表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サイタマーの守護者  作者: 一光屋KY
無刃の戦争編
35/39

第三十三話 サイタマーの恐るべきコドモたち

~~~~~~~「近頃の……」[王国歴史学大全]より抜粋~~~~~~~~


 オームカーシ石碑文要約 (神代文字,約8000年前):

  近頃の若い者は駄目だ、とは昔から言われているが、特に今の若者は酷い。

  まず、責任を取ろうとしない。独り立ちもせず、常に何かに依存している。

  ただ無闇に消費し、外から批判するだけの部外者で居続けようとしているのだ。

  これは由々しき事態であり、神聖域の在り方に関わる重大な問題である。



 ムカーシノ粘土板文抜粋 (古代帝国語,約2000年前):

  近頃の若い者は駄目だ、とは昔から言われているが、特に今の若者は酷い。

  まず、責任を取ろうとしない。独り立ちもせず、常に何かに依存している。

  ただ無闇に消費し、外から批判するだけの部外者で居続けようとしているのだ。

  これは由々しき事態であり、帝国社会の在り方に関わる重大な問題である。



 ヤヤムカシ伯爵伝聞録 (王国草創期,約400年前):

  近頃の若い者は駄目だ、とは昔から言われているが、特に今の若者は酷い。

  まず、責任を取ろうとしない。独り立ちもせず、常に何かに依存している。

  ただ無闇に消費し、外から批判するだけの部外者で居続けようとしているのだ。

  これは由々しき事態であり、伯領地の在り方に関わる重大な問題である。



 ヒトムカシ将軍回顧録 (王国動乱期,約100年前):

  近頃の若い者は駄目だ、とは昔から言われているが、特に今の若者は酷い。

  まず、責任を取ろうとしない。独り立ちもせず、常に何かに依存している。

  ただ無闇に消費し、外から批判するだけの部外者で居続けようとしているのだ。

  これは由々しき事態であり、王国軍の在り方に関わる重大な問題である。



 今朝の新聞投書より:

  近頃の若い者は駄目だ、とは昔から言われているが、特に今の若者は酷い。

  まず、責任を取ろうとしない。独り立ちもせず、常に何かに依存している。

  ただ無闇に消費し、外から批判するだけの部外者で居続けようとしているのだ。

  これは由々しき事態であり、王国社会の在り方に関わる重大な問題である。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ……我がライヘンスター商会の朝は早い。



挿絵(By みてみん)「馬車の手配に問題は無い? 順路の確認もちゃんとするのよ。とにかく、一つ間違うだけで銀貨が飛んでゆくものだと思いなさい。段取りは全てなのだから。」


 いまだ歳若い――と言っても私と同年代なのだが――商会の者に向かっていつもの指示を飛ばす。

 ともあれ『口入屋』の仕事は人間の差配が主であり、そこには『人の移動』が欠かせない要素となる。

 馬車の動かし方一つを取っても、無駄な行動は決して容認出来ないのだ。

 我ながら小姑じみた事を言うものだと、内心自嘲すら感じる。


挿絵(By みてみん)「(……ああやだやだ、今更この手の仕事は、旨味が少ないのよね。)」


 各種に手を広げた今となっては、こうした古典的業態は非効率ばかり目に付く。

 兎角『一山幾ら』の仕事というものは、その天井が意外に低い場所にあるのだ。

 その割に諸経費は削り辛いものがあり、結果は利益の圧迫となって返って来る。

 切れるものならば、とっとと切り離してしまいたかった。


挿絵(By みてみん)「(まあ……それでも我が商会を永きに渡って支えてくれた生業なのですけど。)」


 愚痴は零れようとも、それは確かに自分の血肉には違いないのだ。

 切り落とすにしても、そこに出血と痛みは避けられまい。

 効率と利益のみが全てと割り切れないほどに、しがらみとは厄介なものだった。




 別に慈善事業をしているつもりは無いが、亡き父はこの仕事を誇りにしていた。

 貧しき人々に日々の糧をもたらし、世の中に貢献する正しい途であると。

 弱きを援けることは、やがて己のためになる事であると。

 父は信念を持って仕事をしていたのだ……と思う。


 ただし、『それ』に付き合わされる方にはそれなりの苦労があった。


 なるほど、弱き、貧しき人々を手助けするのは立派な事であろう。

 だがそれには『やたらと金がかかる』という点を忘れてもらっては困る。

 元より中堅の我が商会は、始終父の吝嗇と散財に悩まされる日々であった。

 僅かな収入とて、それはご立派な『弱き者への援け』に消えてゆく。

 その犠牲となるのは、決まって自分達の身のまわりであったのだ。


 大きさだけは立派な我が屋敷は、造りも庭も調度に至るまで悉く貧相なまま。

 大事な客を迎えるのにも、何度恥ずかしい思いをしたであろうか。

 一端の商会ともなれば、付き合い交際時候の挨拶と、時には見栄を張らねばならぬ機会がままある。

 しかし、常に素寒貧な家計にはそのような余裕など毛頭存在せず。

 私なども、着ているドレスの貧相さに幾度となく陰口を叩かれたものだ。


 ……だからなのだろうか、私がやがて『浮世を忘れる』芸事に没頭するようになったのは。


