第五話 サイタマーの迷宮狂騒曲
~~~~~~~「Dの狂詩曲」[王国古詩選集]より引用~~~~~~~~~~
昨日、近くのダンジョン行ったんです、ダンジョン。
そしたらなんか冒険者が滅茶苦茶一杯で中入れないんです。
でね、よく見たら何か垂れ幕下がってて、
『迷宮集中探索強化月間』とか書いてあるんです。
もうね、阿呆かと、馬鹿かと。
お前らな、探索強化月間如きで普段来てないダンジョンに
来てんじゃねーよ、ボケが。
探索強化だよ、探索強化。
なんか男女ペアとかもいるし。カップルでダンジョンか、お目出度てーな。
「よーし俺ダンジョン攻略しちゃうぞー」とか言ってるの。
もう見てらんない。
お前らな、探索するからそこからどけと。
ダンジョンてのはな、もっと殺伐としてるべきなんだよ。
通路の向こうからやって来たモンスターと、
いつ殺し合いが始まってもおかしくない、
殺るか殺られるか、そんな雰囲気が良いんじゃねーか。
女連れはすっこんでろ、このうらやまけしからん。
で、やっと入れたかと思ったら、隣の奴が「命大事に」とか言ってんです。
そこでまたぶち切れですよ。
あのな、「命大事に」なんて今日び流行んねーんだよボケが。
得意気な顔して何が「命大事に」だ。
お前は本当に命を大事にしたいのかと問いたい、問い詰めたい、
小一時間問い詰めたい。
お前「命大事に」って言いたいだけちゃうんかと。
ダンジョン通の俺から言わせてもらえば、
今、ダンジョン通の間での流行はやっぱり「捨て身で行こうぜ」、これだね。
「捨て身で行こうぜ」「ノーガード」、これが通のやり方。
「捨て身で行こうぜ」ってのは捨て身で敵にぶつかる、
その代わり攻撃力が上がる、これ。
で、それに「ノーガード(防御放棄)」、これ最強。
しかしこれをやると次からエンカウントモンスターにマークされる
という危険も伴う、諸刃の剣。
素人にはお勧め出来ない。
まあお前らド素人は、雑魚モンスターとでも遊んでなさい、ってこった。
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……私達は今、白山亭で仕事の打ち合わせをしています。
「……そういうわけで、これは学術的には大変に重要な発見になるわけだよ。アインライト君、君なら理解出来るはずだ。」
さて本日、私とアルスラ、それにキットを加えた三名の冒険者は、いつもの白山亭にていつもとは違う仕事の依頼を受けることとなった。
そして現在、その依頼主から仕事に関する事前説明を受けている真っ最中というわけである。
依頼主の第一声は、こんな感じであった。
「やあはじめまして、私の名は『ダル・ウィン』、王都から来た"学者"ということにしておいてくれ。」
さらに続けて、
「……まあ学者と云うよりは"知識の探求者"と言ってもらったほうがより実情に合っているだろうか。今は直接アカデミーに所属しているわけでは無いからね。」
さて、眼前にて熱心に解説をして下さるダル・ウィン氏であるが、年の頃は推定三十代半ば、すらりとした長身の体躯、金髪に近い薄い茶色の髪をオールバックにして耳の下辺りで切り揃えている、中々の美形さんであった。
本人言うように、確かに『学者』と思わせる知的な雰囲気を漂わせている。
彼からの依頼とは、以下の通りである。
曰く、この度新しく発見された遺跡(例のダンジョン)には、古代魔法についての記録が多数残されているらしい。
しかし、それらの記録は古代魔法の仕掛けが施された『石版』に記されており、その仕掛けを動かすには『強い魔力を持つ人間』が必要になる、とのこと。
具体的には、『強い魔力を持つ人間』が『石版』のスイッチに触れることにより、仕掛けが作動して石版の表面に『古代文字』が浮かび上がって来るのだと云う。
そして、その『古代文字』を写し取って記録に残したい、ということであった。
「……しかし、写し取ると言ってもいちいち書き取っていたのでは時間が掛かり過ぎるような……」
「だからこそ『写し取る』のさ、文字通りにね。……つまりこれだ……。」
そう言って彼が取り出して来たのは、大きな『紙』と、やけにサラサラしたインクすなわち『墨』、であった。
「……こ、これは…『紙』ですか!……こんなに大きなものは初めて見た……。こんな貴重な物、高価なのではないですか?」
