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 レジャーランドへ行くと決めてから、私の心は浮ついていた。

 弘樹がなぜレジャーランドへ行きたがったのか、その目的がなんであるのかは分かっているつもりだが、……家族で出かけるのは久しぶりなので興奮しているのだ。

 このあいだこっそり家のパソコンを使ってそのレジャーランドを検索したのだが、評判のいいこといいこと。それにだれかのブログに載っていたそのレジャーランドで食べられるものがとても美味しそうで、よだれが垂れてしまった。受験勉強や将来のことや家族のことで悩んでいた私にとっては、思っていた以上にストレスを発散できる機会になるかもしれない。

 もちろん、弘樹にせがまれてしかたなく行くことを決めた風体を装っている私は、そんな姿をだれにも見られないように細心の注意を払っていたが……。

「どうしたの、ずいぶんと機嫌がよさそうじゃん?」

 休み時間、いつものように窓の外をぼんやりと眺めていたら、誰かが空いていた前の席にドカリと座り込んだ。視線だけ向けると、千賀がこっちを見てニヤニヤしていた。

「べつに、そんなことはないけど」

「嘘おっしゃい、顔が笑っていますぞ」

 どうやらネットで調べたことを思い出していたのが、顔に現れていたらしい。それにしても窓のほうへ顔を向けていたのに気づくなんて、……目ざといやつだ。

「べつに言うほどでもない。ただ、今度の休みにレジャーランドへ行くんだよ」

「レジャーランドってどこの?」

「ほら、CMでよくやっているところ」

「ああ、あそこかあ。あそこって、すっごく楽しいって有名だよねえ。なるほどね、それで楽しそうな顔をしてたんだ。もしかして、そのレジャーランドで遊びまわっている自分の姿を想像していたら口もとがにやけてしまったってやつ?」

 く、くそう。間違っていると言えないところが、なんともムカツク。

「べつに、にやけてない。勘違いすんなし」

「はいはい、強情なんだから。ヒナミの面目を保つために、一応はそういうことにしといてあげますよ。でもさあ、なんで急に行くことが決まったの? あ、待てよ、……そういえば今度の休みって弟君の誕生日じゃなかったっけ?」

「たしかにそうだけど、なんで千賀が弘樹の誕生日を知ってるのッ?」

 教えたつもりはないのに、どっからその情報を集めたのだろうか。もしかして、弘樹の情報を集めるためにスパイみたいなことをしてるとか……。いやいやそんなことは、と首を横に振れないのが友達として辛い。

 気にしない、気にしない、と千賀はテキトーに手を振りながら笑っている。

「そんな細かいことはべつにいいじゃん。とにかく弟君の誕生日プレゼントとして、レジャーランドに行くってことでしょ」

「細かいって、問い詰めたいことはたくさんあるんだけど――」

「誕生日にレジャーランドへ行きたいなんて、弟君らしいね。でも、ヒナミがそれに賛同するっていうのは意外だなあ。待ち時間が長そうなものとか、ヒナミは嫌いだと思っていたけど」

「なにを基準にしてそう思ったの?」

「なにって、顔とか、勘とか」

「顔と勘って、……そんなもので人の価値観を決めないでよ。たしかに自分から進んでレジャーランドに行きたがる性格じゃないけどさ、今回はちょうどいい機会かもしれないと思って、弘樹の我儘に乗ってやったってわけ」

「ちょうどいい機会って?」

「ほら、家庭事情とかストレスの溜まることがいろいろあったから」

 弘樹がレジャーに行きたがるのは、きっといまのぎくしゃくした家族の関係を少しでも修復したいと思ったからだろう。

 レジャーランドという家族定番の場所へ行くことで、最近少なくなった家族の交流を増やし、同時にママとパパのあいだにできた溝を元通りにしたい。心の優しい弘樹だからこそ考えつきそうな、思いやりに満ちたアイデアだ。

 また、最近憂鬱気味な私にストレスを発散してもらいたいと思っていたらしく、……ベッドに寝転がって電気を消したときにこっそりと教えてくれた。まったく、私にとってもったいないほどできた弟だと思う。

 せっかく行くのだから昔みたいに家族みんなで楽しく行こう、というのを私と弘樹の隠れた目標としてちゃくちゃくと計画を進めているのは、まだみんなにはヒミツだ。

「うーん。あの弟君がただレジャーランドへ行きたいって言うとは思えないし、――はっ、もしかして。もしかすると弟君は、ヒナミが疲れていたり家族の関係が上手くいっていなかったりしているからこそ、レジャーランドへ行ってみんなを癒したいと思ったのかな?」

「でしょうねえ」

「うわあ、いつ聞いてみても弟君って健気でいい子だよね」

「まあ、私にとっても自慢の種だからね」

「あたしの姉妹なんて、あたしの誕生日なのに一切祝ってくれないからね。それどころか、ケーキのデコレーションのチョコあるじゃん、あれを誕生日でない姉が奪っていくこともあるんだから。ほんと、弟君の爪の垢を飲ませて、思いやりというものを知ってもらいたいよ」

「あのさあ、千賀んちってどういう暮らしをしているのよ」

 お菓子ひとつで大ゲンカをしたり、誕生日なのに祝うどころかそれに便乗したり、……千賀んちの家族事情は私からしてみたら戦場みたいなものかもしれない。

 千賀は姿勢を正し、両手を添えてその上へ頭をつけた。彼女のご両親に娘さんをくださいとお願いをする彼氏みたいな格好、きっとアニメやドラマで見よう見まねで覚えたのだろう。

「いきなりどうしたの?」

「お姉さま、弟君と結婚させてくれませんか? あたし、この度の話しを聞きまして、自分自身に似合う相手がだれなのかを検討した結果、お姉さまの弟が――」

「却下」

「早い、早いよッ、いったいなにが問題なのさッ」

「人格、性格、その他もろもろ。あんたに弘樹を渡すくらいだったら、弘樹には一生独身を貫いてもらったほうが幸せに暮らしていけると思っているから」

 ぐぬぬ、と唇を噛みしめている千賀を鼻で笑ってやる。つーか、小学生に欲情している中学二年生って、将来的にいろいろとますいのではないだろうか。


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