまま…ハリーが歩き続けていて、猛吹雪の雪の中に姿が消えていった。
● ◎ ●
しばらくの間…ハリー・ダグラスが一人で、猛吹雪の雪の中を歩いていると、地図の赤印の場所に到着した。 そこでハリーが改めて地図を確認する。
「……ここなのか?」
するとなんと、ハリーの目の前に、巨大な要塞みたいな白い建物が現れていた。