 元々、そんな趣味を始めたきっかけは多少の打算と幾らかの利点による。

 そもそも舞踊においては、重要なのは己の器量そのものであるので、資産の多寡はさほど深刻に影響して来ない。

 例え着ている装束が華麗でも、中身の踊りがヘボならそれは其処までなのだから。

 むしろ自らの肢体と技量を磨くことで、纏い物以上の魅力を出せると言えよう。

 すなわち全てが自分次第であったのが、都合良く、そして快かったのだ。

 ただ己の内なる情熱を、腕に、足に、感情の迸りを炎と燃やして。

 鬱憤と憤りを燃えたぎる溶岩の様に、いつしか私は踊りに全てを注いでいた。


 それはきっと、激しく、そして心を揺さぶるものだったのだろう。

 私は舞手として、いつしか有名になっていった。

 次第に社交の世界で話題となるにつれ、やがて私には別の思惑も湧いて来る。

 それは「もしかして、このまま玉の輿など狙えるかも」といった胸算用であった。

 誰かが、わたしを、あるいは、ここから救い出してくれるのかも。

 そんな思いすら心に抱く。


 だがしかし、そんな私の『ささやかな野望』を打ち砕いたのは、またしても父と己が生業であったようだ。


 上流のサロンに出入りするようになり、『それなり』の付き合いなども出来た。

 やがては後援者なりなんなり、或いは一足飛びに愛人・妾でも構わない。

 そのような不埒な目論見など抱いていた私に有為転変の事態が起きる。

 すなわち、父が急死して、商会を一人娘の私が継がなくてはならなくなったのだ。

 まさに、青天の霹靂と言えようか。


 ……私は実に、『運の悪い女』であった。



      ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



挿絵(By みてみん)「なるほど、君からは、大きな力を感じる。」

挿絵(By みてみん)「ああ確かに、秘められた、力を感じる。」


挿絵(By みてみん)「…………」


 出会い頭の胡乱で唐突な台詞に、私は顔をしかめる。

 やや浮世離れしているとは聞いていたが、これほどとは思わなかった。



 最近、貧民街に『癒しの使い手』が居ると噂になっていた。

 無料で治癒術など施し、一部の者からは『救世主』の如く崇められているという。

 流れの白魔術士だとは思うが、それでもわざわざ貧民街に、というのが不審だった。


挿絵(By みてみん)「(……冒険者ギルドにも『凄腕の治癒術士』が現れたとか聞くし……何かそういうご時世なのかしら?)」


 季節魚の大漁期よろしく、魔法使いの大移動でもあったのかと訝しく思う。

 ともあれ、貧民とは切っても切り離せない口入屋としては、便利な人材は他に先んじて確保しておく必要がある。

 亡き父の全盛期など、よく分からない食客等を家で何人も抱えていたものだ。

 それでも本当に魔法使いならば、色々と使いでがあるだろう。

 アカデミーなどが騒ぎ出す前に、優先して囲い込むべきであった。

 そう考えて、私自身が足を運んだのであるが……



挿絵(By みてみん)「想いの抑圧それ自体は悪ではないが、限度は考えるべきだね。」


挿絵(By みてみん)「……」


挿絵(By みてみん)「心の力を溜め込み過ぎると、やがて暴発の危険があるよ。」


 こちらを微妙に見透かしたような言葉に、私は苛立ちを感じた。

 眼前の二人組み、アドルとパウルは、ただ透明な微笑だけを浮かべている。


 さて、実際に目の当たりにした自称『導きのもの』たちは実に奇妙な存在であった。

 金の髪や抜けるような白肌はいいとして、貧民街に居るのに薄汚れていない。

 いやむしろ、彼らの周りには清浄な空気すら漂っているかのようだ。

 ここに来るまでのドブをさらったかのようなそれとは、見事な対称を為していた。


挿絵(By みてみん)「……それで? 単刀直入に聞くわ、あなたたちは『魔法』が使えるの?」


挿絵(By みてみん)「さて、どうかな? ただ僕らには、チカラがあるだけだよ。」

挿絵(By みてみん)「いと尊き存在より受け渡されし、それはタマシイの力。」


 言葉と共に、彼らの輪郭が、おぼろに『ぶれた』。

 霞がかかったように光がまとわり付き、存在が不確かとなる。

 相手の表情に神経を向けようとすると、それら認識が漂い、焦点が移ろう。

 追い駆けて先へ進み、捕まえることが出来ない夏の逃げ水のようなそれ。

 ぎらぎらと干渉のかかる彩が目の前のタイショウを覆って、とらえられない。


挿絵(By みてみん)「ココロを開き、流れに身を任せて」

挿絵(By みてみん)「大いなるものの懐に、身を任せて」


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「受け入れよ、其は世界との調和……!」


 次の瞬間、何か彼らから圧力を受けたように感じた。

 ちりちりとした感触が、自分の意思の柔らかい腹をくすくすと撫でる。

 探りを入れ、密かに窺う見えない指の感触が、何かやたらと不快に感じられて。

 ああ成る程、私は理解した。こいつら、『こうして私を支配しよう』というのか。


挿絵(By みてみん)「不愉快ね……! 私はそんなに『弱く』ないわ。」


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「……」