「流石だ、紙については知っていたかね。だが心配無い、紙というものは作るのに手間はかかるが原材料はそう高価なものではない。いずれ量産されれば安くなるはずだよ。……詳細な技術については調査中だがね。」
『紙』というのは、遥か東方の国で開発されたもので、一見パピルスに似ているが羊皮紙並みに書き易く、しかもとても薄くてなおかつそこそこ丈夫であると云う。
昔実際に試す機会があったのだが、なるほどこれは『文書』を記すには理想的な素材であると関心したものであった。
ただし、詳細な製造法が不明で、現状極めて高価なものであるらしかったのだが。
「……そしてこちらの"インク"は普通と違って水で溶いたものでね、紙に良く馴染んで広げ易い。これを使ってこうして……」
彼が実際にテーブルを使って実演して見せてくれた。
水で濡らした紙をテーブルの表面に密に貼り付け、上から表層にだけ墨を付ける。
布を丸めたものを使ってぽんぽんと叩くように色を付けるのがコツらしい。
適当に乾かしてから慎重に紙を剥がすとそこには、テーブルの木目の模様が見事に写し取られている姿があった。
つまり、ダル・ウィン氏は『拓本』を取ることを依頼して来たのである。
「……なるほど、手順は大体理解しました。言われるように、石版について全て写しを取って来れば良いのですね。」
「そういうことだ、よろしく頼む。アインライト君程の、魔力の強い冒険者が居てくれて助かったよ。なにしろ、一定以上の魔力が無いと、仕掛けが動作しないのだから。」
話はこれでほぼ纏まったようである。
ちなみに、アルスラは表面上大人しくしていたが明らかに退屈していた。
キットは、『高価なもの』辺りでは少し反応があったが、全般としてはやはり退屈そうに話を聞いていた。
……二人とも困ったものだ。
「……ところで、聞いた限りではあの遺跡からは大した物は出なかったハズなのですが、そんな場所にそれほど大した古代魔法の記録があるものなんでしょうか?」
私は、つい昔のクセで『そういう質問』をしてしまう。
ここでダル・ウィン氏の目が明らかに輝いた。
キットは、「あ、やべ!」という表情になった。
アルスラは、一瞬反応が遅れた。
「そもそもあそこの扉の封印については古代シュシュトリアン様式の流れを組む警備装置と考えられるのだが、使われている守護魔法は恐らく第二文明由来のもので……」
というわけで彼の長い長~い話がここから始まった。
私はこの手の話は嫌いでは無いので耐えられたが、アルスラとキットの二人は途中何度も意識が飛びそうになっていた。
あんまり可哀想だったので、適当なところで「逃げていいよ」とアイサインを送って席を外させてあげる。
二人はその後、すまなそうな顔をしてこちらをうかがっていた。
「……すなわち、あの遺跡は『古代サイタマー帝国』の遺跡だ! 『悪徳の都サイタマー』の伝説の元になったものなのだよ。実に、興味深いね!」
……要するに、そういうことであった。
長い長い話も終わり、ようやく一息付く。
「さて、冒険者ギルドのほうからも、君の安全については注意してもらうよう言われているので『これ』を渡しておこう。上手く使ってくれ。」
そう言ってダル・ウィン氏は、手の平程の大きさの、何かの金属で出来た円盤を渡して来た。
その表面には複雑な文様の魔法陣が刻まれており、紐が付いていて首に掛けられるようになっている。
「これは、『通信器』と呼んでいるものだ。これがあれば、離れた場所でも私と会話が可能になる。何かのときには、アドバイスも出来るだろう。」
ダル・ウィン氏は自分の手元の『通信器』に向かってそう話しかける。
するとまったく同じ声が、私の持つ『通信器』からも聞こえて来た。
なるほど、これは大した代物だ、感心させられる。
用件の済んだダル・ウィン氏は、白山亭を出ていった。
後には、私達が残される。
依頼主との話もまとまったので、早速仲間内で詳細を詰めることにする……が、
「そりゃまあ、もう何も残っちゃいないだろうし、無理も無いさ。」
白山亭の主人シンメイ氏が、しみじみとそうこぼす。
そう、例の新発見ダンジョンこと『遺跡』については、王都や各地から腕利きの冒険者がやって来て調査した結果、『大したお宝は無い』ということで早々に収束してしまっていたのだ。
