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私、春花。地縛霊よ

「なんでお前って彼女いないんだ?」


 そう言ってコンビニのパンを頬張る友人に、俺はささやかな怒りを込めて返してやる。


「リア充の増田クンにわからなくて、俺なんかにわかるわけがない」

「こりゃ失敬」


 クソ面白くもないコンビニバイトを終えて、寄るところもない俺と増田はまっすぐ家へ向かう。パンを食べ終えた増田はちっとも失敬と思ってない顔で携帯を弄っている。どうせLINEか何かで、相手は絶対彼女だ。せいぜいそうやって浮かれてるがいい。いいか。女なんてな、所詮子作り本能に逆らえないメスなんだよバーカ。


 山に囲まれてるわけでもないのに坂道だらけの地元にも愛着が湧いてきた19歳の秋。

 20歳を目前にして、俺には彼女がいない。


 ニタニタと気持ち悪い笑顔全開で電話を始めた増田に別れを告げ、1人で歩く。着いたのはぼろっちいアパートの202号室。ここが俺のマイホーム。ドアノブに差し込んだ鍵を回し、靴を脱ぎ、真っ暗な廊下を歩いて、真っ暗な部屋に入る。電気を点けると、汚ねぇ布団、埃を被った本棚、飲みかけのコーラ、丸まったティッシュ、遊ばなくなったPS3が俺を出迎えてくれた。とても賑やかな部屋だ。女など居なくても寂しくはない。その代わり楽しくもない。こんなことを思う毎日にも慣れた。

 サビが目立ってきたシャワーから貴重なガス代と水道代の産物であるお湯を垂れ流し、安物のシャンプーと石鹸で髪と体を洗う。風呂には長いこと入ってない。ガス代と水道代の無駄だ。体についた泡を落として、穴の空いたバスタオルで体を拭く。夏ならこのまま全裸で布団に寝転がるが、最近冷えてきたため下着とスウェットを身に纏う。ドライヤーは使わない。電気代の無駄だ。適当に髪も拭いたところで、部屋に向かう。


「…っ…ふぅ…」


 好きでも何でもない女子高生の汚ねぇセックスでオナニーをする。この動画にも飽きた。丸めたティッシュを、部屋の隅に置いたゴミ箱に向かって投げる。入らなかったが、拾って再度捨てるのも億劫なのでそのままにしておく。本日20本目の煙草を吸い、電気を消して、掛け布団を被って眠りにつこうとする。が、なかなか眠れない。2時間前に増田に言われた言葉がなんとなく気になっているせいだとすぐにわかった。


「…なんで俺には彼女がいないんだ?」


 声に出したところで誰も答えない。この部屋には、俺しか居ないのだから。


「そんなのわかりきってるじゃない」


 おかしい。女の声だ。しかもどうやら俺の独り言に返事をした。目を開き横を向くと、携帯の明かりは点いていない。先程の汚いクソビッチの声ではないとわかった。安心したところで再び目を瞑る。眠りかけに夢を見ることはよくある。それも現実と見分けのつかないリアルなやつだ。


「携帯が返事なんてするわけないでしょ」


 嗚呼、やはりこれは夢だ。それならば声の主が俺の心を読んだとしても不思議ではない。夢なんだからなんでもありだ。


「…いっでぇ!!」


 頭に激痛が奔り、思わず飛び起きる。何事かと周りを見渡すと、真っ暗で何も見えないはずの俺の部屋に、恐ろしく可愛い女が立っていた。


「あら、可愛いだなんて。心の中はずいぶん素直ね」


 19年間の人生で最も奇妙な瞬間に出くわした俺に、その女は続けてこう言った。


「私、春花。地縛霊よ」


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