 彼らの目が見開かれる。それは少し滑稽なほどだった。



挿絵(By みてみん)「甘い言葉にいちいち構ってられるほど、私はウブじゃないの。」


挿絵(By みてみん)「おやまあ、これは失敬。」

挿絵(By みてみん)「いかにも、これは失礼。」


 仰々しいお辞儀が、白々しい声に続く。


 さて『触れられて』分かった。こいつら、単体としてはそんなに『強くない』。

 その代わり、ああして心を探り、精神の尻尾を捕まえようとして来る。

 そうして仲間を、いや下僕を創り出してゆくのだ、従順に命に従うものを。

 こんな相手に弱みを見せるのは、少々危険だろう。

 見れば周りに従う者たちの瞳は、奇妙に濁り、輝きが無い。

 虚ろにさまよう、それはまるで亡者の群れ。


 これはなるほど、貧民街にこもるはずだ。

 ここは街でも特に『心弱きもの』が集う場所。打ち捨てられた、敗残者の溜まり。

 そんな場所に網を張り、静かに息をひそめて、彼らは何をするつもりだろうか。


挿絵(By みてみん)「もう少し強めで行ってもいいけど、それは止めたほうが良いかな?」

挿絵(By みてみん)「そうだね。こちら、想定以上にココロ強き御仁のようだ。」


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「……流石は、抑圧されたタマシイの力をお持ちだ!」


挿絵(By みてみん)「…………」


 何だか再びイラつかされる。


挿絵(By みてみん)「それで? 何か変な力を持ってるのは分かったから、こちらの質問にも答えて頂戴。……あなたたちは『魔法』が使えるの?」


挿絵(By みてみん)「使えるのなら、取りあえず利用価値は有るわ。」


 呼吸を整えて、心のざわつきを抑える。面倒な交渉相手には必須の技能。


挿絵(By みてみん)「それはもちろん、ライヘンスターのお嬢さん。」

挿絵(By みてみん)「ええそうですよ、ライヘンスターのお嬢さん。」


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「……それで? あなたの望みは何なのかな?」


 相変わらず『こいつら』はゆらゆらとして捉えどころが無い。

 この期に及んでも、本音を出そうとはしていないようで。

 信頼出来ない交渉相手というのは、私を苛立たせる存在だ。

 商売に嘘はったりは付き物とは言え、持ってまわった言い方を私は好まない。


 まあしかし、そんなことはどうでも良い。取りあえず私は……


挿絵(By みてみん)「……まあいいわ。では私に協力しなさい、こんな所でくすぶってるよりはマシな筈よ。あなたたちには『利用価値』がある。」


 多分、恐らく、或いは


挿絵(By みてみん)「ライヘンスターが、後ろ盾になってあげるわ。」


 それは一つの、きっかけであったのだろう。



      * * *



 体の軸がぶれないように注意を払い、重心を滑らかに移動させて。

 腕を振るい、指先まで神経を張り巡らせる、動作はあくまでも優雅に。

 やや腰を落としてするりと動くのは、舞の基本動作の一つ。


挿絵(By みてみん)「そこで意識を外に向けて、魔法とは世界との対話。」

挿絵(By みてみん)「大いなる意思を、感じるのだ、考えるのでは無く。」


 合いの手に流れるのは、楽ではなく胡乱で不可思議な言葉。

 以前の自分であれば、それは騒音や攪乱と判じただろう。

 それでも体幹を崩さないように、気持ちを『そちら』にも少し向けてみる。


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「……ああ良いね、君には才能があるようだよ。」


 続いたその台詞に、私は満足げに口角を上げる。

 確としたものがある訳では無いが、自分の中の何かが繋がった感覚があって。

 或いは、これが『魔法』への糸口かも知れなかった。




 さて、取りあえず新規に雇い入れた『彼ら』について、利用法を考えてみた。

 魔法について色々と質問しているうち、では実際にやってみればという事になる。

 魔法使いの『指導』など受けるのは流石に初めての経験であった。


挿絵(By みてみん)「訓練を続けてゆけば、舞踊で魔力を制御出来るかも知れないね。」

挿絵(By みてみん)「ああ成る程、古代の儀式魔術にあった『練魔の舞』などそれに近いかな?」


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「……これは素晴らしい! 可能性が広がるよ!」


 陶酔と感嘆の台詞が漏れる。


挿絵(By みてみん)「面白がるのは勝手だけど、これって何か役に立つの? ただのお遊びなら、適当な所で止めにするわよ。」


挿絵(By みてみん)「とんでもない! こんな素晴らしいものに気付かないなんて。」

挿絵(By みてみん)「ああそうとも! この素敵な可能性が分からないなんて。」


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「…………ふむ、しかし、敢えて卑近な用途を示すのなら……」



 ――舞踊で他人を『支配』するなんてどうかな?