ただ、トラップ類についてはそれなりに充実していたので、自分としては治癒魔法でちょっとした小遣い稼ぎぐらいにはなったのではあるが。
ちなみにトラップは全部外されてしまって、今の遺跡内は安全そのものである。
それに遅れて、王都からはダル・ウィン氏を始めとした『学者連中』がワラワラやって来て、実に楽しそうに『大して価値があるようには見えない』出土品をこれでもかと弄くりまわしていた。
そんな訳で、自分達『虚弱体質の安全運転パーティー』が探索に出ても問題視されなくなったと言うわけだ。
仮にも『冒険者』としてそれはどうか、という点は別にして。
「しかし、パーティーというからには『黒魔術士』が欲しいところではあるな、バランス的に……」
急に誰かが、会話に入って来る。
そこにいたのは、小柄な少女であった。
年の頃は十五、十六といったところか。
肌の色は浅黒く、髪は銀色。
手足は細長く華奢な印象。
ローブを着て、杖を手にしている。
そして、特徴的な『長い耳』。
彼女は、『ダークエルフ』もしくは『黒エルフ』と呼ばれる存在であった。
「……『ノノワ』と申します、はじめまして、アインライト様。」
「……ええとそれで……ノノワさんは『黒魔術士』、なんですよね?」
『黒魔術士』は攻撃魔法の専門家だ。
経験を積むと、強力な攻撃力を発揮出来るようになる。
冒険者の『パーティー』に於いては、火力の要とも言えるものだった。
『何と物好きな』と感じてしまう。
まあ、志望しているからには、話ぐらいは聞いてあげるべきだろうか。
とりあえず、まずは皆と相談してみる。
……しょうがない、自分で何とかしよう。
採用を判定するにしても、相手の詳しい事を聞き出す必要があった。
「まずはーーあなたの最終学歴とスキル、志望動機、それから今後の抱負などについてお聞かせ下さい。」
面接ってこういう感じだったよな、確か。
「私はこの秋、シンシュー辺境領の魔法初等学校を卒業したばかりですが、黒魔法については四属性の初級のものは全て使用可能ですわ。」
彼女は、妙に自信たっぷりに話を始める。
「それと……『お城』の知人の方から、アインライト様がこの辺では『最も魔法の能力に優れたお方である』、と聞きましたの。」
「私、学校でも『大変に優れた素質を持っている』と評判でしたの。ですから、是非とも『より優れた師匠』に付いてもっと魔法を学びたいのですわ。」
そういうことらしい。と、いうことはひょっとして……
私は話を聞きながら浮かんで来た疑問を口にする。
ノノワは、目が少し泳ぐ。
「で、でも、学校では大変に優れた素質を持っていると評判でしたの。きっとお役に立てるハズですわ!」
とりあえず、スタッフ間で協議してみる。
「……慎重に検討しました結果、今回の採用についてはお見送りさせて頂く結果となりました。最後になりましたが、ノノワ様の今後の活躍を心よりお祈り申し上げます……。」
不憫には思いますが、当方についても如何ともし難い状況で御座います。
そそくさと、白山亭を後にした。
* * *
自宅に帰って、夕食にする。
キットが来てから、我が家の食事事情は大きく好転した。
彼女は意外にも、この手の家事全般も得意だったからだ。
「駄目です、米はパエリア以外に使うことは認められません。たとえご主人様でもそこは譲れないところです。」
以前はと言えば……
私は料理等は全く出来なかった、食事は全部、外で済ませていたのだ。
アルスラは密林育ちなので、普通の家庭料理にはやはり詳しくない。
試しに頼んだら『すげーワイルド』なものが出て来た。
獲物の解体などはお手のものだったが。
そんなわけでとにかく、キットのおかげで食事の事情は好転していた。
あとは体をお湯で軽く拭いて、寝ることにする。
明日の仕事に備えて、今日は早目に休もう。
この仕事が終わったら、皆で街の共同浴場に行くのもいいかもしれない。
そんなことを考えながらベッドに入ったら……
「……あ、あの…あんなに激しい声、いつも聞かされたら……えと、我慢出来なくなっちゃったんで……」
……そんなにいつもはしてない、節度は守っているつもりだ。
一回ずつでも二人だと合計二回になります。
