第三部
水無月高校のLHRは昼休み前にある。
そのため文化祭などのイベントの準備のときは、昼休みの時間も使って、長時間活動することが多い。メシ抜きで頑張る人もいるが、ほとんどの人が早弁をしたり、携帯食料を用意して合間合間にエネルギー補給をしたりする。
先生方もその活動については認めており、どうせ長時間活動するならと、文化祭準備のLHRと昼休みだけ校外に出ることを許可していたりもする。もちろん次の授業に遅刻などをすれば、相応のペナルティーを課せらるが。教育熱心な先生だと、この時期用に宿題プリントを大量に用意して、遅刻した生徒にプレゼントしている。
黄緑さんの話だと、藤岡クラス委員長はLHRの初めのころに、登校中に買うつもりだった小道具を買い忘れていたことに気付き、急いで自転車をかっ飛ばしてコンビ二に行った。だけど戻ってみたらポケットに入れといたはずの、うちのクラスが文化祭準備に使っている倉庫の鍵をなくしてしまっていたらしい。
水無月高校から最寄りのコンビニまでの間には柳場公園があるくらいで、藤岡クラス委員長曰く、コンビニに着いたときにはポケットの中には鍵があったが、教室にもどったときにはなかったらしい。鍵が落ちた金属音は聞こえなかったから、なくしたとなれば柳場公園の何処かで引っ掛けたくらいだろう、とのことだ。他の人なら信用できないが、耳がいいことが取り柄の藤岡クラス委員長だからこそ、通用する言い分だろう。が、
「なら自分で探せばいいのに……」
「しょうがないじゃん、委員長なんだから。藤岡くんがいなかったらうちのクラス、全然まとまらないでしょ」
「それは、そうだけどさ……」
「何かと不運だしね」
「それはそうだ」
ははは、と乾いた笑みがこぼれる。藤岡クラス委員長が鍵を探そうとしたら、鍵は見つかるが、運悪く別のものを何かに引っ掛けて失くしたり、運悪く道端にあったバナナの皮に躓いて、盛大に怪我をする可能性がある。どこかの幻想殺しさんと違って、不幸ではなくとにかく不運なのだ。それでもクラス委員長の仕事をこなせているのは、どこか人を惹き付ける人柄だからだろうか。
そんなことを思っていると、「それに」と、黄緑さんが珍しく真剣な声を出す。
「それに最近は物騒だから……」
「兎に誘われた人ならざる者、か……」
印象的だったフレーズが嫌でもが口をつく。
首に掛けた銀の十字架が、キラリと光った。