 奴らはそのとき、確かにニヤリと笑っていたのだ。



      * * *



 そしてアドルとパウルの二人が来て以降、事業が急速に発展していった。

 ともあれ口入屋といえば大勢の『有象無象』をまとめて動かす事が肝要なのだが、彼らの能力はそれに大変都合が良かったからだ。


『すなわち、薄弱な精神の人間を、多数束ねてこちらの言う通りにさせる能力。』


 この稼業、何が大変かと言うと、大勢の人間に指示をして従わせ、不満を吸収し、不正を防止し、そして一つの目標に向かって『まとめ上げる』という事に尽きる。

 それが、『意志薄弱で心弱いもの』に限るとは云え自在に制御出来るのだ。

 今まで苦労して来たことが、いとも簡単に成し遂げられる。

 従順で勤勉、扱い易い人間の群れは我が商会に充分な利益をもたらした。



挿絵(By みてみん)「……最初はうさんくさいと思ったけど、こうして見ると便利なものね。」


挿絵(By みてみん)「そうとも、統一された意思というものは、大いなるチカラなのさ。」

挿絵(By みてみん)「精神を止揚せよ、神聖なる御許に只一つのチカラとなるのだ。」


 相変わらず彼らの台詞は、意味不明なものが多いのだけれど。


挿絵(By みてみん)「ともあれ、この程度で満足してはいけない。」

挿絵(By みてみん)「そう、我々のチカラはまだまだこんなものではない。」


挿絵(By みてみん)「……ふん、怖いわね。そうやって手下を増やして、何をするつもり?」


 私が肩をすくめて皮肉を飛ばすと、彼らは曖昧に笑う。

 輪郭の無いにやにやとした笑いと共に、アドル、パウルは囁くのだ。


 祝すかなエイリア、御恵みは充ち満ちたり

 彼の王は共に在り、祝福はおんなの内にて

 されば身の内に宿りし果実に幸いを

 聖なるかなエイリア、いと尊きものの母よ

 祈れ我等罪人のために、今この時も、その死するとき迄


 僕らの願いはただ一つ

 この地上、世界の果て、沢山の沢山のもの、全部、それらゼンブ

 一つの色に染めてみたい

 一つの思いに染めてみたい

 一つの考えに染めてみたい

 一つの『信仰』に染めてみたい。


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「一つになった世界は、どれ程のチカラを我等に与えてくれるのだろう。その向こう側を、見届けるために」


 ……故に僕らは、地上に降りたのさ。



挿絵(By みてみん)「……あら、怖いこと。私も『そんなこと』の道具なのかしら?」


 その問いに対して、彼らは何も答えなかった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――



挿絵(By みてみん)「……では、条件としてはそんな所で。設備なんかの拡張はそちらの自由ですけど、装置は『必ず』ウチから調達すること、これをお忘れ無く。」


挿絵(By みてみん)「ええ勿論。委細、しっかりと心得ておりますわ。」


 眼前のレニ女史が微笑むと、私とキットは肩の荷が下りたような心地になった。

 やはり面倒ごとが片付くと、色々と気分が楽になる。


 さて本日、かねてより話し合っていた通り、私達の石鹸工場については大幅な経営形態の変更が行われることとなった。

 具体的に言うと、

 ・我々キット商会は経営の実質からはほとんど手を引くこと。

 ・工場経営は全面的にライヘンスター側に委ねること。

 ・生産設備(の心臓部)についてはキット商会のみが提供すること。

 ・生産技術に関してはキット商会の権利を認め、必要額の使用料を払うこと。

 といった所であろうか。


 投下していた資本に関しては、多くをレニ女史側が買い取ることとしており、これで私達は相当額の現金を確保することになる。

 例の懸念、『岩塩鉱山開発のための資金』について何とか目途が立ったのだ。


挿絵(By みてみん)「(うちがお金に困ってた、ってのは絶対内緒ですからね、ご主人様。)」


挿絵(By みてみん)「(……うん、分かってる。)」


 もっとも、この辺の事情については相手も薄々感付いている可能性は大なのだが。

 レニ女史は知ってか知らずか、ただニコニコと笑っていた。


挿絵(By みてみん)「いや、でもこれでほっとしました。やっぱり人繰りとか取り纏めとかはどうにも苦手ですので、ホント。」


挿絵(By みてみん)「あら、ご謙遜を。なかなか堂に入ったものでしたわよ。」


挿絵(By みてみん)「あはは、まあそれでも『何もしなくてもお金が入って来る生活』の誘惑には逆らえなくて。」


 これは半分お調子だが、残りは本音でもあった。

 働かずとも食える日々、古の伝説に曰くの『天上楽土の生』というものには、以前から憧れがあったのだ。


挿絵(By みてみん)「これでようやく、ゆっくりと出来ますよ。」


 私の本音まる出しの発言に、キットは少ししかめ面をする。


挿絵(By みてみん)「……ま、まあそれはともかく、これからはやっぱり頭ですね。知恵こそ成功の源ですよ。何と言っても、効率が良い。」


 一瞬、苦笑いのあと、


挿絵(By みてみん)「うちの『居候』の皆さんにも、次の商売のタネを考えさせないと。」


 キットは澄ました顔で述べる。


挿絵(By みてみん)「……ええホント、そちら様は『知恵者』ばかりで羨ましいですわ。」


 彼女の一見優しげな笑顔は、愛想なのか本心なのか区別がつかなかった。



 さて、先日キットとも話したのだが、私には一つ考えがある。

 今回のこれを契機に、私達の商会は少し方向転換をしてみようかと思うのだ。

 彼女も言ったように、これからは『頭脳』を売りにする事など、がそれだ。


 現状私達の周りには、奇妙な縁と変な偶然から『知識を持つ者』が集まっている。

 だからそれらを活かして、『何か新しいもの』を開発し売り出すつもりだ。

 だが、自分たちで人を雇ったり屋を構えたり物を作ったりはしない。

 あくまでも、それを生み出す『技術・道具』を提供するに留めるのだ。

 つまり面倒事はなるべく他所に任せて、我々はその上澄みを頂く算段なのである。

 その分『上がり』は少なくなるが、必要経費は圧倒的に少なくて済む。


 人を多く雇うのは、やはり『金がかかる事柄』なのだから。



 ふとした時、益体も無い考えにふけることがある。

 やはり人間というのは、何かにつけて『高くつく』存在ではないだろうか?