……翌日の朝日は、やはり少々黄色かったです。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
さて、翌朝は早速、件の古代サイタマー帝国の遺跡に出向いてみた。
探索の過程でダンジョン内部は適当に整理されていて、危険そうな箇所には警告も置かれている。
『トラップ注意』とか『踏むな』『触るな』といった表示を幾つも通り過ぎて、目的の部屋に無事到達出来た。
中には何十個もの石版が並んでいた。
そして……
そこにはノノワもいた。
すぐに通信器で連絡を取ってみると、
「"やあ、何でもノノワ君が君ともっと話がしたい、ってことだったから、それなら遺跡の中で待ってれば良いよ、と言っておいたんだ。"」
通信器からは何とも軽い返答が返ってくる。
「"……まあそう邪険にしないでくれたまえ。彼女はきっと役に立つはずだから。"」
まあいいか、さっさと作業をはじめよう。
とりあえず、目の前の仕事に没頭することにする。
問題の石版の横の部分には、小さくて滑らかな半玉の石が付いていた。
これが、話にあった『スイッチ』のようだ。
私が触れてみると、石版が一瞬光って、文字が浮かび上がって、いや、刻み込まれていた。
早速、写し取りを始める。作業自体は単純だ。
ものの試しに他の皆にスイッチを押させてみると、アルスラ、キットでは反応無しだったが、ノノワでは反応した。
なるほど、『強い魔力を持つ人間が』、というのはこれのことか。
そういうことなら、作業を二組で手分けしよう。
ダル・ウィン氏の『彼女はきっと役に立つ』とは、そういうことだったらしい。
* * *
二組だと、作業効率も約二倍だ。
石版の数はそれなりに多かったが、意外と早く終わりそうだ。
この分なら今日中に終わらせられるかも知れない。
「……それにしても、魔法が勉強したいのに、何故『王国本領』に? エルフなら、ヤマガッター辺境領に学校があったはずだよ。」
シンシューやヤマガッター周辺は、エルフが多く住んでいて、彼らの為の学校も整備されているはずなのだが。
「あんなところ、意味ありませんわ。昔の栄光にばかりこだわって、進歩が止まっていますもの。」
彼女はばっさりと切って捨てる。
とはいえ、確かにそれはその通りであった。
エルフの寿命は人間より若干長く、大体百から百二十歳ぐらい。
魔力に優れ、かつては偉大な魔法使いを数多く輩出してきた。
だが、時の流れと人間の進歩とは恐ろしいものだ。
短い寿命と少ない魔力でも、人間はその数の多さにものをいわせ、営々と研究の営みを続けることにより、いつしか大きな成果を掴み取るに至っている。
一方、エルフの魔法、技術にはそこまでの進歩は無い。
今や、両者にはかなりの差が付いてしまっていたのだ。
だからこそ、『人間の王国』はこの世界に大きな覇を唱えることが出来るのだから。
「……私は、『一流の師匠』のもとで、魔法を勉強したいのですわ。」
「私は一流などでは無いよ」、と言おうかと思ったが止めておく。
それは、彼女を侮辱しているような気がしたからだ。
多少『空回り』は感じさせるが、その一途さは充分に評価に値する。
彼女のような存在を、私は嫌いにはなれなかった。
しばし、仕事に没頭する。
途中に食事と休憩をはさんで、写し取りは順当に完了出来た。
彼女が胸を張る。
ノノワは、仕事には真面目に取り組んでいた。
本当は素直な少女なのだろう、今では、好感を持つことが出来た。
私も、素直に感謝するとしよう。
「……予定より早く終わったから、ついでに遺跡見物でもしていくかな?」
「そうしましょう。私の勘では、まだ何かありそうな気がします。」
回廊の少し先まで、足を延ばしてみる。
或る部屋に入ってみると、そこには壊れた石像らしきものが何体か散らばっていた。
それ以外、特に目に付くものは無い。
急に通信器から声がしたので、流石に驚かされる。
しかし、余りにもタイミングが良過ぎた。
ひょっとしてこの『通信器』は声だけじゃなくて他にも……まあ言わぬが花か。
「"施設を警備するための仕掛けさ。侵入者を自動的に攻撃するように出来ている。"」
まるで見ているかのように、ダルウィン氏は説明を加える。
「"まあ、もう魔力は切れてるだろうし、壊れてもいるだろうから心配はいらないと思うがね。"」
