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転生者の回想

この話から一人称になります。



 転生、って知ってますか。

 俺は知ってます。

 生まれ変わるっていうことです。


 でも普通、生まれ変わると前世の記憶は消えてしまうものなんですよね。

 俺は覚えてます。

 平成に生まれて、まだ未成年。 享年は十七。

 名前は木城 有也。 ありなりと書いてありやと読みます。

 女っぽいような男っぽいような。

 まあ嫌な感じの名前でもないし苛められもしなかったので、大して気にすることもなく生きてきました。

 優等生では無かったけれど不良でもなく。

 クラスに一人は居る、友達はそこそこ居て中心の近くに居るような奴。

 それが俺です。

 募金箱があれば募金してしまうし頼まれたら断れない、ポイ捨ては出来なくて落書きもした事が無い程度にお人好しの自覚はあります。


 こんな平凡な俺ですが死に方だけは派手でした。


 死に方に派手も地味もないし、それに地味って言われれば地味かもしれない。

 とりあえず俺の死因は、頭上から降ってきた鉄骨に直撃したことでした。

 高さ十メートル以上のところに吊り上げられていた鉄骨が機械の誤作動なのか点検ミスなのかで落ちてきたのでした。

 その真下にたまたま居たのが俺で、痛いとか思う間もなく死んでしまった。 本当に運が悪かったのです。


 死んですぐ、俺は俺を見ていました。

 透けている俺が居て、そんな俺は血を流しながら転がっている頭が変形してる死体の俺を見下ろしていた。

 つまり幽体離脱ですね。

 自分が死んだと気付いたのはたまたま目撃してしまった女子高生や小学生がギャーギャーと叫び、顔を真っ青にした現場の人っぽい人が慌てながら救急車を呼んだ時でした。

 死んだと気付いても特に俺自身は慌てませんでした。

 『ああ死んだんだな』っていう、自分でもよく分からない納得の気持ちがあった。

 何よりも気になったのは、この関係者っぽい人達がテレビで『杜撰な管理体制により起きた悪夢』の犯罪者として扱われるのが可哀想だなっていうくらい。

 もちろん責任はあるんだろうけど、こういう時テレビは必要以上に言うんだろうなあ、と思いました。

 もしもこの人達の家族にまで余計な被害があったら死んでも死にきれません。 死にましたけど。


 不思議と、家族のことは気になりませんでした。

 両親が居て妹が居て、あと愛犬の『タケシ』が居たくらい。

 ごく普通の家族でそこそこ楽しかったけど、そんな大切な家族の心配は何も無かったのです。

 未練が無いってことでしょうか。


 救急車が来て、俺の身体に聴診器みたいなのを当てた救急隊員が『残念ですが』とばかりに首を横にした時、俺の意識は途絶えました。


 次に気がついた時、なんと俺は転生していました。

 生まれたばかりっぽい赤ちゃんになっていたんです。

 一瞬走馬灯でも経験してるのかと思いましたが、文字どおりそこは知らない天井でした。

 病院でも俺の部屋でもない、なんか日本離れした感じのところに俺は居ました。

 身動きしたくても上手く動けない俺を見て笑う、ちょっと神経質そうな女の人とか、なんか偉そうな男の人が居ました。

 その二人が俺の両親。

 なんと俺には双子の妹と、一つ上の兄も居ました。


 それだけならまだ良かった。


 なんとなんと、ファンタジー世界だったのです。

 剣と魔法な、ファンタジー。

 ドラゴンだって普通に生息している、皆が一度は憧れたあのファンタジー世界。

 俺はその世界で、結構凄い魔法の力を持った先祖が居たらしい貴族の長女として生まれました。

 名前はアリシア・ディール・ウィレズニア。


 …………。


 もしも神様が居るなら聞きたい。

 なんで俺を女にしたし。


 そう、俺は男。 なのに身体は女。

これぞまさに『生まれる性別を間違えた』。

 転生するのはいい。

 その先がファンタジーなのはいい。

 でも、なんで女にしたし。

 しかも見れば見るほど将来有望そうな可愛い顔だった。

 ふわふわな銀髪と紫色の目。 上手くすればとんでもない美少女になるかもしれない。

 俺が女だったら、それなりにショックを受けつつも可愛い顔に喜んだだろう。

 でも俺は男だ。

 『可愛い』と言われて喜ぶ男が居るか、いや居ない。

 男なら『イケメン』を目指したい。 これ普通。


 神様が居るなら聞きたい。


 なんで女にしたし。

 そして、なんで男としての前世の意識を残したし。


 片方だけならまだ良かった。

 男の身体に男の心。 これ普通。