 一度抱えれば、最後まで面倒見る必要がある。

 牛馬のように非情にこき使うことも、野菜の苗のように間引くことも出来ない。

 情やしがらみ、その他色々と面倒臭いものがまとわりつく。

 それは浮き沈む『みずもの』である商売とは、何と相性の悪いことだろう。

 故に、純粋に効率だけ考えると『人間は極力減らすのが第一』という結論になる。


 思えば私達は、目的のために『魔法の』道具までも用意した。

 たかが石鹸を製造するために、識者を集め、知恵を絞ってまで。

 石鹸作りはやろうと思えば、職人や徒弟、下働きを駆使すれば実現出来る。

 だが私達は、敢えてわざわざ魔法の『道具』すら用意したのだ。

 それらは『そうした方がより儲かる』という商売の原理から来るもの。

 そう、純粋に効率だけ考えると『人間は極力減らすのが第一』という結論になる。


 ふとした時、益体も無い、恐ろしい考えにふけることがある。

 今はまだ、人が必要な、人でしか出来ぬ仕事は沢山あるのだろう。

 だがそれは、やがて頭の良い誰かが、ひどく冷静な誰かが、『人間』という一つの部品を超えるものを生み出すまでの『代替行為』に過ぎぬのではないか。

 人は頭が良い、人には知恵が有る、それはきっと良いことなのだろう。

 だがそうやって『頭の良い』私達は、やがて、


『私達自身すら必要としなくなるような、そんな便利過ぎる道具を生み出すのでは?』


 そんな気すらして来るのだ。

 純粋に効率だけ考えられた冷徹な世界、そこに私達の居場所はあるのだろうか。



 ……ふとした時、そんな、益体も無い考えにふけってしまうのだ。



      ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



挿絵(By みてみん)「……ふむ、なかなかですの。腕を上げたですの。」


挿絵(By みてみん)「うむ、いっぱい練習したのだ!」


挿絵(By みてみん)「うん、確かに。良い風味が出せているよ、ポンデ。」


 さて本日、練習の成果を見て欲しいとのことでポンデのお茶を頂くことにした。

 相当に上達した彼女の腕前は、確かに言うだけのことはある。

 最近は私も余裕が出来たので、家で過ごす時間が十分に取れるようになった。

 ゆとり、余裕、安寧、やはり人間らしい暮らしにはそういうものが欠かせない。


挿絵(By みてみん)「…………(ふう)」


 息をはき出すと、空気に柔らかさがより増えてゆくような心地。

 やはり、午後のお茶は良いものだ。


 ふと手元のカップを眺めると、そこにはツギハギの不恰好な紋様が走る。

 それは有名工房の元高級ティーセットが、破壊されて修繕されたなれの果て。

 まあ、普段遣いには十分だし、これはこれで味がある。

 軽く撫でまわし、手でもてあそんでいると、


挿絵(By みてみん)「ノーリ・テイクを普段遣いなんて、大した贅沢ですの。貴族並みですの。」


 ルミナの何気ない呟き、ここまでは良い。


挿絵(By みてみん)「魔法で破壊した『かい』が有ったですの。」


挿絵(By みてみん)「……(ぴきっ)」


 余計な一言言いやがった。

 我が家のメイド長、アデーレの額に血管が浮かぶ。なんか恐い。

 平穏で安らかなはずの食堂の空気が、一気に悪くなりました。


挿絵(By みてみん)「(……気まずい……)」


 途方にくれた気持ちで視線をさ迷わせると、玄関の方角から物音がする。


挿絵(By みてみん)「ご主人様、『来客』です……」


 そして少し当惑したような、キットの顔がそこにあったのだ。




挿絵(By みてみん)「……お久しぶりです。いつぞやはご迷惑をお掛けしました。」


 さてなるほど、キットの表情も当然だ。その来客とは『ラッド君』だった。

 彼は先日の魔法使い『交渉』騒動で、工場を辞めたはずの人間なのだから。


 さっと見た感じ顔色など特に問題無く、服装その他も荒れてはいない。

 足取りはしっかりしていたし、今も言葉は平静そのものだ。

 だが私は、そこに何故か『違和感』を感じ取った。


 思えば、彼の立場からは当惑や躊躇いなどあって当然のはずなのに、眼前の表情には全くと言っていいほどそれらは無い。

 不気味なまでに平然と、白々しいまでに冷静なものである。

 おかしい、何だろう、何故か、奇妙だ、不自然だ。

 確かめようと気配を探っていると、


挿絵(By みてみん)「…………お前、いったい何者ですの? 『変』ですの。」


 先にルミナがそれを言葉にしていた。



挿絵(By みてみん)「…………」


 彼はしばらくの間、朗らかな笑みを浮かべる、不自然なほどに。しかしやがて、


挿絵(By みてみん)「ああなるほど、これは、やはり……」

挿絵(By みてみん)「やはり、これは、誤魔化せない……」


 彼の喉から発している筈の、声は、何故か、不思議に、輻輳した響き


挿絵(By みてみん)「……これは流石は、聖女様。」

挿絵(By みてみん)「……やはり流石は、聖女様。」


 そしてそれは、いつか聞いた、不協和音の、きしむ声音。


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「やはり、いと尊き『天の御遣い』は誤魔化せない……!」


 間違い無い! それはあのとき、『学校』で聞いた二人のものだった。

 眼前の『ラッド君』の喉から、ありえない調子の二重の音声が流れる。


挿絵(By みてみん)「その声は! まさか……!」


 信じられない、信じたくない気持ちが音声となって現れる。


挿絵(By みてみん)「はい、その通りです、魔導師どの。」

挿絵(By みてみん)「ええ、お久しぶりです、魔導師どの。」


 目の前の『彼』は、それでも柔らかな微笑みを続けていた。


挿絵(By みてみん)「…………」


 ルミナは普段とうって変わり、細めた目に張り詰めた神経、緊張が感じられる。

 既に魔力は渦を巻いていて、攻撃態勢に入っているようだった。

 あまり良い傾向では無い、彼女はやり過ぎることが多いからまずは……



挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「……どうかお平らに、今日は『ご相談』があって来たのですよ。」


 すると機先を制するように、向こうからの弁明があった。




挿絵(By みてみん)「先ずは、軽く状況を説明しておきましょう。」


 柔らかな声で、説明が切り出される。

 それにしても、知った人間から全く別な音声が出ているのは違和感が凄まじい。

 今この瞬間が、在り得べからざるものと化したような心地になった。


挿絵(By みてみん)「さて、今我等は、"この者"の口を借りてあなた方と話をしています。」


挿絵(By みてみん)「まあちょっとした手品のようなものですね。大したものではありません。」


挿絵(By みてみん)「もっと早くお話をしたかったのですが、何しろこちらも」


挿絵(By みてみん)「何しろこちらにも、準備などありまして、色々と。」


 滔々とした台詞は続く。


挿絵(By みてみん)「本来ならば我等自ら伺うところですが、その辺は」


挿絵(By みてみん)「その辺は、どうかご容赦を願います。」


挿絵(By みてみん)「ええどうかご容赦を、これは一つの護りの術、何しろ」


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「何しろ我等には、敵が多い……!」



挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「…………」


 相変わらずのふらふらと漂うような言の葉で、少しイラとした感情が流れる。

 その場に居る私達――私、アルスラ、キット、ノノワ、ルミナ、ポンデの顔に、やや渋いものが表れた。


挿絵(By みてみん)「それで? 早く本題に入りましょう、『相談』とは?」


 先に進めるためにも、話を急かせてみる。


挿絵(By みてみん)「……これは失敬、話を戻します。」


挿絵(By みてみん)「それで、我々はこれまでレニお嬢さん……ライヘンスターに合力して活動を行って来ました。」


挿絵(By みてみん)「ライヘンスターが、我等の『後ろ盾』となってくれたのです。」


挿絵(By みてみん)「ええ、『とある目的』の為に。利害が、一致したのですよ。」


挿絵(By みてみん)「そう、実に幸運なことに、一致したのです。」


挿絵(By みてみん)「……」


 この時点で疑問が幾つも湧いてくるが、敢えて沈黙を保つ。


挿絵(By みてみん)「ライヘンスター……商会の目的は、これは単純ですね。それは『現世の利益』に決まっています。」


挿絵(By みてみん)「ええ、実に単純……彼女らにとっての価値は『黄金』と決まっています。実に単純で、まことに羨ましい。」


挿絵(By みてみん)「羨ましい……『価値が単純』というのは、本当に羨ましい。」


 その表情は、羨望のようにも見えた。


挿絵(By みてみん)「そして我等の場合は、少々面倒なのですよ。我等は『人間を集めたい』。」


挿絵(By みてみん)「そう、『人間を集めたい』……何とも、実に、面倒なのです。」


 その表情は、苦笑のようにも見えた。


挿絵(By みてみん)「およそ、金が集まるところ、人が集まる……」


挿絵(By みてみん)「そして、人が集まるところ、『力』が集まるのです。」


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「我等の求めるは、大いなる『力』……世界を塗り替える、超越の力! 比類なき力、全能の力、無慈悲なる力、神聖なる力、祝福されし力……!」


 その表情は、陶酔しきったものに見えた。


挿絵(By みてみん)「偏に我等の求むるは力、そして、」


挿絵(By みてみん)「そしていまや、時は至れり……。」



 そしてここで声音が変わる。

 陶酔、興奮、熱気、そういうものが急速に冷め、静かな湖面のようなものとなった。


挿絵(By みてみん)「さて、ともあれ我等の『準備』は整いました。」


挿絵(By みてみん)「しかり、『求めるもの』は充分に集まりました。これよりは、」


 一瞬、時が止まったような空白。


挿絵(By みてみん)「これよりは、『収穫』と参ります。」

挿絵(By みてみん)「その通り、『収穫』へと至ります。」


挿絵(By みてみん)「……収穫? 何のことで……」


 話についてゆけず、つい疑問を挟む。だが、


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「……これよりライヘンスター商会は、本格的に『評議会の掌握』を図ります。キット商会の皆様には、決して『損をさせる』ような事は御座いませんので、どうかご安心を。皆様方にはお静かで居られることを希望致します。」


挿絵(By みてみん)「評議会の、『掌握』……?!」


 キットがうめくような声を出した。


挿絵(By みてみん)「ええそうです。敵対者を排除し、利益の最大化、権力の拡大を図ります。当然、協力者には十分な『恩恵』を。」


挿絵(By みてみん)「皆様方は、ただ『ご静観』なされるだけで結構。偏に我等の望みはそれだけなのです。」


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「……全ては、我々のみで行います、ご静観を。」


 慇懃な礼がそれに続いた。


挿絵(By みてみん)「…………」


 私は、言葉に迷う。


 胡乱な言葉で半分以上誤魔化されているが、内容は穏やかでは無い。

 評議会を掌握して権力の拡大とは、随分と『おおごと』ではなかろうか。

 それでわざわざ私達に「静かにしていろ」というのもよく理解出来ない。

 とにかく、状況を整理して確認をすべく、問いかけを……


挿絵(By みてみん)「そうそう、『排除』と言っても別に手荒な事をする訳ではありませんよ。」