ノノワが『実に不用意に』そいつに触っている。
ここで、嫌な予感がした……。
そう、その触っているものは、『滑らかな半玉状の、さっき見たような』ものであったからだ。
瞬間、地面に火花が飛んだように見えた。
高い魔力の存在が触れるとその回路は命を吹き返す、あれはそういう仕組みだ。
低い響雑音と振動がこちらに伝わって来る。
守護者が、目覚めてしまったようだ。
石像の内の一体が、不恰好ながらも形を作って立ち上がる。
他のものは、僅かに身じろぎはしたがそれ以上動くことは無かった。
一体だけなのは、不幸中の幸いと言ったところか。
アルスラが、直ちに戦闘態勢を取っていた。
アルスラが突きを繰り出す。
守護者は僅かに体を揺らすが、大したダメージでは無い。
反撃に腕を振り回して来る。
石の像が相手では普通の攻撃は効果が薄い。
それでもアルスラは、果敢に槍を繰り出す。
彼女は、相手の注意を自分に引き付けようとしている。
だが、やはり苦戦しているようだ。
相手が相手なので、私では大したことが出来ない。
ゴーレムは種類にもよるが、比較的攻撃魔法が効き易い。
全員の視線がノノワに集まる。
彼女は四属性の初級魔法しか使えないと言っていた。いくら何でも力不足だろう。
石系のゴーレムだと、それなりに強力な魔法をぶつける必要がある。
アルスラはこういう時には、戦力を冷静に分析する。
彼女がそう言うからには、そのはずだ。
守護者の動きは、意外なほど素早い。
仮に逃げ出しても、すぐに追い付かれてしまうのだろう。
今は守護者の攻撃を上手くさばいているが、いつまでも保つものでは無い。
打つ手は、何か無いのか……
「"……アイン君、『傀儡』を使いたまえ。ノノワ君に、上級魔法を使わせるのだ。"」
ここで、ダル・ウィン氏が急に割り込んで来た。
しかも、あなたは何故『それ』を知っている?!
私も覚悟を決める。
「ノノワ、よく聞いてくれ。今から君は『土の上級魔法』を使うことになる。呪文の詠唱は、私がサポートする、心配は要らない。」
「だが、これだけは意識してくれ、『魔法にとって重要なのは、呪文を詠唱することでは無い』ということを。」
「最も重要なのは、『それによって想起される現像』『君の精神が作りだす、世界への想像力、創造力』そのものだ。」
イメージを想起せよ。
相手の精神を掴め、神経を掴め、感覚を掴め。
そっとそっとやわらかくちからをイレすぎるとコワれてしまうよ。
糸を捜せ、運動の糸、脈動の糸………行動の糸。
さあうごいてごらんワタシのあやつるままにチカラをぬいて。
糸を指で引き寄せ弾く、操作せよ!
私は手を動かし、彼女の手が動く。
私の意のままに、ノノワは動く、声を紡ぎ出す。
「母なる大地の源よりて、溢るるちから湧き出でん。
地はにくより出でしものにて、すべてが興こりすべては還る。
流れる乳と蜜とたましひ依り、いざ大いなる慈悲の一撃を。」
「……『土魔法・大』!!」
そのとき大地が割れ、石の像を飲み込み、かき混ぜ、放り上げる。
轟音が響き、そして、そこには、ただ破壊された守護者のみが残った。
ただ、破壊された守護者のみが残っていた……。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
順調だと思ったら、最後の最後に『とんでもない事』が待っていた。
私達は疲れ切って、家路を目指す。
彼女は、流石に元凶の一人として、言葉も無いようだ。
とりあえず、遺跡を後にする。
今日は疲れた、細かいあれこれは明日にして、家に帰ろう。
しばし、無言が続くが、
「……ところでノノワ、何故君が付いて来るのか、聞いても良いかな?」
ノノワはおずおずと、言葉を紡ぐ。
「師匠は、私の思っていた以上の凄い方です。是非とも、私に魔法を教えて欲しいのです!」
そして彼女は頭を下げて来た。
私は大きく息を吐き出す。
やれやれ、ほっとく訳にも、いかないようだ。
見ればアルスラもキットも、にやにやとこちらをうかがっている。
最初からそうなるのは分かっていたと、言わんばかりだ。
我ながら、変な声が出た。
続くのは、疑問の声音。
そして、驚きの叫び。
…………居候って、どんどん増えてゆくものなのですね。