 女の身体に前世の記憶無し。 問題なし。

でも俺は女の身体で、心は男だった。


 『ひゃっほう女の身体だ胸触り放題だぜひゃっほう! 女の生着替え拝み放題だぞひゃっはー!!』とふっきれるには、俺の良識が邪魔をして無理だった。

 しかも俺は貴族の長女。

 三歳の時には既に婚約者が居た。 そいつは当たり前だが男だった。

 男と恋愛、はなくてもエロい事をしろと。

 なんの罰ゲームだ。

 俺はホモじゃない。 よって合法的に男とヤれるなんて言われても全く嬉しくない。

 女が好きだ。 胸は無いよりあった方が嬉しい。

 でも、身体は女だ。


 どうしろってのか。


 一生処女で居ろと。

 脱処女する頃には俺はおかしくなってるんだと思う。


 とりあえず、神様が本当に居るなら一発殴らせろ。


 吹っ切りたくても吹っ切れないので、仕方なく女として生きる事にしたつもりだった。

 でも現実はそう甘くない。

 この世界の『人間』と呼ばれる種族の子供が生まれつき魔法が使えるということはまず無い。

 いや有り得るらしいが、そういうのはよっぽどの天才だそうだ。

 大体の子供は魔法が使えないまま成長し、早くて二歳、遅くて六歳で魔法の才能が開花する。

 だが俺は、六歳の誕生日を迎えても魔法の才能は開花しなかった。

 子供は権力のための道具程度にしか思っていない新父は当然キレた。

 いつものヒステリー起こしちゃった新母もキレた。

 『正義』とかなんとか突っ込み所満載な事を色々叫んでたけど要するに『お前は要らない』扱いされた。

 そして俺はリョナラーしか喜ばないような展開を迎えつつ、森に捨てられてしまったわけだ。


 いや、普通に殺されると思いましたよ。


 でも死体の処理が面倒らしい。

 両手両足の骨折られて更に縛られて動けない六歳の俺は、なんかよく分からんところに捨てられました。


 無理矢理気絶させられたせいでよく覚えてない。

 当然道も覚えてない。 それが目的だろうけど。

 仮に気絶させられなかったとしても身体が痛すぎて覚えてられなかったんじゃないだろうか。


 さて問題。

 色々と不運な俺は、今何処に居るのでしょうか。


 一、誰かの胃の中。

 二、森の中。

 三、洞窟の中。

 四、よく分からない暗い場所。


 一は絶対嫌だよな。

 正解は三だ。

 目が覚めた俺は、よく分からない洞窟の中に居た。

 ただの洞窟じゃない。

 土の中に穴を掘ったみたいなのじゃなくて、黄土色の石が天井やら壁やら床やらを覆っている。

 どこかで水が滴るような音もした。

 正真正銘の洞窟だ。 これがゲームならボスが出てくるんだろうな。

 俺が居るのはその洞窟の中の行き止まりのような場所だった。


 何故俺が暗いはずの洞窟でそういう事をはっきりと認識しているのか。

 実は光っているからだ。 俺がじゃなくて。

 床に白く光る物体が落ちていた。

 光の明るさは懐中電灯くらい。

 しかもそれ自体が発光しているようで、懐中電灯の全体バージョンといったところか。

 そのおかげで普通の部屋のような明るさの中、俺はなんとなく冷静に判断する事が出来ていた。


 此処はボスが登場しそうな洞窟だが、何かの巣ではないらしい。

 あいつらがわざわざ運んだのだろうか。

 なんとかの森とか言ってたのに。

 まあファンタジーだから、森は洞窟の事を言ってたのかもしれない。


 とりあえず俺は光る物体に手を伸ばす。

 そして気がついた。 俺、手が動く。


 骨折であって神経がおかしくなったわけではないのだから手が動くのは別におかしくない。

 でも痛くないのはおかしい。

 右手左手、ついでに両足。 普通に動くし、痛くもない。

 縄の食い込んだ後が残っているから骨折は気のせいじゃない。

 じゃあ、なんで。

 分からない事がいっぱいだが、気にしていても仕方ない。

 案外あの覆面男とかが『可哀想だな』って折れたように見せかける魔法でもかけたのかもしれないし。

 痛かったのは、敵を騙すならなんとやらだ。


 俺は物体を拾った。

 それは羽根だった。 光は強いが目に優しい感じに光っている。

 鳥の羽根だと思うがインコとかオウムレベルじゃない。 明らかに鷹とか鷲とか、そういうデカイ鳥の羽根だ。

 もしかしたらそれよりデカイ鳥かも。

 羽根のサイズは大体三十センチ。

 翼の中でも結構デカイところが抜けたんだろう。

 なんで光ってるかは、不明。

 持ち主が見当たらないのでありがたく持ち運ぶ事にした。




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