挿絵(By みてみん)「ええ、我等は今『商会』の一員、あくまでも『平和裏・経済的』にです。」


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「……無論、ご協力の皆様には十分な御礼をさせて頂きますので。」


 そこで機先を制するように、優しげな言葉、柔和な笑顔。

 少し、空気が和らいだ。


挿絵(By みてみん)「……そ、それならば……」


 つられて、同意をしそうになる。


挿絵(By みてみん)「お兄様……気を付けるですの。」


 だがここで、決然とルミナが言葉を挟んだ。




挿絵(By みてみん)「こいつら……絶対何か企んでるですの、怪しいですの、要注意ですの。」


 ルミナの厳しい横顔が、警告を口にする。


挿絵(By みてみん)「…………」

挿絵(By みてみん)「…………」


 そして『彼ら』はしばしの沈黙。やがて、


挿絵(By みてみん)「やれやれ、随分な言い草ですね……聖女様。」


挿絵(By みてみん)「その通り、あなたに其処まで言われたくはありませんよ、聖女様。」


 ここで初めて、彼らの『苛立ち』のようなものを感じる。


挿絵(By みてみん)「……そもそも、あなたがそんなだから!」

挿絵(By みてみん)「……そうとも、お前がそんな有様だから!」


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「我等がこうして、『穢れた世界』に降ろされたのだ……!」


 強い口調、そこには明らかな憤怒の感情が現れていた。

 彼らは弾劾する。


 嗚呼、いと尊き聖女よ汝は何故、聖なる使命を忘れ俗世の穢れに塗れるのか。

 天上よりの崇高なる遣い、その尊き誓いは今何処にありや。

 汝の目的は偏にただ天使の御業をふるひて、光の供物を天に届くることにあり。

 徒に力を無為に施し、己の欲が侭に為すは、其れ断じて正道に非ず。

 其は、天への背信行為であらん哉、或いは汝、尊き使命を忘れし哉。


挿絵(By みてみん)「……聖ルウテルさまにおかれては、いたくお怒りのご様子。」


挿絵(By みてみん)「その他の方々にも、聖女様の所業『天の御遣い』にあるまじきものと。」


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「故に我等は、天を追われて……!」


 丁寧な言葉の端々に、それでも憤りの感情が見え隠れする。だが、



挿絵(By みてみん)「はっ……!! 下らないですの、そんなもの、そんな奴ら!」


 全てをばさと切り捨てるような、ルミナの台詞であった。


挿絵(By みてみん)「ルミナは『天使長さまに』、直接言われているですの……!」


 この地上、生きとし生けるものの世界を、君の目で見てまわれ。

 広い広い世界を巡り、君の頭で考えるのだ。

 思うがままに生き、君が世界をかきまわせ。

 心のままに動き、君が世界を変えてゆけ。

 私達の『愛する娘』よ、君にはその資格がある。

 好きなように世界を遊び、好きなように世界を楽しめ。


挿絵(By みてみん)「……『君が幸せであるように』、それが、天使長さまと先生の意思ですの。」


挿絵(By みてみん)「だから……ルミナは自由に、生きるですの!」


 毅然とした彼女の横顔は、とても大人びて美しかった。



挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「…………」


 再び『彼ら』が、しばしの沈黙を示す。そして、


挿絵(By みてみん)「……やはり、言っても無駄のようですね。」


挿絵(By みてみん)「その通り、我等とは何処まで行っても平行線……」


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「ならば……!!」


 魔力が渦を巻く。


挿絵(By みてみん)「『天使の護り(ガードオブエンジェル)』! 余計な事をしても、無駄ですの!」


 ルミナは直ちに反応した。何かの防御が周りに張られている。


挿絵(By みてみん)「お前たち如きの『力』……私には通用しないですの。」



挿絵(By みてみん)「……やはり、さすがは、聖女様。」

挿絵(By みてみん)「……その通り、お見事です、聖女様。」


 一瞬、力が抜ける。だが次に、


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「しかし、『手立て』はこれだけでは、無いのですよ……。」


 ゆっくりと、両手が広げられた。


 …………



 少しの沈黙、そして次第に音が大きくなる。

 何だろうかと思った。やがてそれらは外から響いて来る。


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「………………」

挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「………………」

挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「………………」


挿絵(By みてみん)「ご主人様! 外に人が……!」


 慌てて窓から様子を伺う。そこには既に、大勢の人間が集まっていた。


 敷地をぐるりと取り囲むように、大勢の人間が立っている。

 何処から集まったのか、年齢も、格好も様々で統一性が無い。

 包囲は十重二十重で、既に一分の隙も無いように思われた。


挿絵(By みてみん)「これは……」

挿絵(By みてみん)「っ……!」

挿絵(By みてみん)「何て数……!」

挿絵(By みてみん)「むう……いつの間に」


 不安を覚え、少し喉が渇く。

 改めて観察すると、取り巻く人間たちの瞳は虚ろで生気というものが失せている。

 動作も見るからに緩慢で、その様子は、まるで……


挿絵(By みてみん)「まるで……ゾンビのようだな、あれは……」


 独り言が口をついて出た。



挿絵(By みてみん)「我等が一声命じれば、あの者達はすぐにでも襲い掛かるでしょう。」


挿絵(By みてみん)「……この程度! まとめて吹き飛ばすぐらい訳無いですの!」


挿絵(By みてみん)「おお! 流石聖女様は勇ましい。」


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「罪無き大衆にも遠慮無く力を振るいますか、これは恐ろしい!」


 呵呵とした哄笑が口をつく。


挿絵(By みてみん)「…………(ぎり)」


 ルミナが歯軋りをした。髪の毛も逆立っている。

 いけない、このままだと本当に彼女は暴発するだろう。

 こんな街の真ん中で、『いつかの時』のような惨事を起こされてはたまらない。


挿絵(By みてみん)「……待ってくれ、ならば君たちの言う通りにする。」


挿絵(By みてみん)「お兄様!」

挿絵(By みてみん)「主様!」


挿絵(By みてみん)「静観すれば……約束を守ってくれるのだよな?」


 少しもやもやするが、今はそれしか無いと思われた。


挿絵(By みてみん)「おお、流石は魔導師どの、話が早い。」

挿絵(By みてみん)「ええ、流石は魔導師どの、慧眼です。」


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「我等も今は商会に属するもの、『契約』は厳守を致しま……」


 何故かここで言葉が途切れた。そして……


挿絵(By みてみん)「……ぐ、ぐうう……出て行け! ぼ、僕の中から出て行け……っ!」


 彼『本来の』声が聞こえる。


挿絵(By みてみん)「……ぐあああーーっ!!」


 叫び声と共にラッドが立ち上がり、やがてその場に崩れる。


 …………


挿絵(By みてみん)「ご主人様! 外の人達が……!」


 窓の外を見れば、包囲の人影がのろのろと散って行った。

 緊張した空気が次第に弛緩してゆく。



挿絵(By みてみん)「…………ふう」


 私は息を吐き出し、椅子の背もたれに深く体を預けるのであった。



      * * *



 あの後、ラッド君はずっと眠ったままであった。

 詳しい事情を聞きたかったのだが、今は無理なようだ。


挿絵(By みてみん)「……さて、問題は『これからどうするか』だね。」


 ともあれ現在、皆を集めて相談を行っている。


挿絵(By みてみん)「まずは……あの魔法?――能力はいったい何なんでしょうか? 『不特定多数の人間をまとめて操る』なんて、怖ろしいどころじゃ無いですわ。」


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)「…………」


 その場に居るほぼ全員――私、アルスラ、キット、ポンデ、シルヴィが頷いて同意を示した。

 唯一の例外、ルミナは述べる。


挿絵(By みてみん)「あれは『支配の言霊』……本来『大したこと無い力』のはずですの。薄弱な意思の者を、どうにか操ることが出来る程度のもの、しょぼい力ですの。」


挿絵(By みてみん)「……でも、あれだけの人数を、集めてましたよね……。」


挿絵(By みてみん)「まさに、『数は力』だね。」


 場を沈黙が支配する。


挿絵(By みてみん)「と、取りあえず……『静観しろ』とのことでしたから、今は待つしかないのでしょうが。」


挿絵(By みてみん)「……ちゃんと約束を守ってくれるかどうかが、心配ですわね。」


挿絵(By みてみん)「むう……待ってるだけは苦手なのだ。」


挿絵(By みてみん)「…………」

挿絵(By みてみん)「…………」



挿絵(By みてみん)「……いや、何となくだが、その辺は心配要らないような気がする。」


 不安を払うべく、私は考えを述べる。


挿絵(By みてみん)「彼らは……『契約』『相談』『約束』と言っていた。どうもそういう原則事や決まり事をやたらと尊重しているような雰囲気がある。」


 原理原則、建前を重視し、契約を厳守する。それはまるで……


挿絵(By みてみん)「その行動原理は、『神聖なる属性』のもの……そうだろう、ルミナ?」


挿絵(By みてみん)「……!!」


 ルミナの目が見開かれる。


挿絵(By みてみん)「……そうですの。あいつらは間違い無く『天の御遣い』、私と同類ですの。」


挿絵(By みてみん)「…………」


 ルミナの言葉に、シルヴィの顔が曇った。


挿絵(By みてみん)「あいつらは『人を集めている』と言ったですの。でも、人を集めて何をするかはルミナには分からないですの。」


挿絵(By みてみん)「まあそれを言うなら、『天の御遣い』とやらが商売に手を出してどうすんだって話でもありますけど。」


 キットの軽口に、少し空気が和らぐ。



挿絵(By みてみん)「……ともあれ、何とか時間が稼げたんだ。今はとにかく、彼らの『能力』にどうやって対抗するか考えるとしよう……。」


 私の言葉に、皆が同意する。

 またこれから、忙しくなりそうだった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――



挿絵(By みてみん)「……それで? 話し合いは平穏無事に済んだんでしょうね? 私はアインライト様と敵対する気は無いから、そこは分かってる筈よね。」


 今更ながら念を押す。彼らは今一つ、信用ならないのだが。


挿絵(By みてみん)「ああ勿論大丈夫、問題無いよ、問題無い。」

挿絵(By みてみん)「その通り、全く何も、問題は無い。」


 軽い調子の、応えが返った。


挿絵(By みてみん)「まあいいわ……それではこれより、我がライヘンスター商会は勝負に出ます!」


 私は、(まなじり)を決して前へと進む。




挿絵(By みてみん)「一世一代の晴れ舞台よ! 皆、気合を入れなさいっ!!」


 自分自身に言い聞かせるように、私は語気を強めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